双子の姉は双子竜に溺愛される(愛するとは言ってない)〜容姿端麗な妹は自分が選ばれると周りから言われているので私はお暇してやりたいことをしに行きます。お客様、押しかけられても困りますのでご遠慮願います〜

リーシャ

第1話

この国は竜に愛される者が多く発見される。


遥か昔から、運命の花嫁や花婿と呼ばれる存在。


竜人、または竜族と呼ばれる単種が居て、その者らが人間の国へ来る目的でもある。


いわゆる、運命の異性。


なので、どの貴族、平民であろうと子沢山が推奨された。


万が一、長子が選ばれてもいいような制度も整備されている、という優遇っぷり。


たくさん産むことを推奨されはするが、すべての子に平等な愛を渡すかと言われればそうでもない。


そんな制度ができたことにより、人間の間で優秀、または外面が美しいものが運命に選ばれやすいのではないか、という憶測の元、期待をその子に向けるという無慈悲な淘汰が行われる。


無論、命は取らない。


だが、かける愛情や待遇の差は起こる。


平民の家に生まれた双子の姉は、まさにその制度に目が眩み、歪んだ思想に人生を曲げられている最中だった。


平民の家とはいえ、平民に似つかわしくないほどの美人に生まれた双子の妹。


双子なのに瓜二つじゃない。


両親の愛情、および将来竜族の運命に選ばれるかもしれないというもしも、の弊害。


そうじゃなかった方の姉は、毎日の妹へのおべっかにウンザリしていた。


愛を求める年齢ではなくなったし、愛を求めるのはずっと前に辞めた。


竜族、運命、選ばれる、美しい。


この単語に嫌悪さえ感じた。


嫉妬ではなく、毎日勝手に耳が拾うので、聞き飽きたというか、聞きたくないほど、聞かされてきた。


街でも近所でも、街一番と呼ばれているほど妹は目立つ。


周囲が持ち上げたりするから、両親も妹も、そのほかの兄弟も無駄に期待してしまっているのだ。


自分なりに調べた、サティラムは。


「別に容姿については、書かれてない」


というより、竜族に愛され、大切にされる中で身も心も美しくなりましたとさ、という記述が多い。


それ以外は半々。


元々、近所でも評判の娘、息子、ともあった。


評判でもなんでもない、目立たない子であることも可能性があったので、やはり美醜は関係なく、心が美しいから選ばれたとも書いてない。


心が美しくない、とは書かれないだろう。


書いたら片割れの竜族の報復などがあるかもしれないし。


誰も書かないと思った。


サティラムは盛り上がる家族と離れようと、知識をつけるために本屋や本を借りられる施設に、出入りする。


「はぁ、くだらなすぎる」


冷遇というほどでも無い。


平民なら普通の家庭。


ただ、みんなで妹を持ち上げて竜族に発見してもらえるまで支えようという、その空気が大嫌い。


放置されている自分が可哀想で、その自分を助けるために奮起する。


例えば誕生日。


何が起こるか、何があったのか言わずともわかるだろうが。


結論をいうと、みんな妹にはおめでとうと言うが、サティラムには一言も言わない。


双子は同じ誕生日なのに。


プレゼントもないときや、あっても妹よりも俄然劣る品物。


貰えるだけでも云々と言われるかもしれないが、そもそも気持ちが籠ってないのが丸わかり。


妹には楽しそうに渡すのにサティラムには、ぽんとおざなりにこれ、と渡すのみ。


おめでとう、ありがとう、そのやりとりがない。


それはお店に行った時のお土産を渡すことと、なにが違うのだろう。


おまけに毎年もらえるかは、その時のくれる人の記憶力頼り。


もらえない時の方がまだマシ。


適当に買ったものを貰っても、プレゼントを渡す義務感ばかり感じる。


誕生日だからプレゼントを渡す。


どんな人間だろうと、プロセスを知っていれば誰だってやること。


朝起きたらおはよう、というのと変わらない。


笑顔は妹に向けながら渡されるそれ。


馬鹿みたい。


喜ぶ自分が馬鹿だろうに。


だから、プレゼントというより妹のプレゼントを買いに行った時のお土産だと思うことにした。


実際、そうだろう。


ついでに、あの子のを買うから、もう一人の分も選んでおこうってこと。


おまけだ。


商品を買うと付いてくる、付属品を渡されて、嬉しいわけがない。


いつも見当ハズレのものしかもらえない。


自分で買えばいいだなんて、思われるかもしれないけど。


でも、期待っていうのはどんどん削れていく。


今や跡形もない。


もうすぐ、独り立ち可能な年齢になる。


いそいそと準備を終えた。


その日の日付を指した瞬間、居なくなる予定。


指折り数える。


奇しくも、その年の誕生日は竜人が来ると話題になった日と重なった。


しかし、その日の朝が来る前にサティラムは家を出たのでその話が伝わることもなく街を出た。


「んー、いい天気」


清々した気分で肩を回す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る