さしも草の花言葉のようには行かない

久米橋花純@旧れんげ

出会いは突然…

「かくとだに————」

秋の風に乗ってそんな声が聞こえてくる。もう始まっちゃってるか。

「あちゃー、もう始まっちゃってるかぁ。一試合目から行こうと思ってたのにぃ。」

私の心の声を代弁したかのような声が後ろから聞こえ、振り向く。

伊吹いぶき。」

「お、和泉いずみ。お前も遅刻か?俺と一緒じゃん!」

そう言ってにかっと笑う伊吹はもちろん部内のムードメーカーだ。私たちはかるた部に所属している。伊吹は運動神経がいいからサッカー部とかに行くと思ってたのに。

私、小倉和泉おぐらいずみ。百人一首をやるために生まれてきたような名前だよね…。でも私は、中学校で初めてかるた部に入り、競技かるたを始めた。

「やっべぇ。二週間後、初大会だぜ?がんばろーな。」

「うん!伊吹さぁ、自信ある?」

「おうよ!って言いたいところだけどまだ始めて一年だからな。不安はあるよ。」

「そうだよね。」

あんまり会話が続かない。私が口下手だからかな。伊吹はすごく話すのに。二人の間に沈黙が流れる。

「あー!伊吹と和泉!もう始まっちゃってる~?」

沈黙を破ったのは、中学に入ってともに競技かるたを始めた、小室こむろ華乃はなの。とっても元気な女の子。私とは正反対な性格だなと思ってしまうけれど、仲が良く、引け目は感じない。

「うるさいな。始まってるからここにいるんだよ。」

伊吹は「ったく、こいつは」というふうに話す。そばから見いてると兄弟みたいなんだよなぁ。

「そんな冷たい言い方しなくてもよくなーい?」

「お前がうるさいからだよ。ほんと、華乃っていう名前と合わないよな。」

「ふん。そんなこと言ってたら私、次の試合で伊吹に勝っちゃうもんね。」

「勝てるもんなら勝ってみろ!」

そんなこと言っているけど、正直この中では華乃が一番強い。伊吹は束負けとか普通にするんだよな。



「あ~くそ。また負けたぁ。なんで華乃に勝てないんだろ。」

試合が終わって、そんなことを伊吹は叫ぶ。相変わらず華乃には勝てないようだ。

「伊吹さ、一字決まり送られたら、敵陣抜いて送り返さなきゃダメでしょ?私、敵陣の一字のほうが取れるって知ってるんだから。一年間ずっと一緒にやってきてるんだから、相手の長所くらいつぶしにいかなきゃ。そんなんじゃ公式戦に出ても勝てやしないよ、って先生に言われちゃうよ?」

その言葉を聞くと、一年前を思い出す。


「————って先生に言われちゃうよ?小倉さん。」

そう言って話しかけてくれたのが華乃。私がなじめないでいたクラスに引き入れてくれた第一人者だ。

「私ね、小学校のころ、陰キャで、今も別に陽キャってわけじゃないんだけど、百人一首ばっかり唱えてた。呪文唱えるみたいだから『死神』って呼ばれてた。だからさ、この中学校の競技かるた部に行ってみたいんだけど、一人じゃ行く勇気がなくて…。」

「一緒に行こうってこと?」

「そうなんだけど…。ダメかな?」

「いいよ!」

そう答えて今に至る———


伊吹は表情に出やすいタイプ。だから、誰が好きかなんてすぐわかる。伊吹を見ていると、聞こえてきそう。「しのぶれど 色にいでにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」なーんて。私もこんな感じなのかな。華乃にはもうバレてそう…。

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