ガイドノイド
きのこ星人
第1話 機械仕掛けのこの世界
機械で繁栄した新時代。
ある、何処かの博士は一体のロボットを完成させた。
そのロボットは世界から高く評価され、一躍…世界中に広まる事となる。他にも様々なロボットが開発され、世界はロボット産業時代へと発展する。
その後、この時代を象徴するかのようなツール、ガイドノイド…通称『G,N』と言うロボットが開発された。
G,Nは人の思想を何でも叶えた。財布代わりになり、情報を手に入れ、医療や家事もこなす万能ロボだ。
違法ではあるが、改造を施せば誘拐や盗み、殺人さえも主人の代わりにやってのけた。
そう言った犯罪が増えた事から、便利ツールG,Nは次第に人の命を守ることに特化された。
今や防犯の観点からも一人に一体以上のG,Nが付くことが常識化になっている。
便利につれて世界は薄曇り、殺伐としていく…。
そんな世の中でG,Nを一体も付けず生身の体一つで機械と渡り歩く…そんな男がいた……。
「…聞いたか?昨夜の話…ヤバかったぞ…。」
「あぁ。聞いた聞いた。アイツの事だろ?
G,N一体も付けずに歩き回っている頭のイカれた奴…。」
「おい…お前っ!止めとけって聞かれたらどうすんだ!アイツ昨日の夜、数十体のG,Nを1人で一体残らずジャンク品送りにしたらしいぞ!?」
『ピピ…検索結果がでました。
昨夜、対象と思わしき人物の目撃情報を発見。』
この丸っこいサッカーボール位の大きさのドローンが、ふよふよとその男子高校生達の周りを飛んでいる。
これがドローン型のG,N。一般的に普及しているロボットだ。
主には絶対服従で、危険を感じればすぐに武装される。主の便利ツールであり、護衛も担う万能な機械である。
「マジ…怖っ…!アイツ最早、人間じゃないんじゃねーの?アイツこそが機械だったって事ねーか?」
『後方より、人が接近。注意してください。』
ふよふよと飛ぶドローンG,Nがこのように警告する。それを聞いて「…ん?」とそのG,Nを見上げていると…
「…………あのさ………。」
学校終わりの廊下で、コソコソと話していた2人の男子高校生。
その2人背後から聞こえてきた見知らぬ声に振り向いた直後、体を硬直させた。
その人物は先程まで噂していた張本人だったからだ。
染めたようなピンクブラウンに着崩した制服。
細身だが、筋肉質な体形のその青年は、機嫌の悪そうなドスの効いた低い声で彼らに声をかけた。
「そこ…邪魔なんだけど。」
「「ひっ!!」」
校舎の下駄箱の前で喋っていた男子生徒2人は反射的に飛び退いた。
その青年はその後、何食わぬ顔で靴を履き替え校舎を出る。それを見送って彼らはようやく居心地ついたように息を吐いた。
「き、聞こえてねーよな?」
「た、多分…💧」
(いや、聞こえてるって…。)
ピンクブラウンの青年、野桜
何も彼らだけが果夢を恐れている訳ではない。この学校…いや、この町中で彼の姿と名前を知らないものはいない。
護衛用のG,Nを持たないだけでも変わり者とされているが、その腕っぷしは襲ってくるG,Nを一体残らずスクラップにするほどである。
異質、腕っぷし、見た目の悪さ…全てが相まって果夢は不良扱い所か、誰からも恐怖と異端の目を向けられ遂には誰も彼に寄り付かなくなった。
「うわ…カムよ…。」
「アイツ…まだ学校に来てるのかよ…。」
「G,Nは持たないし、アイツ極度の機械嫌いって噂だぜ?だから腹いせに夜な夜なロボットをスクラップにしてるとか…。」
「怖っ!近づかないでおこうぜ…俺のG,N壊されたらたまんねぇよ。高いんだから。」
「…………………。」
どうして人って奴は小声で話していても、案外聞かれているって事に気づかないのだろう…。
内心ため息をつく。
今に始まったことではないが、コソコソ悪口を言われるのは気持ちのいいものではない。
果夢は足早に生徒達の脇を通り抜け、人気の少ない路地裏へと足を踏み入れた。
「…はーあぁ…これからどうすっかなぁ…。」
日はまだ高い。…と言ってもこの世界の空は空気汚染でか毎日、毎日鉛色で天気が良くても何となく薄曇りしているのが常だ。
見上げても眩しくない空を見て、果夢は辟易とする。
今から家に帰ったところで、疎まれるだけである。そう、彼は家ですら居場所がなかった。だから、夜な夜な外を出歩いて時間を潰していた。
……そのおかげで変な奴らに絡まれて違法G,Nに襲われるのが幾数回。全てスクラップにした。
おかげで変な噂がたったのが事実だが…。
「外にも…家にも…居場所がねぇ…。あーあ。俺は何をやってんだか…。」
見えもしない青空を仰ぐ果夢の心は荒れ模様だ。
まるでこの世界と同じ。いつ何処で誰が違法G,Nに狙われるか分かったものじゃない。
みんな、人の良さそうな顔しているが次の瞬間、隣にいるロボットに攻撃命令をするかもしれない。
そんな自分を映し出されているようで、嫌になり不機嫌なまま視線を逸らして歩きだそうとすると、視界の端に見知らぬ何かを発見し足を止めた。
「…………オートマター…か?」
そこには機械人形…オートマター(自律可動型人形)が他のゴミと一緒に転がっていた。
G,Nと同じロボットなのだが、一般的にG,Nは小型のドローンタイプが普及されている。
しかしこの目の前にある人形のオートマタータイプは、少し前に一部の裕福層や権力者が身の回りの世話を行う為に、より人間に近づけたタイプのG,Nである。
「なんでこんなものがこんな所に…?」
この近辺にそんなオートマタータイプのG,Nを所持出来るほどの力のある人はいないはず。
それに…よく見るとそのすす汚れており、オートマターの間接の所々が剥き出しになって壊れていた。機械素人の果夢でも分かる程に。
おおかた、機械としての寿命が来てしまい主人に捨てられたのであろう。
人形タイプのG,Nは安易に捨てにくい。だから遠く離れた地に置き去りにされることは少なくはなかった。
「…………ハッ。運が悪かったなガラクタ。
お前も俺と同じって事だな。」
そう機能を停止しているオートーマターに吐き捨てると、そのまま素通りしようとした瞬間、背後から『ピ………ガッガガ……』と言う古めかしい起動音のようなものが聞こえた。
『タ…………ス…ケ……ビガガッ…オネ……ガイ………ピーーーーーーーーーー………』
完全に壊れていると思っていたオートーマターがいきなり音声をならした。
流石の果夢も足を止めてしまい、思考を停止させてしまう。
しかも、あまつさえ助けて欲しいと頼ってきた。
ロボットが?人間に?普通逆だろ!?!?と言う果夢のツッコミは虚しく、そのオートーマターは再び動く気配は全くなかった。
「助けてって言ったって………俺には機械の仕組みなんて、何にも…………。」
そう呟くと果夢の頭の中にある光明が見えた。
もしかしたら…アレなら…!と何かを思い出した果夢は躊躇う素振りなど見せずにオートマターに近づく。
そして、これ以上壊さないように慎重にそれを運び出した。
ーー
『続いてのニュースです。
◯日に違法G,Nが保管されていた科学省から、何者かによってG,Nが持ち出された模様。
現在、分かっている情報では市内を徘徊していると思われます。
機種はオートーマタータイプの青年型。深い紺の髪色をしており見た目は一見、人と同化出来る程です。
近辺の住民の皆様は夜間の外出は控え、お出掛けの際は必ずG,Nを持って出掛けるようにご協力お願いします…。尚、お見かけの際は……………』
カチカチと古ぼけたテレビが点滅する。
映りの悪いそいつを手でガンガンとアナログチックに直そうとする。
するとどうだろう。カチカチは次第になりを潜めた。
映りに満足したのか、そのテレビの持ち主は、椅子ごとクルリと回りこちらに向かう。
「久しぶりね。中学以来?噂、色々聞いてるよ。…高校デビュー失敗しちゃったの?」
「うるせぇ。そっちこそ、いつの間にこんなラボ作ってたんだよ。
探すの苦労したんだぞ。この機械オタク!」
ニタリと不適に笑うは、腰辺りまであるオレンジ色のロングヘア。あまり手入れがされてないのか、所々傷んで跳ねっ返っている。
大きな黒縁眼鏡が特徴的な少女は果夢の中学時代の友人だ。
「……柊
お前に頼みたいことがあんだよ。」
「ネジちゃん。」
「………はあ?」
脈絡のない返事に果夢は変な声が出てしまった。
しかし、彼女は果夢の言った言葉が気に食わなかったのか、頬を膨らませながら抗議する。
「ネジちゃんだって言ってるでしょ。中学の時はそうみんなも呼んでたじゃん。
今だってそう呼んでよ。カム。」
「………頭の『ネジ』が一本飛んでるからネジ…。
お前…馬鹿にされてるんだぞ?」
中学時代のあだ名を後生大事にまだ名乗っているとは…。
しかも、あまりいい意味で付けられたものでもない。しかし、彼女は何処か誇らしげだ。
「それが何よ。私は気に入っているの。
頭のネジが一本飛んでいる?…最高の褒め言葉じゃない。常識に囚われているなんて、私の流儀に反するわ。」
中学時代から唯一果夢の事を恐れず話しかけてきた陽キャ…と言うより変わり者である。まあ、似た者同士だ。
そして、果夢が知る中で機械の知識が豊富な少女でもある。
「それより…なーに?
高校入ってから一切連絡して来ないかと思ったら、いきなり上がり込んで来てさー。
あ。そこ薬品とか落ちてて危ないから気をつけてねー。
…んで?何の用?もしかして遂にG,N持つ気になった?」
中学の頃からG,Nを持たない果夢に様々な特色のG,Nを見せては勧誘しようとしていたネジ。
その顔は期待に満ち溢れており、果夢の返答を聞く前に様々なG,Nを奥から引っ張り出してくる。
「これがねー飛行能力に特化したヤツでー。
これがなんと!音楽が聞けて一緒に踊れるヤツ!!
カッコいいでしょー?ミラーボール付けてみたの。
カムに武装なんていらないから、この癒し系の猫型G,Nなんてオススメだけど?
正規のものにちょっと手を加えてねーご飯や水を飲む事が出来るのよ!ついでに排便も!!」
嬉々としてG,Nを勧めてくるネジだが、どれも正規の物に手を加えてある言わば違法G,Nである。
ここに警察が踏み入れれば一瞬で検挙される程の違法G,Nが埋もれている訳だが…。
「分かってなわねー。そりゃ、これで人を傷つければ犯罪だけど。私はこの子達にそんなことはさせないよ。
一体、一体、私が手塩にかけた家族だからね!」
変人である。そうネジは機械オタクであり変人でもあった。
普通の人ならまず理解に苦しむだろう。だが、そこは果夢も世間から異端視されたアウトロー。何故か彼女とは馬があった。
「そうじゃねぇよ。お前に見てもらいたいG,Nがあるんだよ。
壊れているみたいなんだけどさ。どうにか出来ないかと思って。
…まあ、無理そうならそれでいいし、一応見てくれよ。」
「その言い方されたら断れないわねー。私にだってプライドあるし。
いいよ見てあげる。どの機体?」
キョロキョロと期待を胸に辺りを見回しているネジに若干呆れながらも、果夢はネジのラボ(プレハブ)の外に置いてきたオートーマターを取りに行った。
何故始めから中に持って来なかった訳は、このラボが足の踏み場もないほど物で溢れていたからだ。一方間違えばゴミ屋敷だ。
「オートマタータイプじゃん!✨コレどうしたの!?まさか…!」
「盗んだの?」と冗談めいた笑いを浮かべながら嫌味を言うネジ。
中学時代を思い出すやり取りだが、懐かしさより何より顔が悪い。主に…ドヤ顔が。
果夢の神経を逆なでさせる。
世の中には他意はなくても腹立つドヤ顔をする人種がいるのだが、彼女がまさしくそれに当てはまる。
「んな訳ないだろ!!コイツの状態見ろよ!ボロボロじゃねーか!
多分、壊れて捨てられたんだろう。
それを俺が拾っただけだって!」
「盗人はみんなそう言うのよ」と再びドヤ顔になるネジに果夢の怒りは噴火寸前になる。
が、そんな事はどうでもよさげに彼女はオートーマターを物珍しげに観察する。
「おー壊れてる。どっからどう見ても壊れてるわねー。
でも…これすごいよ。初期型のオートーマターよ。今じゃ、出回ってないタイプだよ。ヤバい…燃えるわぁ~。」
「なんだよ。じゃあ直せないのか?」
今度は逆にキヨの方が馬鹿にしたようにニヤニヤと笑う。
それを聞いた途端、先程まで無邪気に観察していたネジは同じく馬鹿にしたようにニヤリと笑う。
「まさか!私を誰だと思ってるの!?人呼んで『頭のネジが一本飛んだネジちゃん』って呼ばれてるんだよ!」
「…だからバカにされてるから。嫌味以外なにものでもないから。
お前、嫌じゃないわけ?」
果夢にそう言われてネジは不思議そうに首を傾げる。
「何度も言うけど、常識に囚われてたら研究なんて出来ないから。
私がやる事に変わりはないわ。」
ネジとはこう言う奴だった。頭がいいはずなのに、嫌味を嫌味として理解していないマイペースさ。
気付いてもそれをいい方に解釈してしまうポジティブさ。
確かに他の人から見たら変人極まりないのだが、不良以下のレッテルを張られ、他人と距離を取っていた果夢に興味本位で、ずかずかと踏み込む図太さがネジと言う少女だった。
「じゃ私は今から作業に移るね。
……果夢はどうする?
多分、この壊れ方だとどんなに早くても2、3日はかかると思うけど。
…家に一度帰る?それとも…ここにいる?」
その誘いに果夢は目を丸くした。
確かに、どうしようかと彼は思案していた所だ。疎まれるだけの家には出来るだけ帰りたくはない。外にいるにしてもまた金品目当てのG,Nに襲われるかもしれない。
「………いて、いいのかよ…?」
しかし…年頃の女性の家(?)に泊まり込むのはいかがなものか…。
しかし、ネジは分かっているのいないのか、さして気にも止めない風に承諾する。
「うんいいよー。私もしばらくここにいるし、狭くても良かったら別に。
あ。でも、食料は自分で確保してね。私はほぼ作業場から出ないから。それと…」
ニタリと意味ありげに不適な笑みを浮かべるネジ。
直感した。コイツ…分かってる…!
「変な気さえ起こさなければ…」
「いるいる!!コイツのことも気になるし、俺も作業場なんていかねぇから!
だから、居させてくれネジ!」
ネジの言葉を遮るような慌てっぷりに思惑通り行って面白かったのか彼女は、ゲラゲラと楽しそうに笑った。
「キャハハハ。分かってるわよ。カムにそんな根性ないことぐらい。
じゃあ、3日後に会いましょ。完成をお楽しみに〜。」
と楽しそうに期待するように、ネジはオートマターを運んで、作業場に引っ込んだ。
姿が見えなくなると、果夢はドッと疲れたのかその場に座り込んだ。
ネジの腕は確かだ。中学時代からそれは熟知している。だが、如何せんあの性格だ…。話すだけでもそれなりの体力を消耗する…。
「(黙っていたらそれなりなのにな…。)」
損していると思う。だがまあ彼女はそんな事、気にも止めないだろう。
機械研究所や工学が大好きでそれに一直線。それがネジと言う少女だ。
「(ある意味…羨ましいかも…。)」
何も出来ない。何も成せない果夢からしたら、ネジの性格や行動力は羨ましく光輝いていた。
本当に…自分は何をしたいんだう…。こんなボロいロボット拾って助けようとして…。
あーあ!とため息一つしてその場に寝転がる。散乱している機械の山に背をあずける。
「ま。とにかく頼んだぞネジ。」
ーー
「……………ここやと………思ったんだけどな…。」
果夢が訪れた路地裏に次の日、一人の青年が訪れていた。何かを探しているのかキョロキョロと…時に、ゴミ山を漁ってもいる。
身なりのいい緑のベストにキッチリとした黒いジャケット。
その清潔さはこの薄暗い路地裏には不釣り合いだった。
「………どこに………行ったんだよ…………レイド!!」
青年は大事そうに布に包まれた何かを胸に抱きながら悲痛な声をあげた。
続く
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