始まり
崩壊しかけた旧式ビルの残骸を、俺は重機でぶち抜いた。
鈍い音と共に、鉄骨とコンクリが崩れる。
舞い上がる粉塵が視界を遮り、焦げた金属の匂いが鼻についた。
煙が晴れるのに合わせて、ポーズを取る。
「……誰……?」
「俺が誰かって?」
スーツのスピーカーをオンにして、変声機で低くした声。
崩壊した瓦礫に潰された女の子に、名乗りをあげる。
「決まっているだろ。俺はヴィランだ」
「ヴィラン!」
「そうだ。救助活動じゃない。ヒーローのお嬢さん、悪いが俺が目立つために利用させてもらうぞ」
「ヴィランが目立つために私を殺すのですか?!」
白いユルフワ髪を持つ美少女ヒーロー。
彼女を殺せば確かに目立つかもしれない。
だが、それは俺が望む目立ち方じゃない。
「殺す? 冗談だろ? それのどこが目立てる? 俺がやるのは、もっとインパクトがある初登場の演出だ!」
「初登場の演出? ヴィランが、私を殺さない? 本当に目立つために、こんな危ない場所に来たというのですか……」
今にも崩れそうな旧ビルに挟まれたヒーロー。
リベレーターの罠にハマった少女は、眉をひそめる。
まあ、理解できないだろうな。
俺にとっての悪の美学。
誰かに理解されようなんて思ってねぇよ。
真紅のバイザーに、漆黒のスーツ。最高に活かす姿だろ。
【AG-Ω《アビリティ・ギア・オメガ》】
俺専用にカスタマイズした最高にイカしたパワースーツだ。
「くくく、理解できないって顔だな。俺は、今からお前を助ける」
「はぁ?! ヴィランが私を助ける? なんの意味があるのですか?」
「それがここでは最高に目立つ方法だってことだ」
いいねぇいいねぇ! その驚く顔を見れて最高だよ。
「安心しろ。俺はただ自分が一番【目立つ場所】を選んだだけだ。この場で最も注目される行動が、たまたまお前を助けるってだけの話なだけだ」
俺は口元をニヤリと上げて悪役の笑みを作る。
助けるからって、気取ったヒーローぶるつもりはない。
俺が欲しいのは、拍手も、賞賛も、恐怖も、すべてを含んだ【注目】だ。
【AG-Ω】のブースターを使って、俺は一気に瓦礫を吹き飛ばして、彼女を引きずり出した。
あの時のヴィランのように、悪の美学を体現する。
あと一歩遅ければ、潰れていただろう。
救助完了。だが、ここからが本番だ。
「立てるか?」
「……無理よ。私の足は瓦礫に挟まっていて折れているのよ」
「了解。だったら、お姫様抱っこだな」
軽口を叩きつつ、俺は彼女を抱き上げた。
「ヴィランに助けられるなんて!」
強引に抱き上げると、困惑しながらもほんの少し頬が赤くなったように見えたが、気のせいだろ。
ビルの外周に出た瞬間、数名の黒装束が降下してきた。
反政府を唱える
ヴィランも随分と変わった。いや、俺はこいつらをヴィランとは認めていない。
こんな姑息な方法で悪を成そうとするなんて、本当の『悪の美学』を何もわかっていない。
ヴィランを名乗る能力者たちは、俺の能力を使って、悪の美学を持った者たちのことだ。
そこには自由があり、美学がある。
だが、今のヴィランと呼ばれるリベレーターは力のために暴れてる連中だ。
それは本物のヴィランじゃねぇ!
「そいつを渡せ。羊ノ
「お前はバカなのか?」
「なんだと!」
「こいつは俺が目立つために必要な装置だ。断るに決まっているだろ!」
堂々と宣言する。
チラリと空を見る。注目を集めているぞ。
全世界に放送されるヘリが俺たちをカメラに捉えている。
「お前、政府の回し者か?」
「いいや」
「じゃあ、十二支家の犬か?」
「違うな。俺は俺だ」
「……なら、なぜ俺たちリベレーターの邪魔をする? ヴィランの邪魔をしてお前にどんな得がある?」
俺は彼らの包囲を一瞥した。
視界の端に、ノイズのような映像が浮かぶ。
AG-Ωが、俺の異能力を強化して発動する。
【10秒後の未来】
奴らの動き、射線、攻撃のタイミング。
全てが見える。
「そんなの決まってるだろ? お前たちが本物のヴィランじゃねぇからだ。悪ってのは、美学を持ってるもんだ。そして、俺は悪の美学を持つヴィラン。この世界で一番目立つ場所を追い求める。そしてここが一番目立てると、俺の異能が言ってんだよ」
ヒーローを地面に寝かせると、前に出た。
「待って! 危険よ! 相手も異能使いなのよ! 一人で相手するなんて! もうすぐヒーローが来るわ!」
「黙って寝てろ。ここは俺の見せ場だ」
「ふざけるなよ! 貴様一人で何ができる?!」
リベレーターたちが、AGを起動させる。
武器となる電磁斥力を腕に集中させ、俺に殴りかかってくる。
遅いな。
予知で見たとおり、タイミングは完璧だ。
俺はステップで回避し、カウンターで膝を叩き込む。骨が軋む音。
【AG-Ω】は、異能力を強化するだけじゃない。
俺自身の身体能力も向上させる。
相手のデバイスを破壊するのは、俺にとって一番得意なことだ。
次いで、ブレードモードに変形した【AG-Ω】の腕で斬り払う。
数秒のうちに三人を沈めた。
「な、なんなんだこいつ……」
「新手のヒーローか?」
「いや、見たことない装備だ……」
俺の口角は自然に上がっちまう。
ここだ。この瞬間が、俺の一番の見せ場だ。
上半身を起こして心配するヒーロー。
倒れるリベレーターたち。
ヘリのカメラが俺を撮っている。
だからこそ、言ってやる必要がある。
最高に活かしたポーズと決めて……。
「覚えておけ。俺の名は『シン・クロノス』」
マスクを指で軽く弾く。
「どこにも属さず、唯一無二の悪の美学を持つヴィラン。覚えておけ、俺は一番目立つ場所に現れる」
「……シン・クロノス」
ヒーローが、体を起こしてその名を呟く。なぜか、敬意に満ちた声音なのは気のせいだろう。
「……あなたはダークヒーローを名乗るのですか?!」
「ヴィランだって言ってるだろ……!」
そのまま異能力を駆使して、全員を倒した。
「グフっ! 俺たちの仲間がお前を倒す!」
リベレーターの捨て台詞を尻目に、俺はヒーローを抱き上げて観客の前に姿を現す。
「あいつは誰なんだ?」
「たった一人で、ヴィランを倒して、ヒーローを救っちまったぞ」
観客が俺を見ている!!!
最高だ。この瞬間のために俺は生きている。
俺は安全になった場所で、ヒーローを降ろした。
だが、ゆっくりしていればすぐに他のヒーローがやってくる。
だから立ち去るのみだ。
「待って! あなたはこれから何を成すのですか? あなたの目的はなに?」
くくく、いいぞ。ヒーロー、あんたには才能がある。
俺を最高に目立たせる才能がな。
「ヴィランには、悪の美学が必要だ。だから、世界に教えてやる。悪の美学を持たぬ者を排除し。自由と最高に目立つ場所に俺は現れる」
「悪の美学? 自由と目立つ?」
理解できないなら、考えろ。
考えれば考えるほどに、俺は記憶に残って、目立つことになる。
言葉は少なめに。これ以上は必要ない。
これが一番目立つ立ち去り方だ。
ふっ、最高にかっこいいだろ。
♢
そして……この日の事件の報道は、予想通りSNSを駆け巡った。
《リベレーター組織による破壊工作過激化》
《新人ヒーローを始めたばかりの、ヒーロー高校の生徒、十二支家令嬢を拉致未遂事件発生》
《現れた謎のヒーロー? それともヴィラン? その名は【シン・クロノス】?!》
俺の名前が拡散されて、目立っている。
「くははははっ……! 誰よりも悪くて、誰よりもカッコいい。これが、俺の美学だ!!」
俺は一人、感動で脳汁を出して、気持ちよく雄叫びをあげた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
ここまでしか思いついてません!w
明日は、多分、投稿しない。
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