Ⅷ
翌朝、ニルとミヒャエルは全自動運転車に乗り、ノイスへの帰路に就いた。早朝のアウトバーンは空いており、晴天に恵まれ乾いた道路を気持ちよく加速していく。
『共犯者の可能性か……。確かに、ヨナスが元々一般人で、ノイエ・メンスハイトと関わりがなかったのなら、手引きした人物がいてもおかしくないよね』
「ええ。ブレーメンにも彼らの手は及んでいるはず。州警察には監視カメラのデータ提供を依頼した。今日中にはデータが届くと思う」
『了解。マキジローは電子拳銃の捜査に掛かりっぱなしだし、他でどうにか回すよ。もちろん、ニルもやってよね』
「そのつもり」
『どうかなぁ、捜査となるといつも外に出っ放しじゃない』
車載スピーカーからロニーの少年のような声が響く。定期報告は昨夜のうちにクラウドに上げたが、あくまで聴取内容と家宅捜索の写真、押収品の報告のみだったので、所感も含めた報告を上げているところだ。エリカは不在である。報告はロニーから行うことになるだろう。
『そういえば、ミヒャエルは?』
「
助手席に目を向ければ、目を瞑り座席に体を預けるミヒャエルの姿。あの柔和な笑みが取り払われた横顔は大人びていて、人懐こい雰囲気は鳴りを潜めていた。
ぴっちりと編み込まれた三つ編みは前に垂らされ、毛先からはコードが伸びていた。伸びたコードは車載のポートに接続されている。困った顔で「少し眠っていても構いませんか」と言い、三つ編みの先からコードを引き出されたときはぎょっとしたものだ。
『ホテルで休まなかったの?』
「用意してもらったホテルが新しくできた所で。端子がなかったみたい」
『ああ……そういうこともあるんだね』
あまり共感できないらしく、曖昧な声が返ってくる。無理もない。
ロニーも含むここ十年以内に
『昼には戻れそう?』
「ええ――」
地図を見ると、もうすぐドルトムントの横を通るところだった。
後方から一台の車に追い抜かれる。青を基調とした車体に、鮮やかな青い警光灯。警察車両である。ニルたちが乗る車も相当の速度で走行しているというのに、警察車両はみるみるうちに小さくなっていく。
活動服のポケットに入れていた携帯端末が震える。ニルの端末は許可を得て消音設定にしてあった。隣に座るミヒャエルが、自身の端末の音に肩を揺らす。
端末を取り出して見ると、応援要請の報せであった。発信元はドルトムント空港内。目の前を通り過ぎた警察車両の行先も同じに違いない。ニルたちが圏内に入ったことで通知が入ったようだ。
「悪いけど、昼には戻れないかもしれない」
『え?』
「あとで連絡する」
車載端末を弄り、通話を切る。そして急いで目的地をドルトムント空港に設定し直した。アウトバーンの出口はすぐ傍である。車載端末がルートを修正し、全自動運転車は周囲の安全を確認してレーンを移動する。やや急な運転に、体が揺れた。
「今の音は……」
ミヒャエルが体を起こす。掠れて間延びした声は、寝起きのように気だるい。
通知音のした端末を眺めるミヒャエルの横顔に呼びかける。
「応援要請が来た。ドルトムント空港に向かう」
いつもより大きいニルの声に、ミヒャエルは顔を上げた。丸くなった灰褐色の瞳がニルを捉える。
彼は嬉しそうに返事をし、三つ編みに繋がっていたコードを取り外した。
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