第5話 光の王は見守る

「くーくーん!お客さんよ〜」


 部屋の外で母さんの声が聞こえた。

 今日は休日。朝から誰かが来たというのだろう。

 なんて察しはついているのだけれどね。


「今行くー!」


 着替えて部屋から出て玄関に行く。


「よっ、来たぜ!」

「うん来ていいとは言ったけど思ってたより早いんだよね」

「そうか?あっ、こっちは弟!よろしくな〜」

「よろしくね蒼くんだったかな?」

「はい!」

「そんな固くならなくていいよお兄さんと同じように話してね」


 なんか前の蒼と同じ顔だから気さくに接してもらわないと不思議な感じがする。

 まあ、そもそも今の蒼なんだから同じ顔なのは当たり前か。


「もう中入っていいよ。母さんがなんかソワソワしてるし」

「だって、くーくんのお友達でしょう?おもてなししなくっちゃ!」


 変わらないなと思う。初めて蒼たちを連れてきた時ももてなしをしなきゃって嬉しそうだった。 

 そんな母さんをもう一度見れて良かった。


「オレは水鳥紺っす!クロの親友!よろしくお願いします!!」

「あらあら親友!!嬉しいわ〜くーくんとこれからも仲良くしてねえ」

「うっす!!」


 母さんと紺がなぜか握手を交わしている。


「こーん、蒼くんが置いてけぼりになってるから」

「あっ、ごめんなアオ〜」

「ううん兄ちゃんが笑ってるの見れるの嬉しい!」

「聞いたかクロ!うちの弟まじいい子!」

「聞いたよ。言っとくけどうちの弟もいい子だからね」


 どうやら紺も弟のことを溺愛しているようだ。

 俺だけじゃなくて良かった、のかな。


「くーにい、なんかさわがしいけどどうしたの?」

「おはよう白。今な俺の友だちが来てたんだ。白と同い年の子もいるぞ〜」


 白が出てきたので俺は白を蒼に近づけた。

 俺が前で蒼に会った時とは随分と違う出会い。


「あ、え、えと......」


 白は俺の後ろに隠れた。

 思っていたとおり人見知りが発動したらしい。

 けれど......


「オレは水鳥蒼みずとりあおい!よろしくな〜」


 俺の後ろに隠れた白をひょっこりと見て蒼が笑う。

 蒼にとって距離を縮めるのは容易なこと。


「おれは空渡白......よろしくね」


 警戒心なく話しかけてくる相手には警戒心は解かれる。

 白も俺の後ろからゆっくりと出てきた。

 そして名前を言ったあとに二人は楽しそうに笑い合って話し始めた。


「どうしよう可愛すぎない?」

「そうだなアオが楽しそうにしてるの可愛いな!」

「いやいや白でしょこれは譲れない」


 二人の様子を見ながら俺たちも話す。

 

「まあどっちも可愛いってことでいいんじゃね?」

「意義なし」

「クロも弟大好きなんだな〜」

「紺もだとは思わなかったよ」

「いや前の自分なのは分かってけど、こうさ兄ちゃんっていう響きって良くね?」

「分かる!」


 俺は勢いよく頷いた。

 くーにいって呼んでって言ってからまたそうやって呼んでくれるから本当に嬉しい。


「オレたちがまた会ってこんな話してるってもうわけわかんねえな!」

「人生はわかんないことだらけだからね。これからのことも話し合おうね」

「だなー」


 人生は分からないことだらけ。それを前で嫌というほど学んだ。だから今世は後悔しないように、誰かの口癖だった全力という言葉を大事に......全力で進んでいきたい。そう思う。


「とりあえず今は、この光景を目に焼き付けよう」

「そうだな!」


 こうして俺と紺は少しの時間蒼と白を見守ったのだった。

 

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