Ⅵ
ノイス中央駅の北西に位置する区域、フルト=ミッテの南部が、ニルとミヒャエルに割り振られた捜索範囲だ。二百年以上変わらぬ通りと、アンドロイドを始めとするロボット・AI産業により発展した近代化した街並みが折り重なる街区。
そして、区域内のフルター・ノイス・ヘルツ10が、旧ノイスヘルツ本社の所在地である。ノイスヘルツ・トゥルム炎上事件以降、常に厳重な警備体制が敷かれ、警察関係者であっても入場には事前の手続きとID認証が必須だ。
そのような重要犯罪に関係する建造物を保存し、管理し続けているフルト=ミッテおよびノイス中央駅周辺は、当然ながら警備も手厚く、警察のネットワークと常時接続された監視カメラが多数稼動しており、顔認証・歩容認証システムが搭載されたカメラも複数台稼働している。今朝がたシステムを確認した際にも、不審人物や不審物と思しき映像や画像、前科者の通行記録が大量に保存されていた。
大量のログから、システム上で既に問題がないと確認された記録を除外し、本任務と無関係な人物の記録を除外し、それでも残存した不審人物のログのうち、失踪事件と関連しそうな映像記録はフルト=ミッテの南部だけで三件存在している。
映像記録のうち二件が同一人物を映したもののようだった。背の高い細身の女性が映っており、先日目撃された失踪者の一人と特徴も合致する。
一致した失踪者の名前はモニカ・ゲゼル。九六年製の女性型アンドロイドであり、昨年の秋に教育期間を終えてからはクラブやライブハウスのパートタイマーとして働いていた。自身もバンドを組みボーカルとして活躍していたらしいが、先月の初め頃から行方がわからなくなっていた。プラチナブロンドを緑に染めた派手な長髪と、女性型にしては高い一.七六メートルの身長が特徴であるものの、このひと月の間、手掛かりは何一つ見つからなかった。ようやく見つかった足取りが、画廊『シュピヌネス』での遭遇と、今朝ノイス中央駅の高架下と付近の公園脇を通った映像記録である。
映像記録ではキャップを目深に被っており、派手な髪色を隠そうとしたようにも見えた。やはり、追われている自覚はあるのだろう。
旧ノイスヘルツ本社の近くにあるスーパーマーケットの駐車場の端を借り、ニルたちは車を降りた。フロントガラス越しに見えるよう紙面化した駐車許可証を置く。
「最新の映像が記録されたのは、近くの公共施設の傍を通るところで、時間は四時間前の朝五時。まだこの辺りにいると良いんですが……」
ここに来る前に旧ノイスヘルツ本社に寄り、警備から不審人物の記録がないか照会したが、空振りに終わった。
ノイエ・メンスハイトが、アンドロイドたちが人間と同じように感情を持ち、意思に惑わされる存在なのであれば、本社の占拠はアンドロイド至上主義者たちの士気が上がる。加えて、本社内には紙面化された証明書や社外秘の書類、アンドロイドやAIに関する研究結果が今もなお厳重に保管されている。ノイスに留まる一番の理由が、旧ノイスヘルツ本社の占拠ではないかと考えるのは自然な流れだった。
曇天の住宅街は閑散としていた。平日の日中ということもあり、出歩く人々の足取りは急いている。先週までは汗ばむ気温であったが、今日は久々に肌寒い。厚着をした通行人を記憶の中の失踪者と照らし合わせる。
「近くには郵便局や学校、政府機関もある。今カメラに映れば即座に私たちに通知が行く。それがないということは」
「私有地に隠れている可能性が高い。ですね」
ミヒャエルが荷物をまとめたのを確認すると、ニルは携帯端末で地図アプリを起動した。
戸建て、アパートメント、商業施設。すべて合わせると二〇〇棟以上ある。住人への聞き込みと注意喚起をした上で小道や敷地内の捜索。フルト=ミッテに振られた人員は北部も含めて一〇人程度。
「手際よくいきましょう」
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