第4話 小さな約束
「なんでアンタってガッコーにいるときずっと一人だったの?」
「な、ななななな! なんてことをおっしゃいますの!?」
アルマの歯に衣着せぬ物言いに、純蓮は信じられない言葉を聞いたような様子でわなわなと身体を震わせる。
ただ、そんな純蓮のことも気にせずに、アルマはなおも言葉のナイフを投げ続けていく。
「え、だってほんとのことだろ? 移動教室のときだって一人だったし、昼メシも一人で食ってたじゃん。放課後だってあの執事みたいなヤツの運転ですぐに家に帰ってたし。もしかして……、友達いねーの?」
何も、言葉にすることすら出来なかった。純蓮に友人がいないのは、紛れもない事実だったから。
穴があったら入りたい。無かったとしても、掘って自分を埋めてほしい。
純蓮はすぐさま天蓋付きのベッドに滑り込むと、頭から掛布団を被り叫んだ。
「そんなこと、ぜんぶ忘れてくださいませっ!!」
もこりとした布団の塊になってしまった純蓮を見てか、アルマは焦ったようにフォローを始める。
「い、いやほら別に一人が悪いって言ってるわけじゃねーっていうか、友達いなくたってべつに死にはしないっつーか……」
しかしそのフォローは明後日の方へと向かい、むしろ布団越しにもぐさぐさと純蓮のことを刺していく。なおも縮こまっていく純蓮を見て、アルマはそうだ、と声をあげる。
彼はにかりと笑顔を浮かべると、純蓮にこう提案したのだ。
「それじゃあ明日、俺とどっか遊びにいこうぜ!」
「……え?」
アルマの突飛な提案に、純蓮はもぞもぞと布団の隙間から顔を出す。
「アルマさんと……、ですの?」
「おう! ほら、明日はちょうど土曜だし。友達と遊んだりして楽しかったら、殺してほしいなんてもう思わなくなるかもしんねーだろ?」
「お友だちと……あそびに」
純蓮の瞳に光が戻ってきたのを確認して、アルマはほっと顔をほころばせる。
「まぁ俺じゃお嬢サマみたいなのと友達なんて釣り合わないかもしんねーけどさ。予行練習みたいなのだと思って、な?」
いいだろ、と笑うアルマに、純蓮はふわりと笑みを返す。
「それは……、楽しそう、ですわね」
「だろ? よし、じゃあそういうことで。約束な!」
にっと笑ったアルマの小指が、純蓮に向かって差し出される。
『ね? 純蓮、約束だからね』
瞬間脳裏に浮かぶのは、遠い昔の懐かしい記憶で。
「……おーい、お嬢サマ? まだ怒ってんの?」
ぴたりと動きを止めた純蓮の顔を、心配そうにアルマがそっと覗き込む。
「い、いえ! 怒ってなんていませんわ! 約束……ですわね」
差し出された小指に、そっと純蓮も指を絡ませる。そんな純蓮を見て、満足そうにアルマは笑った。
「よっし! んじゃ、明日の十時に駅前で集合ってことで!」
また明日な、と純蓮に向かって手を振りながら、彼は窓からひょいと軽く飛び降りる。ぎょっとした純蓮が急いで窓に駆け寄り部屋の外を覗き込んだものの、すでにアルマの姿は夜の闇の中に消えていた。
「……な、なんて常識外れの方ですの?」
ぽかんと口を開いたままで、純蓮はぼやく。ただ、しばらくしてそんな動揺から立ち直ると、窓の外の暗闇に向かって彼女は小さく微笑んだ。
「また明日、ですわ。アルマさん」
ぽかぽかと熱をもったその言葉は、純蓮の胸を暖かく照らしたのだった。
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