夏のスポーツ対決 上
23話
ボウリングを楽しんでから、早一週間。
「あっつ……」
今日も、もう何回言ったのか分からないその言葉をつぶやきながらいつもの駅前に一人佇む。
よくよく考えれば夏にこんな太陽の下を待ち合わせ場所として指定するのもどうかと思うが、既に決まってしまっているものは仕方がない。
これからは待ち合わせ場所をもう少し涼しい場所にしようと思う。
皆を待つと言えど、遅刻じゃない限り数分……別に待てる時間ではあるのだが、駅と家の距離感の問題でほとんど一番最初に到着してしまう裕也としては、なんとも言い難い気持ちになるものだ。
これが春や秋の過ごしやすい季節ならまだしも、夏という季節は残酷なもので……遊ぶ前からじりじりと体力を削ってくる。
「裕也くん、おはよっ」
「おはよう、裕也」
空を見上げてこの間同じくコンビニに避難しようか……なんて考えていると、裕也を呼ぶ声が二つ。
今日は芽衣と由佳が同時にやってきた。
「おはよう二人とも、一緒に来たんだ」
「うん、向かってる途中で由佳ちゃんと会えたから、話しながら来たんだ」
挨拶を返すと、そのまま迷惑にならないようこちらに近付いてくる。
この間のボウリングの時も思ったが、動きやすいスポーティーな恰好をしても可愛らしい恰好をしても似合うこの二人はちょっとズルいと思う。
「それにしても暑いね、先週よりも四度くらい上がってるとか」
「更に暑くなってきたよねぇ、このままじゃ溶けちゃうよぉ」
「そうね、これ以上気温があがると、さすがに困るわ」
肩を落とし……溶けるようにそう言う芽衣と、本当に同じ気温の場所に居るのか不安になるほど暑さを感じさせない由佳……まるでサウナのような温度差である。
「由佳って暑さに強い感じするよね、なんか秘訣とかあったりするの?」
「別に強くないけれど……ん-」
どうしてそんなに堂々としていられるのか疑問に思ったので聞いてみると、由佳はうーんと少し考えた。
「智樹の方が百倍暑いからじゃないかしら」
「……確かに」
猛暑の中でも笑顔を絶やさない智樹をイメージしたら、今の気温はとても優しいものだと思える……ような気がする。
「おーーーーっす!おはよ!」
噂をすればなんとやら、手を大きく振りながら智樹が走ってきた。
犬か。大型犬か。
「おはよう智樹、暑いのに元気だね」
「オイオイ、人間は暑ければ暑いほど元気になる生き物だぜ」
「「えっ……」」
ノンノンと指を振る智樹に、驚きを隠せない裕也と芽衣。
「……ほら、智樹はこういうタイプでしょう、昔から」
「そっかあ……」
「そうよ。それに予約してる時間もあるから、早く向かいましょ」
「そうだね、それじゃあ出発!」
「ごーごー!」
…………そんなこんなで、裕也たち一行はスポーツパークへ向かっていく。
◆◇◆◇
かなり人の居た電車に揺られて人に酔ったり、あまり人の乗っていなかったバスに乗って一休みしつつ……気付けば到着。
「やってきたぜ!スポーツパークっ!」
「わー」
「ぱちぱちぱちー」
「…………もうツッコまないからね。ほら、行きましょ」
入口で喋っていても邪魔になるだけなので、由佳に先導される形で建物の中へ進んでいく。
都内最大級とも言われるこの屋内スポーツパーク。
入ってみると、夏休み効果も相まってかとても賑わっていた。
「涼しい~」
「生き返る~」
「ちゃんと予約取ってきてよかったわね、これじゃあ遊べるか怪しかったし」
「そうだねぇ、椎名ちゃんに感謝しないと」
唯一のスポーツパーク経験者である椎名にスポーツパークへ行くことを伝えると「夏休みは特に、本当に予約した方がいいよ」とかなり強めに念を押されたので、言われた通り予約を取っておいた。
実際かなり混んでいるようなので助かった、椎名に感謝しなくては。
「おし、ほんじゃ楽しむとするか」
「まずはバスケだっけ」
「そうね」
◆◇◆◇
受付を終え必要な備品を借りた裕也たちは、さっそくバスケットコートへ入っていく。
「おー、結構ちゃんと広いね」
「四人だと広すぎるくらいだな、十分楽しめそうだ」
「時間も有限だし、準備運動してさっさとやりましょうか」
飲み物とタオルを端の方に置いて、念入りに準備運動をする。
普段からよく運動している智樹と由佳はまだいいが、基本的に運動しない裕也と芽衣は特にしっかりと準備運動をしなければならない。
「それにしても、芽衣って俺と同じで運動とかしてないイメージなんだけど、どこから体力がやってくるの?」
「もう……裕也くん、わたしはちゃんとたくさん歩いたりしてるんだからね」
「……スミマセン」
「それに芽衣、中学はテニス部だったしな」
「えっ、初耳」
テニスをやってる芽衣も見てみたかったなぁと思う。
きっとカッコよかったのだろう。
「あたしもテニス部だったわ、智樹は?」
「おー、まさかの共通点。オレはバスケ部だな」
「ぽいわねー……」
「陽キャ集団だ……」
「裕也、お前はもっと運動しろ」
「まぁまぁ、だからこそわたしたちが連れ回さないと、だよっ」
実際この三人が居ないと今年の夏休みもぐーたら過ごしていただろうし、とても助かるのは事実。
「そういえば昨日、椎名と散歩に行ったよ」
「あの裕也が……外に……!?」
「おい」
「やること無くなっちゃって、皆誘うのもなんだし椎名引っ張って近所の散策に行ってきたんだ」
「えー、誘ってくれたら行ったのにぃ」
「次は誘ってみるよ」
「うんっ!」
「手、止まってるぞー」
「「あっ」」
話も盛り上がり気分も乗って来た裕也たちのスポーツパークは、まだまだ始まったばかりだ!
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