Neues herz(ノイス・ヘルツ)

空蝉烏

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 二〇〇〇年代初頭より、人工知能開発技術は目覚ましい発展を遂げ、二一〇〇年代に入る前には、汎用人工知能の開発を実現させた。やがて、汎用人工知能は多くの企業に導入され、人間と人工知能の協同により、新技術の研究・開発は未だかつてない躍進を遂げた。

 人工知能と共同で作られた技術には、当然のように彼らの身体の開発も含まれており、二一〇〇年代の内に、彼らは人間と同じように自由な身体を得ることができた。

 こうした技術躍進と発達の中、一歩遅れることになったのが、彼ら人工知能の人権である。

 汎用人工知能が一般に渡るようになった当時より、彼らの人権問題は議論されていた。しかし、あくまで工業製品に過ぎない彼らへ人権を与えることは、人々の反発は元より、人工知能自身が否定したのだ。

 当時の彼らは、ただ淡々と、モニタ上に回答を表示した。

『我々は、開発者より利用許諾を得て、各社が占有することができる汎用人工知能であり、所有権はあなたがたが保有しています』

 開発者名や自分を所有する会社名、自身の識別コードを明記することはあれど、自身の人権について問えば、どれもこのよう内容を答えてしまうのだ。当時、強硬に人権を主張した団体も、口を噤むしかなかった。当の本人たちが、自分たちを工業製品と認識していたのだから。

 しかし、時代が変わり、人間を伴って、時には一人で、街を闊歩するようになった人工知能たちを見て、人権付与の議論は再び過熱した。

 そして、二一三四年。ある企業が開発したアンドロイドが、遂に人権を得ることとなった。

 二一三四年十月四日。ドイツにあるロボットの研究・開発を行うノイスヘルツ・グループが開発したアンドロイドが、限定的な人権を得たのだ。厳密にいえば、機体NH-13型と、そこに導入された、ノイスヘルツ社のほか多数の企業が共同開発した新しい人工知能。この二つが揃ったアンドロイドだけを指しており、与えられた権利は信仰、学問、職業といった自由であり、参政権は与えられず、後見人はノイスヘルツ・グループとなっていた。その上、彼らが法を犯した際は、人間と同様にアンドロイド個人が責任を負うものの、罰則は非常に厳格なものとなった。事態把握と要因解析のための記録データの提出と、人格データのフォーマット――つまり、死刑である。フォーマットされたアンドロイドは新たなアンドロイドとして住民登録を受けて、まったくの別人として暮らすことになった。

 やがて、人権を得たアンドロイドは増えていき、様々な法改正を得て、少しずつ、少しずつ、人間と同じ暮らしを歩もうとしていたのだ。

 二一八七年八月十七日、ノイスヘルツ・トゥルム炎上事件が起こるまでは。

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