19.8.2187

 ホロウインドウに浮かぶ映像が切り替わる。険しい面持ちのニュースキャスターが、プロンプターから目を離さず、淡々と事実を読み上げる。机の上で美しく合わせられた両手が硬く握りしめられていた。


 ニュースは、このように読み上げられた。


 一昨日前、ハンブルクのハーフェンシティ・ノイエゲバートにあるノイスヘルツ・トゥルムに女性が侵入し、火を放った事件で、州警察は犯人がノイスヘルツ・グループ会長アーデルハルト・フォン・ヘルツ氏の妻、ジュリアであると断定しました。

 十七日の午後一時二十八分、ノイスヘルツ・トゥルムで行われたアンドロイド新機体の発表会会場に、突如女性が乱入し、会場内の他、施設各所に発火装置を仕掛け、施設内を放火しました。

 この事件では、昨日午後六時の段階で、四十二人が死亡、十二人が重体、二〇九二人が軽傷を負い、アーデルハルト会長を含む三人の行方が未だわかっていません。

 事件からおよそ六時間後には、トゥルム十階付近の非常階段内で一人の遺体が発見され、焼け残った遺体の一部から、女性が、ノイスヘルツ・グル―プのアーデルハルト・フォン・ヘルツ会長の妻、ジュリアであることが判明しました。

 州警察は、捜査を進め、傍にあった金属などの残骸が発火装置であったことや、彼女が、他の被害者たちから離れた位置で倒れていたこと、被害者たちの証言などから、火を放ったのがジュリア・ヨハンナ・ヘルツであると断定しました。

 ジュリア氏は会場内で、同社のアンドロイド研究は、反社会的組織からの資金援助と、多くの非人道的な行為によって成立し、アーデルハルト氏がアンドロイドを利用した独裁国家の成立を企てている、などと主張しており、同様の告発は一時、ノイスヘルツ社のホームページにも掲載されました。

 州警察は、共犯者が協力し、同社のホームページにハッキングを行ったとみて捜査を続けています。ジュリア氏とホームページによって告発された内容については、「我々州警察だけではなく、連邦政府内務省BMIや他国の警察組織とも密に連携し、慎重に捜査を行っていく」とコメントするに留まりました。


 画面が切り替わり、煌々と燃えている建物が映し出される。

 群青の空を照らす残酷な赤い灯りが、網膜にじっと焼き付いていた。

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