第4話 魔石
ダンジョンから手に入る資源、魔石。
モンスターを倒すと死体がさらさらと消え、魔石だけがその場に残されるという。
いかにも異世界ファンタジーな響きと赴きのある現象だ。
俺としては冒険とか戦闘とかの危険行為には関わらず、料理だけをしていたい。
が、いくら俺がファンタジー要素なんていらねぇんだよと思っていても、この世界には魔石を有効活用する文化があり、やつらは這い寄るように俺の日常と常識へ侵入してくるのだ。
「んんん……光れィィ……前世で言うところの蛍光灯ぐらいの光量でェ……」
俺はランプの中に小粒の魔石を入れて念じる。それだけで魔石は光を放ち始める。
「んんん……飲み水よ……沸かさなくても腹が壊れない綺麗な真水よ……」
魔石を水瓶の中に入れて念じると、だばだばと水が溢れてきて瓶を埋めていく。
「さ、今日も仕込みを始めるか。んじゃ火を付けましょうかね」
オーブンに仕込んだ魔石に念じると、ガスバーナーぐらいの炎が噴き出て薪を焦がしていく。
「オウッ、昨日うっかり火傷した第Ⅰ度熱傷が沁みるぜ! ほ~ら回復回復~」
十円玉程度の火傷を負った皮膚に魔石をすりすりさせながら念じると瞬く間に皮膚が修復されていく。
「ふざけんな! なんだこのトチ狂ったエネルギーは!」
ごん、と俺は石造りの壁に頭を打ち付けた。
「店長!?」
俺の突然の奇行に給仕のピシェが驚いて叫ぶ。
「そりゃあ重要な資源だってなるよなァ! 少年兵突っ込ませてでも確保したいってなるよなァ!」
ごんごんごんとそのまま頭を打ち付け続ける。
「なんだよ発動条件が念じただけって! どういう仕組みなんだよ! こんなものが全国民使えるとかどうなってんだ!」
ひとしきり暴れた俺が破壊衝動を解放し終えて虚無な顔になっていると、ピシェがすっとタオルを差し出してきた。
街の救貧院から連れてきたばかりの頃はおどおどしていたのに、いつの間にかピシェも俺の奇行に慣れてしまっていた。
「いつもの魔石アレルギーですか。お疲れ様でした」
「すまんな、取り乱した」
想像と違って露骨な魔法っぽいものがなかったので、俺が知る限りこの世界がファンタジーしている唯一の事象がダンジョンとそこから得られるこの魔石である。
これがないと昼から薄暗い店で、なおかつ沸かしてもまずい井戸水で料理をする羽目になる。魔石の恩恵は受けざるを得ない。
とはいえファンタジー概念がしれっと日常に浸透してくる感覚は未だに苦手だ。
この魔石という激ヤバ資源であるが、高い汎用性があるものの万能ではない。念じて発動する効果は火水土風光回復で、そこまで大規模な超常現象は起こせない。
一回に発動できる魔石の量や大きさは限られていて、例えば大量の魔石を一気に発動させてダイナマイトだ!なんてことはできないらしい。何個かが火を噴くのがせいぜいだとか。
色々な抜け道を考えたらえげつないこと出来そうだけどなあ、なんて思うのだが、そこに便利なアイテムがあれば活用法を探すのはどこの世界の人間でも同じで、魔石の可能性とかは色々議論されて学問にまでなっているらしい。
実際のご家庭などの生活においては、魔石は便利アイテムとして使われる。
飲み水を確保するのに。
着火剤として。あるいは気軽な暖房器具として。燃料の代わりとして。
ランプの油の代用として。
うっかり怪我をしたときの包帯代わりに、などなど使用用途は幅広い。
が、なんでもかんでも魔石で済ませりゃいいってわけでもない。
魔石自体がそれなりの値段がするため、例えば燃料としてのコスパは薪に劣る。
飲み水が出るのは便利だが生活用水として使うとすぐに魔石は使い切ってしまう。
すごく便利だけど、それだけには頼れない。
そんな感じの汎用アイテム、それが魔石だ。
税金もかかっている。魔石税はかなり重い。
例えば冒険者が魔石を1キログラム持ち帰ったとしよう。わかりやすく円表記にするが、それをだいたい1万円相当で領主が買い取ったとしよう。これが末端価格だと3倍になる。
領主は倍の2万円で商会に売る。この差額で得た1万円が領主の利益で、魔石税だ。俺の場合は半分の5千円は税として領都の金庫に収め、もう半分の5千円がキュイス村の収入となる。
商会は小売りするときに自分たちの利益を取るので、庶民の手に届く頃には3倍の値段になっているというわけだ。
そんなわけで、魔石がどれだけ採れるかはその土地の税収に直結する。
だからキュイス村のダンジョンには一定の期待が寄せられているし、少なくない額の初期投資がショファー伯爵家から出ているわけだ。
今のところキュイス村ダンジョンのマナが枯れる気配はない。どれほどの魔石が採れるかの底は見えない。
「ピシェ、試作品のチーズが届いた。食ってみよう」
「はい、店長!」
気分を切り替えて、届いたばかりのチーズを試食することにする。
ピシェには店のメニューに載っている全ての料理を味見させている。
新しいメニューも必ず一度は食べさせる。
その上で、どういう意図でこの料理を作っているか、なども教え込んでいる。
これはどんな料理?と聞かれて即座に答えられないようでは給仕とは言えない。
これこれこういう料理です、こういうお酒に合いますよ、ぐらいはさらっと案内できてほしい。
俺は給仕は相棒であると思っている。
例え俺がどんなに美味い料理を作ったとしても、手際が悪く、愛想も悪く、提供する商品のことがわからない、そんなホールスタッフに乱雑に持ってこられたら客は気分を害すだろう。イラついている時に食う料理はまずい。
店の雰囲気や接客サービス、そういったものを全て含めて店の味だ。
そしてベテランの給仕は育てるのに時間と場数が必要だ。
だから一人で回せる規模の店であってもピシェに手伝わせているし、試食は二人でする。児童労働と呼ぶなかれ。
チーズは中々いい味だった。これなら店にも出せるな。
____________
pêche(ピシェ) 釣り。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます