1. neue Freunde
制圧
Ⅰ
ノイスから目的地へ向かう道を全自動運転車に任せている間、イヤフォンから流れるニュースに耳を傾ける。平然とした声音で読んでいるのは、人間か否か。取り留めのない思考は、ニュースに聞き入る内に忘れてしまった。
『速報です。今から約二時間前、デュッセルドルフのナイラン・シュトラセ22にあるオフィスで、アンドロイドによる立て籠もり事件が発生しました。立て籠もったのは、一八〇センチ程度の大柄なアンドロイドで、中に残っていた職員一名が人質となっています。事件は人質となった職員からの通報で発覚し、事件から三十分後には機動隊が到着。現在も犯人との交渉が続いているものとみられます。また、オフィスの他の階にいた職員や周辺住人は、事件からおよそ一時間後には、人質を除いた全員の避難が確認されました。調べによると、立て籠もり事件発生後、現場となった会社の端末から会社のクラウドシステムや周辺の警備カメラなどに対して、複数の不正アクセスが確認されており、犯人はアンドロイド至上主義者の過激派による犯行とみられています』
車載端末を使おうとして、走行中は使用できないことに気がつく。仕方なしに携帯端末を起動して、調べ物を始める。
『二一八七年に発生したノイスヘルツ・トゥルム炎上事件以降、ノイスヘルツ社製アンドロイドで構成された、アンドロイド至上主義を掲げる過激派団体、ノイエ・メンスハイトによる事件は後を絶たず、アンドロイド至上主義を支持する人々の数は、同社製アンドロイドに限らず、人間・他社製アンドロイド問わず広がっています。事件から十一年が経過する、二一九八年現在も、ノイスヘルツ・トゥルムを中心としたノイエゲバート周辺は、ノイエ・メンスハイトによる占領を受けており、彼らアンドロイド至上主義者の増加の一方で、ドイツのみならず世界各地で、アンドロイドの排斥運動や差別が増加しています。今回の事件にノイエ・メンスハイトが関与しているかは不明ですが――』
イヤフォンを乱暴に外した。窓の外を見れば、両脇が木々に囲まれ、遠くには建物の明かりがぽつぽつと小さく光る。既にライン川を越えてデュッセルドルフに入っているらしかった。現場へは十分とかからないだろう。
携帯端末をグローブボックスの上に置いて、右手と右足の調子を確かめた。
車の往来が増え、車が減速する。車載端末に表示される目的地までの距離が一キロを切った頃、携帯端末が着信を知らせた。イヤフォンを指で弾いて、通話を繋げる。相手の名前を見るまでもなかった。
予想通り、深みのある温かいアルトが耳に届いた。
『ハァイ。準備は順調かしら』
「恙なく」
『ごめんなさいね、まだ怪我も治っていないのに』
「構わないわ」
『私たちもすぐに現場に向かうから。危ないと思ったらすぐに撤退して状況を報告すること』
「ええ」
『それと、
「
返事と同時に通話が切れる。車窓の向こうで、赤と青の緊急車両のライトが密集しているのが見えた。すでに日は暮れており、その光だけが鮮烈だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます