Ⅴ
ニルたちも空いた駐車場にぽつんと置かれた銀の全自動運転車に乗り込んだ。
アウトバーンは一昨日の時点で終日検問を張り、鉄道の駅構内でも警戒を強化している。また、街路に設置された監視カメラの精査にも増員がかけられ、目視での警戒が続いている。不審者への職務質問や手荷物検査、身元の照会も徹底した。この二日間で目撃情報が数件と、カメラへの映り込みで足取りの一部を捉えることができ、少なくともノイスから出ていないことは確認済みである。
ドアを閉める一瞬、ニルは空を見上げた。曇天に紛れるように地上から生える、白い煙突のような建造物。
運転席で出発準備を進めるミヒャエルを見やる。陶器とも革製品との似つかない、樹脂の特殊な配合で製造された白皙に、厳つくは見えないのにしっかりとした線の骨格。背でぴっちりと編まれた深い赤髪は光の加減で茶髪にも見えて芸術品のようだ。
アンドロイドが人権を得た頃の最も古い機体は、美しい容姿をしていることが多かったという。まだ個性や多様性よりも工業製品として、人が作った作品としてどれだけの価値があるのかが重視されていたからだ。ノイスヘルツ社が初期に開発した機体とそのシリーズの型番は、特にその傾向が強かった。
ミヒャエルの容姿は、最初期に開発された機体NH-13型によく似ている。
それが、ニルの心に爪を立て、頭の中で警鐘を鳴らすのだ。
まだ配属されて一週間と少しになるが、彼は早くも隊内の信頼を得始めている。書類仕事はそつなくこなすし、元々大学で機体・情報技術を専攻していたこともあってITにも強い。その上、協調性もある。休日と外せない講義に出席する日を除けば、ほとんど毎日のように出勤して懸命に捜査に協力している。まだ学生の身分とはいえ、すでに即戦力として頭角を現していた。
これで彼がノイスヘルツ社製のアンドロイドでなければ、ニルも歓迎しただろう。人懐こく、素直に教えを乞う姿勢は好感が持てる。
「それじゃあ、出発しましょうか」
彼の灰褐色の瞳がニルを捉えて微笑んだ。やはり、よく似ていて吐き気がする。
ニルは首肯だけして、目を逸らした。
今日も、長い一日になりそうだ。
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