翌朝、ニルとミヒャエルは全自動運転車に乗り、ノイスへの帰路に就いた。早朝のアウトバーンは空いており、晴天に恵まれ乾いた道路を気持ちよく加速していく。

『共犯者の可能性か……。確かに、ヨナスが元々一般人で、ノイエ・メンスハイトと関わりがなかったのなら、手引きした人物がいてもおかしくないよね』

「ええ。ブレーメンにも彼らの手は及んでいるはず。州警察には監視カメラのデータ提供を依頼した。今日中にはデータが届くと思う」

『了解。マキジローは電子拳銃の捜査に掛かりっぱなしだし、他でどうにか回すよ。もちろん、ニルもやってよね』

「そのつもり」

『どうかなぁ、捜査となるといつも外に出っ放しじゃない』

 車載スピーカーからロニーの少年のような声が響く。定期報告は昨夜のうちにクラウドに上げたが、あくまで聴取内容と家宅捜索の写真、押収品の報告のみだったので、所感も含めた報告を上げているところだ。エリカは不在である。報告はロニーから行うことになるだろう。

『そういえば、ミヒャエルは?』

寝てる充電中

 助手席に目を向ければ、目を瞑り座席に体を預けるミヒャエルの姿。あの柔和な笑みが取り払われた横顔は大人びていて、人懐こい雰囲気は鳴りを潜めていた。

 ぴっちりと編み込まれた三つ編みは前に垂らされ、毛先からはコードが伸びていた。伸びたコードは車載のポートに接続されている。困った顔で「少し眠っていても構いませんか」と言い、三つ編みの先からコードを引き出されたときはぎょっとしたものだ。

『ホテルで休まなかったの?』

「用意してもらったホテルが新しくできた所で。端子がなかったみたい」

『ああ……そういうこともあるんだね』

 あまり共感できないらしく、曖昧な声が返ってくる。無理もない。

 ロニーも含むここ十年以内に生まれた製造されたアンドロイドの充電方法はワイヤレスである。多くは枕やベッドに充電器が内蔵されていて、人間と同じように眠り、バッテリーを充電する。端子を接続して充電する機体となると、古くから稼働しているアンドロイドくらいだ。

『昼には戻れそう?』

「ええ――」

 地図を見ると、もうすぐドルトムントの横を通るところだった。

 後方から一台の車に追い抜かれる。青を基調とした車体に、鮮やかな青い警光灯。警察車両である。ニルたちが乗る車も相当の速度で走行しているというのに、警察車両はみるみるうちに小さくなっていく。

 活動服のポケットに入れていた携帯端末が震える。ニルの端末は許可を得て消音設定にしてあった。隣に座るミヒャエルが、自身の端末の音に肩を揺らす。

 端末を取り出して見ると、応援要請の報せであった。発信元はドルトムント空港内。目の前を通り過ぎた警察車両の行先も同じに違いない。ニルたちが圏内に入ったことで通知が入ったようだ。

「悪いけど、昼には戻れないかもしれない」

『え?』

「あとで連絡する」

 車載端末を弄り、通話を切る。そして急いで目的地をドルトムント空港に設定し直した。アウトバーンの出口はすぐ傍である。車載端末がルートを修正し、全自動運転車は周囲の安全を確認してレーンを移動する。やや急な運転に、体が揺れた。

「今の音は……」

 ミヒャエルが体を起こす。掠れて間延びした声は、寝起きのように気だるい。

 通知音のした端末を眺めるミヒャエルの横顔に呼びかける。

「応援要請が来た。ドルトムント空港に向かう」

 いつもより大きいニルの声に、ミヒャエルは顔を上げた。丸くなった灰褐色の瞳がニルを捉える。

 彼は嬉しそうに返事をし、三つ編みに繋がっていたコードを取り外した。

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