タイムラインから生まれた話
菊央
第1話 ヌード写真
有名女優が死んだ。
若くから活躍していただけあって、知名度も美貌も抜群の大物芸能人だった。
だが、多忙のストレスもあったのだろう。まだ50代での病死だった。
そいつは、昔、俺の事務所にいた。けど、些細なことで決別した。
稼ぎ頭だった女優が消えたあと、俺はしばらく食うのにも困った。
あいつが辞める前にできた子供にも、まともな教育を与えてやれなかった。
結局、事務所を畳まざるを得なかった。
だから——俺は、そいつの死後、あいつのヌード写真を売ることにしたんだ。
俺とあいつは、ただの事務所代表と女優の関係じゃなかった。
深い仲だった。交際してたときに、何気なく撮影した写真。
まさか、こんなところで金を生むとは思わなかったよ。
世間の批判? そんなもん関係ない。
人の好奇心は、道徳なんかよりずっと強いんだ。
あっという間に、大金が転がり込んできた。
耐えかねたのか、嫁も娘も出ていった。
だが、それを補って余りあるほど、今まで以上にいい暮らしができたよ。
あいつが俺を捨てたせいで、俺も家族も窮屈な生活を強いられたんだ。
そのくせ、謝罪のひとつも寄越さなかった。
これくらいの褒美、もらってもバチは当たらないさ。
それに、あいつはもう死んでる。
名誉? 尊厳? ……死んだやつに、そんなもん必要か?
法律だって、俺を止められそうにないしな。
写真は、撮影者のものだ。
まあ、しばらくいい暮らしをさせてもらったよ。
感謝しなきゃな。
それから何年経ったか——。
世間もヌード写真のことなんて忘れたころ、一通の手紙が届いた。
差出人はなし。書留でもない、ただの封書だった。
何が入ってたと思う?
娘が、知らない男に暴行されてる写真だった。
しかも——嫁の目の前で。
だが、これは最近の写真じゃない。
嫁は出ていったときの服装のまま、写真に写っていた。
そして、同封されていたのは、パソコンで打たれた無機質なメッセージ。
『この度は貴殿のご提案を参考に、新たなビジネスモデルを構築することができました。
弊社一同、心より感謝申し上げます。
なお、ご家族の件につきましては、貴殿のご理解をいただければ幸いです。』
……俺は、ふっと笑った。
なんだ、これ。
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