新人狩りのジャッカル

《side:黒瀬レイヴ》


 解放軍セントレアには、定期的な会議あり、各部署の課長クラスが集まって、社長、副社長、専務、部長である四人の幹部の前で次の目的や、今度の方針を話し合う。


 そして、秘書課課長である私も社長のお茶や給仕を行いながら、会議に参加していた。


「今回の議案として、我々が自由都市を手に入れるために、何をするのか話し合う」


 セントレアに在籍する異能者は、変化型の異能者が多い。

 特に動物ズー系の異能者であり、動物の本能に引きづられやすいと言われている。


 そんな会議の中で、一人の痩せ型の男性が挙手をする。


「ジャッカルか? 何か提案があるのか?」

「はい、社長。最近、二人の新人ヒーローが何かと話題に上がっています。実力もあるのでしょうが、所詮は新人。今のうちに壊しておいた方が良いのではないでしょうか?」


 本名:犬築庄イヌチクショウ


 ジャッカルのコードネーム通り異能は、イヌ科の野生動物に変身する。


 見た目はオオカミを小さくしたような姿で、性格的には漁夫の利を狙ったり、弱った獲物を襲ったりする卑怯者。


「うむ、悪くはない。できるのか?」

「お任せを」

「いいだろう。今回の現場は、ジャッカルに一人する。ターゲットは新人ヒーロー二名。こちらの邪魔になる前に排除して、こちらの解放軍としての意志を政府に訴える」

「「「はっ!!!」」」


 社長が、今後の方針を決めれば、作戦会議が終わりを迎える。


 朝から、喉の奥に引っかかった棘のような不快感があった。


 案の定だ。


「レイヴ。次の現場の指揮官は俺様だ」


 口角をいやらしく歪めた男が、私の前で得意げに胸を張った。


 ジャッカル、セントレアに所属する獣化系異能者、狼型の変異種。


 とはいえ、力も統率力も中途半端で、社内ではせいぜい小物狩り専門の烙印を押されている男だ。


「……聞いてないけど」


 淡々と返すと、ジャッカルは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「はっ。社長から直々の命令だ。新人ヒーローを潰すには、オレみたいな切れ者が必要ってな」


 舌っ足らずにそう言って、肩をすくめる。


 その視線が、無遠慮な獣のように、私の胸元に泳いだ。


 白いブラウスの上から、じろじろといやらしく舐めるような視線。


 あからさまな痴漢行為に、私は一歩も引かなかった。


 むしろ、表情を変えずにその視線を受け流し、心の中で蔑みを深める。


 異能の力にかまけて、まともに戦ったこともない腰抜け。


 敵に牙を剥くよりも、同僚の女を狙うことでしか存在感を示せない下劣な男。


 こんな奴に何を期待しろというのだ。


 私が一歩近づくと、ジャッカルはぴくりと肩をすくめた。


 心底、情けない。


 この手の男は、正面から睨まれると腰砕けになる。


 私は冷ややかに目を細め、低く囁いた。


「新人しか相手にできない負け犬が、何を吠えてるの? あなたよりも、最近話題のシンクロノスの方が興味があるわね」

「……っ!」


 ジャッカルの顔がみるみる赤く染まる。


 怒り? 恥辱? それとも劣等感? どれでもいい。


 私は無言で踵を返した。


 腐った肉のような男の気配を、これ以上近くで嗅ぎたくなかった。


 背後で聞こえた、ジャッカルのかすれた悪態も、ただの雑音だ。


 こんな連中に期待なんてしてない。


 私はただ、己の力で道を切り開く。


 それが、セントレアのクローレディーである私、黒瀬レイヴの矜持だ。


 誰にも縋らない。

 誰にも媚びない。


 次の戦い。本当に見るべき存在は、別にいる。


 ……シンクロノス。あなたはどうするのかしら? どこに現れて、どんなことをするの?


 シンクロノスに渡されたAGを握りしめる。


 今の私は明らかに力が強くなっている。だけど、AGの性能にばかり任せているような状態だ。


「まだまだ性能に合わせて私自身をレベルアップさせなければならないわね」


 私はジャッカルにも、シンクロノスにも構っている時間はない。


 それでも、あの仮面の悪党が、どこでどう動くのか興味を引きつけられる。


 間違っても、あんな腰抜けの猿芝居になど、興味はない。


 

《side:犬築庄ジャッカル


 今回の作戦は、完璧だ。


 オレ様はニヤつきながら、ポケットの中で何度も小さなメモを撫でていた。


 ターゲットは、新人ヒーロー二名。それと、シンクロノス。


 羊ノ家のガキと、拳に火を纏うイケスカないガキ。

 それに黒瀬が気にかけているシンクロノス。


 新人の癖に許せねぇような。


 最近ちやほやされてるだけの青二才共を一掃してやるよ。


 正面から当たれば俺様の異能ジャッカル・フォームに敵うわけがねぇ。


 こっちは群れを率いて奇襲できる。動物の本能だ? 狡猾さだ? ククク……まさに俺様にぴったりだろうが。


「これが成功すりゃあ、社長の覚えもめでたくなる……」


 鼻を鳴らし、ニタニタと笑う。


 いや、それだけじゃない。


 オレ様には、もっとデカい夢がある。


 あの女、クロウ・レディー:黒瀬レイヴ。


 セントレアでも飛び抜けて美人で、社長直下の秘書課課長。年齢十九歳にしてあの実力、あの色気……。あの冷たい目で睨まれるたびに、ゾクゾクしてたまんねぇんだよなァ。


 オレ様が今回、大手柄を立てりゃ。くくく、クロウもオレ様を見直すに違いない。


 バカにしていた態度も、ツンケンした態度も、きっと消えて今度は、オレを頼りにして甘えてくるはずだ。


「ふふっ……ふふふ……」


 誰もいない地下通路で、気持ち悪い笑い声が漏れる。


 頭の中には、ありえもしない妄想が広がる。


 作戦が成功した後。社内パーティーで酒に酔ったクロウが、しおらしくオレ様の前にやってきて、


『今日のあなた、本当にかっこよかったわ……』


 なんて耳元で囁いて。

 ほろ酔い顔で俺に抱きついて。

 あの細い腰を、この手で掴んで。


「ぐへへへっ」


 口元がだらしなく緩む。


 オレ様は手に持ったミッションシートをぐしゃぐしゃに握りしめた。


(絶対に、絶対に成功させる!)


 羊ノ家煌? 穂村勇気? どっちもまとめて、今夜で終わりだ。


 邪魔なヒーロー気取りをぶち壊してやる。


 オレ様の、オレ様だけの、最高の栄光のために!!!


 その時、背後でゴミ箱をあさるネズミがガサガサと音を立てた。


「ビクッ……!」


 思わず飛び跳ねるオレ様。慌てて周囲を見回し、誰もいないことを確認する。


 クソッ。こんなところ誰にも見られてねぇよな? ネズミ一匹にびびる自分に、軽く自己嫌悪を覚えながら、また歩き出す。


 絶対に、今日は成功させる。


 社長に認められるためでも、会社のためでもない。


 すべては黒瀬レイヴ、お前をオレ様のモノにするためだ!!!


 ジャッカル、覚醒の時だぜ!!! くくく!

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