友人の誕生日に

9話

すぐそこに六月が見えてきた五月の月末。

珍しく椎名と二人で外へ出かけ、待ち合わせ場所の駅前で人を待っていた。


「も、もうそろそろかな?」

「もう少しで着くって、お兄焦らない」


相変わらずのジト目でこちらを見てくる椎名と会話していると、少し遠くから声が聞こえてきた。


「ごめぇん、お待たせ~」


その人は、息を切らしながら駆け足で近付いてきた。


「めいちゃん、久しぶりっ」

「椎名ちゃーん!おっきくなったねぇ」


珍しくテンションが高い椎名に少し驚く……が、そういえば椎名は芽衣にかなり懐いていて、久しぶりに会ったとなればそれは更に強くなるだろう。


「め、めいちゃんも色々、色々おっきくなって!むふ……抱き着いていい……ですか!?」

「? おいでおいでー、よしよし」


さっきまでの態度はどこへ行ったんだと思うほど目をキラキラさせながらおじさんムーブをする椎名。


(なんか……入りにくいな)


ここに入って行ってしまったら完全に百合の中に挟まる男子高校生だ。

……それはよくない。


「おっと、今日の本題を忘れないようにしないと」

「そうそう、誕生日プレゼントを買いに行かなくては、だよっ!」

「それで芽衣、目星は付いてるの?」


やっと自然に会話に入れたと安堵しつつ本題に触れてみると、芽衣は少し困り顔で言葉を発する。


「うーん……それが、まだ迷っててね?それで、二人の意見も聞こうかなって思ったの」

「ま、まかせて!」

「じゃあ、とりあえず歩きながら話そっか」



駅から離れ、目的地であるショッピングモールへ向かいながら芽衣の話を聞く。


「まずは……このゲームのぬいぐるみはどうかな?」


まず芽衣が候補として挙げたのはモンスターをボールで捕まえバトルさせる、子供から大人まで大人気なゲームのぬいぐるみだ。

小学生の頃から智樹はこのゲームを良くプレイしており、確かにプレゼントには最適だなと思った。


「ただ問題があって……男子高校生に可愛いモンスターのぬいぐるみはちょっと、違うのかなぁって思ったりもしてね」

「何百種類もいるモンスターの中から一匹選ぶのも、大変そう」

「……確かに、もっと適切なプレゼントがありそう、と思ってしまうとそうかも」


ちゃんと考えてるんだなぁと感心していると、椎名が芽衣に質問した。


「めいちゃん、毎年プレゼント考えてるの?」

「今年はたまたまだよ、せっかく裕也くんも戻ってきてくれたし誕生日パーティーを開催したいーって話になってね?」


普段はおめでとうとだけ言って適当にお菓子を渡して……あとは普通に、と話を続けた。


「へぇ、それじゃあ気合入れないとね」

「うん、がんばろう」

「ふたりとも、ありがとうっ」


裕也たちはすぐにショッピングモールに到着したが、話し合いはまだまだ続いていた。


「となると、実用性のあるもの……文房具系?」

「それも考えたんだけどねぇ」

「ちょっと……面白みに欠けそうかなって、私は思った」

「せっかくの誕生日プレゼントが文房具、しかも智樹は勉強そんな好きじゃないし」

「あー、確かに」

「それじゃあ……デバイス系?イヤホンとか、モバイルバッテリーとか……?」

「お兄、そこらへんは微妙かも。音質とか好みとか……1番大事な要素だよ。そもそも対応しているかとか、確認しなきゃいけないし」

「そっかぁ、うーん……難しいね」


……改めて考えてみると、プレゼント選びというのはとても難しいことに気付いた。

文月家の誕生日は親に欲しい物を申告してそれを貰う……という形なことが多いので、人のプレゼントを選ぶのは新鮮だ。


「となると、やっぱりぬいぐるみで良いんじゃないかな」

「うん、私もそう思った」

「そもそも、貰ったモノにケチ付けるタイプじゃないでしょ、智樹くんって」

「確かに……うん、そうだね」


言われてハッとした。プレゼントを考えるのに夢中で、大切なことを忘れていた気がする。

そんなこんなで方針が決まった裕也たちは、ゲームのグッズが売っているショップに移動した。


「わぁ……!はじめて来たけど、入口におっきいモンスターがいるよ裕也くん!」

「店舗によってここら辺の装飾も違うらしいから、他のところも見に行ってみたいね」

「うんうん!」


ショップの前で出迎えてくれるモンスターはいつ見てもワクワクするが、本題はここじゃない。


「さっそく入ろうか」

「触れてなかったけど、結局どのモンスターが良いんだろう」


一番の問題はそこだ。

このゲームは長く続いている分モンスターの種類も多く、最新作では千種類を突破したらしい。


「……俺の記憶だと、水のモンスターを選んだせいでボスバトルに苦戦していたなってくらいしか……」

「あはは……小学生のころ、初めて皆であのゲームを遊んだ時だぁ、懐かしいね」


そんなことを話しながら、ぬいぐるみコーナーを目指し歩いていると、すぐに目的地が見えてきた。


「あ、ここらへんかな」

「わぁ!いっぱいだねぇ」


思ったより種類が多く、ぎゅうぎゅうになって並んでいるモンスターのぬいぐるみたち。


「……かわいい」

「おっ、椎名ちゃんはどのモンスターがすきなの?」

「この子、一番可愛い」


そう言いながらおそらくゴミ袋がモチーフになっている、正直可愛いとは思えないモンスターを手に取る椎名。


「……なるほど?」

「良いと思う!わたしもこういうの好き!」

「やっぱりそうだよね!この顔が愛くるしいんだよ、お兄には分かってないみたいだけど」


(前も思ったけど、芽衣が思う可愛いの基準が分からない……)


「逆に裕也くんは?」

「うーん……この鳥のモンスターとかは、序盤からお世話になるし好きかも」

「裕也くん、小学生のころもこのモンスター使ってたよね!」

「二人とも、本題……忘れてない?」

「「あ」」


……気を取り直して。


「このモンスターとか、どうかな?」

「この子、智樹くんが好きそう」

「智樹と言えばやっぱりこれが良いんじゃない?」


色々考えてもやはり一匹に絞るのは難しく、最終的に全員が一匹ずつ買うことになった。


◆◇◆◇


「それじゃあ、今日はありがとねっ!」

「うん、また明日」

「また明日ね、めいちゃん」

「ばいば~い!」


芽衣と別れると、裕也たちも歩いて家まで足を運ぶ。


「お兄、結構めいちゃんといい感じに見えたよ」

「そ、そう?」

「なんで告らないの?」

「そう軽々と……」

「いつ取られちゃうかも分からないんだよ、めいちゃん超可愛いじゃん」


それは確かにそうだ。実際たまに告白もされているらしいので、油断している暇はない。


「本当にお似合いだと思うよ、私も義姉ちゃんって呼べるようになりたいし。頑張るんだよ、お兄っ」

「うん、俺なりに頑張るよ……って痛い痛い」


椎名が裕也の背中をバシバシ叩いたり談笑したりしながら明日のことを考えて家に帰る兄妹だった。

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