きみのための命
Monaka
Episode.1 九死に一生
朝起きて直ぐに召集令がかかった。
'"…… , G2-37 , G7-19 , G3-01 , ……。軍舎に集合、出撃準備せよ"
「もう、まーた戦わないとだめなの」
そんな独り言を呟いて、着々と準備をする。薄灰色の軍服を着て、第7等級の剣士であることを証明するバッジを付ける。そして、剣を手に取った。
等級とは、その名の通り強さのことだ。数字が小さいほど強く、大きいほど控えめな力である。私たちにも敵にも共通する区分だ。
等級がひとつ離れるだけでも、かなりの力量差になる。噂では__ 同じ等級の者が10人集まって、ようやく1つ上の等級の者に並べるかどうか。ただ、即興で考える戦略の合理性などで1つなら覆せる、という人もいる。私もその内の一人だ。
ふと、こんなことを考える時がある。7等級の私と最上位の0等級のすごい人の間には、どんなに大きな壁があるのだろう。……想像がつかない。
その上0等級に位置する者は、神に匹敵する力持つという噂まである。妄想だけでもとてつもなく怖いのだから、そんな人と会ったら気絶するかもしれない。
×
「今日の敵は4〜7等級だ。手強いから、低等級の者敵を選んで戦い、安全に気をつけるように! では、行くぞ!」
『うおーーー!!』
「う、うおー!」
最前線に突撃する、血の気の多い人達に雄叫びにテンションを合わせるのは大変だ。ただ、今日は気を抜いて脱力して行くという訳にはいかない。いつもより力を込めて叫び、戦闘へ臨むことにした。
「やぁっっ……! うおーーっ!!」
いつもより手応えが強いが、何とか戦闘を済ますことができた。
軍服には、敵との等級差を可視化出来る魔法が編み込まれている。敵を見れば、数字が浮かび上がってくる。だから、隊長が言うように適切な相手だけを選んで戦うことができるのだ。
「なんだ、結構なんとかなるじゃない。隊長が言ってたこと、ただの噂とかだったのかなあ」
しかし、いつもと何かが違う気がした。
(この違和感…… なんだろう)
目を閉じて、他の感覚を研ぎ澄ませる。聞こえるのは鳥のさえずりと木々が擦れ合う音だけ。いつもなら聞こえるはずの声が、聞こえなかった。そして__ 人間の血の香りを、かすかに感じた。
「ちょっと待って……!? いつもなら後援が来れてるはずなのに! それに一緒に来てた子たちは!?」
嫌な予感がしてきた。考えられるのは、説明より強い敵が来たこと。
その時、大地が轟いた。とてつもない気配を感じる。冷や汗が止まらない…… 大きな影が、やがて私の全身を包んだ。
そっと後ろを向いて、見る。数字は、5__
「こんなの勝ち目ないよっ... 誰にもみられないで殺されるなんてっっ……!!」
そう思ったのも束の間。誰かが言う。
「我が命を贄として、この請願を顕現せよ」
目を閉じているというのに、太陽を直接見ているような眩しさが目に刺さった。火山にいるような熱さを感じた。何かが焦げた匂いがした。叫び声と、数多の雷鳴が聞こえた。
目を開けると、さっきまでいたはずの敵はいなかった。そこで、ようやく誰かが敵を葬ってくれたのだと気づいた。
(助かったの......?)
分からなかった......けど、心臓の音は聞こえるし、手先の感覚も分かる。夢では無かったようだ。ホッと一息付き、目線をあげると銀色を纏った少女がいた。
「やあ。初めまして、エスタちゃん。アレフ=ファルカだ。」
「え、なんで私の名前を?」
「同じ軍の仲間だからな。それに、その名札を見れば間違えようはない」
「たしかに...... それはそうと、助けてくれて本当にありがとうございます」
「いえいえ、君を助けられて良かったよ。それじゃあ」
そう言い残して、銀髪の彼女......ファルカは何処かへと姿をくらましてしまった。昼12時の空気に、彼女の銀色に光る後ろ姿はよく映えていた。
×
彼女は「同じ軍」と言っていた。つまりは、私と同じ理念を持ち、同じ立場にいる人間ということ。"かつて人類と文明を崩壊へと導いた生命体、《冥骸》を壊滅させる"__ これが、我らインファルナ軍の兵士の使命である。
(にしても、さっきの凄かったな)
私は剣の使い方だけを学んできたから、魔法についてはなんの教養も無い。それでも、こんな無知な私にもあの魔法はとてつもないと分かった。
魔法を使う仲間と共に戦うことはあるが、あそこまでの覇気を感じたことは記憶に無い。まるで禁忌魔法を使っているかのような。本当に雷神が目の前に居たかのような... そんな強大な力を感じた。
同年代に見える女の子だというのに、礼節も戦う力もあまりにも規格外だった。
(いつか、あのくらい強くなれたらいいなぁ……)
私は、そう深く感じた。
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