Ⅲ
近年、ドイツ国内ではアンドロイドの失踪事件が増加傾向にあり、特にここ一年は急激に増加していた。そのうち約六〇パーセントは無事保護されているが、〇.五パーセントは何らかの事件の被害者もしくは加害者として発見・確保され、残りの三〇パーセント強が未だ行方不明となっている。
とはいえ、親族や友人知人への聞き込みで失踪理由が明確になることがほとんどだ。人間関係や金銭トラブルなどを抱えるアンドロイドは人間と同程度の割合で発生している。
問題は失踪理由が不明確なケースが増えていることだ。人間関係にも特別問題がなく、経済的にも困窮しているとは言えないアンドロイドが、ある日突然姿を消してしまうのだ。昨年までは、聞き込みをしても理由がわからない失踪者は五人に一人程度だったが、先月に至っては九〇パーセントが失踪理由の不明な、謎の失踪を遂げている。
当然捜索は行われ、失踪したアンドロイドの顔写真やID、GPSなどの情報を提供してもらい、監視カメラや認証システムに形跡が残っていないかをスーパーコンピューターで解析、居場所の手掛かりが判明し次第、州警察を派遣し捜索および保護を進めた。
成果としては、半年の間にノルトライン=ヴェストファーレン州内で一一五人の行方不明者を保護した。だが、彼らは失踪の事実を覚えていなかったり、黙秘をしたりと原因究明には至らず。事件や事故による障害を疑ったが、検査を行っても記憶領域に異常は見当たらないという結果となった。
これらの失踪については、州警察も
そして人機総合警備部では、この数々の失踪事件がノイエ・メンスハイトと関連している線で捜査を続けていた。捜査には、人機総合警備部保安課にアンドロイド失踪対策本部が設立され、対策本部には第一、第二機動隊の人員が常駐、関連する業務の補佐を第三機動隊が任されていた。
業務の多くは失踪者の捜索と同様で、違うとすればノイエ・メンスハイトに関連する団体やメンバーの捜索と同時並行で失踪者の捜索が行われたことくらいだろう。それでも捜索は難航し、今まで失踪者たちとノイエ・メンスハイトとの繋がりは一切見つからなかった。
それが一変したのは、二日前のことである。
全自動で稼働していたノイスの監視カメラシステムに、失踪したアンドロイドの姿が三名確認された。全員が先月――六月のうちにノルトライン=ヴェストファーレン州内で失踪したアンドロイドであり、失踪理由も共通点もない三名であった。システムで自動検出された何百という膨大な映像や静止画の中、精査を行った隊員が、失踪届が出されていた人物とカメラに映った人物の相似を発見したのだ。すぐに州警察に連絡をし、確かに失踪者であると断定され、警察が捜索にあたる運びとなった。
カメラに記録されたのは半日以上前である。すでに周辺にはいない可能性もあったものの、失踪していた三名はすぐに発見された。
場所は、シュテルン・ムナト通りにある住宅街の一角で、近くには噴水広場や運河の流れる公園がある、家族連れにも人気の土地である。通りにある小さな画廊から、三名の失踪者が出て来るところを警察官が発見した。
失踪していたアンドロイドの傍には二人のアンドロイドの男がいた。男たちは警察官を見るなり、懐から拳銃を取り出して発砲した。
幸い、男の持っていた電子拳銃であったこと、人間の警察官がすぐに気づいて盾となったことで被害はなかったが、使われた銃と人相、身体的特徴から、すぐに失踪者を帯同させていた二人のアンドロイドの正体が判明した。
彼らは、ノイエ・メンスハイトや関連するアンドロイド至上主義者たちに銃火器や違法電子製品を提供していた売人だったのだ。
現場に居合わせた警察官は、すぐに人機総合警備部に連絡し、第三機動隊が派遣された。
しかし、その場では彼らを取り逃がす結果となった。失踪者たちも逃走に手を貸したのである。その場にいた隊員たちの報告では、脅迫を受けていた様子はなく、売人に協力的であったという。
この一件を受け、
かくして、第三機動隊は失踪者の捜索に駆り出されることとなったのである。
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