壊す人

境 麻緒

プロローグ


 シャリシャリという音で目を覚ました。

 黒猫のポォが、プラスティックの包装シートを噛んで遊んでいる音だった。

 

 シャリシャリ、シャリシャリシャリ。


 乾いた音がする。ポォが噛んではひっくり返し、部屋の隅に放り投げ、また私の横へ持ってきてシャリシャリ噛んでいる。よく見る朝の恒例行事だ。何故か彼はその遊びが気に入っている。


 空なので別に問題はないが、誤って飲み込んでしまえば事だ。

 私は駄目だよ、と声をかけながらそれを取り上げて、苦笑する。

 部屋の中に同様のシートがたくさん散らばっているのに気付いたからだ。


 銀色、金色、水色、薄緑や濃い緑、桃色に橙色。


 色の洪水だ。ポォはほかの包装に目を付けまた遊び始めた。


 私は重い体を毛布からやっとのことで引きずり出す。頭が重い。ベッドの中にいた灰トラのランが不満そうな声を上げて抗議する。

 彼女をなだめてから部屋中に散らばっている包装を拾い上げ、ゴミ箱の中に放る。1シートはおよそ半月分だ。私はそれらを消費し続けている。

 多分またいつかの朝には同じことになっているのだろうけど、それでも片づける。自分の体内に吸収されたものの残骸が、猫の害になったら大変だからだ。


 「ごめんね」

 

 私は名残惜しそうなポォに声をかけ、その頭を撫でた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る