魅せる戦い
獣人型の異能者。
いわゆる変化系の異能は脅威度が高い。
強化系異能とは異なって、身体能力の総合値が跳ね上がるだけでなく、視覚・嗅覚・聴覚・反応速度に加え、通常の人間では対応できないレベルの戦闘直感を持ち合わせている。
そして、ジャッカル。
こいつはリベレーターとして、有名な人物でもある。
新人狩り。
多くの新人ヒーローたちを襲撃しては勝利を収めている。
獣人系の異能者として、経験値も高い。狡猾にただの暴れる獣じゃない。動きに迷いがなく、判断が速い。
何よりも、経験値による自信を持って間合いを図っている。
攻撃は破壊力を狙いながらも、防御の構えを崩さない。
実戦の場数を踏んだ者の、戦い方だ。
「……だが、それでも――俺は、先にいる」
装備が振動する。視界の奥で、時が加速する。
異能を発動して戦闘準備に入る。
タイムアタック。
予知能力は、十秒先の未来が視えている。
だが、未来とは常に変わるものだ。
その変わる未来に合わせて、動けるように訓練を積んできた。
誰も俺の異能を知らない。そして、知ったとしても常に未来を見て動けるのは俺だけだ。
その間に相手が何をするか、どこに動くか、どこを攻撃するか……すべてがわかる。
ジャッカルが飛び込んでくる直前、俺は一歩踏み込んで、異能を発動した。
視界が一瞬、青白く反転する。
彼が左から跳びかかり、右肘で打ち下ろし、着地の瞬間に回し蹴りを入れてくる。
未来視が脳裏に過ぎる。
その一手一手が鋭く、重い。どれもが一撃でダメージが大きい。
だが……読めている。
俺は現実に戻り、わずかに身体をずらす。
そして、予知した通り、ジャッカルが跳び込んできた。
「喰らえッ!」
叫び声と共に振るわれる爪。
その爪が、僕の仮面のわずか数センチ手前で空を切る。
そして、同時に僕の拳が、彼の腹部に突き刺さった。
「がはっ……!」
決まったな。予知から逆算した一撃。
避けるのではなく、そこにいることがわかっているからこそ撃てる、理詰めの必中。
「……ジャッカルだったか? 新人の一撃はどうだい?」
俺は一撃を当てただけでは終わらない。
踵を返し、すぐさま背後に回り込んで蹴りを叩き込む。頭ではなく、右肩の関節。
獣化で強化された筋力を封じるための、緻密な一撃も怠らない。
俺は強化系の異能じゃない。
だからこそ、サブミッションのような相手の力に負けない格闘術を習得しなければならなかった。
ジャッカルの肩を外されたことに驚いて床を滑るように逃げる。
「てめぇ……何だその動き……!」
「うろたえるなよ。狩る側の動きなだけだ。お前も何度も経験しているだろ?」
「くっ!? 俺が狩られる側だっていいテェのか!!!」
俺は戦闘様異能であるタイムアタックを再び起動する。
目に映るのは、また十秒後の未来。
ジャッカルは痛みを堪えて跳びかかる姿が浮かび上がる。
左脚で地を蹴り、鋭く右の鉤爪を突き出す。
そこへ、観客の少女が逃げ遅れて転倒する。
「……そうか、そっちも使う気か、良いヴィランじゃねぇか! くくく、楽しいなぁ〜」
俺とジャッカルの戦闘は十分に見応えがあるものになっているだろう。
だが、そろそろ観客は飽きてくる。
ジャッカルは良い演出を考えてくれているようだが、観客のそれも子供に手を出すのはいただけないな。
予知終了。未来から現実に帰還。
すぐさま少女の前に滑り込み、ジャッカルが跳びかかる前に、強化異能にも対抗できように俺が作った武器型AGでジャッカルを吹き飛ばす。
「ガハッ!? また、しかも……グッ、今度のはヤバい一撃じゃねぇか」
ジャッカルは自分の胸元を押さえる。
そこには、AG武器によって付けれた火傷の後が残っている。
今回は、ファイアーブローに合わせて、俺の武器も炎を題材にしてきた。
「どうした逃げないのか?」
蒸気が爆ぜ、俺の掌底がジャッカルの顎を撃ち上げる。
「ぐぅぅっ!?!?」
その巨体が、空を舞った。
着地と同時に、ジャッカルの背後に回り込む。
「……どうした? ヴィランなんだろ? お前の悪の美学を示してみろ」
挑発混じりに呟いた声に、ジャッカルの殺気が弾ける。
「てめぇ……見えてんのか!? 俺の攻撃、なんで全部先回りされんだよ!!」
予知とは、因果をねじ曲げる力ではない。
初撃に関しては、来るとわかっている。
その攻撃を外す程度の戦闘経験を俺は積んできた。
どんなに速くても、重くても、予知された攻撃は無意味だ。
「……面白れぇ」
ジャッカルの口元が歪む。
「お前、ただのヒーロー崩れのヴィランかと思ったが……その能力、使いこなしてるな」
目が、変わった。殺気。
ある感情が立ち上がっていた。
「逃げないで、立ち向かうか……。いいな、お前! ただの雑魚として終わらせるのが惜しい。だが、お前が獣の本能で動くなら、俺はそれを十手先まで読む。だけど……」
未来を読む者と、本能で戦う者。
力の正面衝突なんて興味はない。
どこまで行っても俺がしたいことは目立つことだ。
そして、このイベントの視線はすべて俺たちに集まっている。
「リベレータージャッカル! 確保します!」
ガーディアンたちが戻ってきて、ヒナの声が響く。
残念ながら、タイムリミットのようだ。
「ジャッカル。俺の見せ場を作ってくれてありがとう。さらばだ!」
「なっ!? テメェ!」
「逃がさないわ! シンクロノス! あんたにも話を聞かせてもらいたいの!? 止まりなさい!」
俺はすでに未来を予知して、ガーディアンたちの動きを避けて用意していた場所へ移動する。
「俺はヴィラン、シンクロノス!! 目立つことを悪の美学とするものだ!」
ヒーロー、ガーディアン、リベレーター、テレビ関係者に、観客まで俺一人を見ている。
最高に気持ちいい瞬間。
「また会おう!」
俺は全員の見ている前で姿を消して、脱出を成功させた。
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