最弱勇者、魔王軍でパートはじめました。

@gurirutorster

第一章:召喚されたけど即、無職の予感。

「――さあ、勇者よ!この世界を魔王の脅威から救ってくれ!」


壮大な神殿、大理石の床。ずらりと並ぶ美男美女の賢者たち。金ピカの玉座に座る王様。どこからどう見てもテンプレな異世界転生の召喚シーン。


ただし、召喚された当の本人――つまり俺、日野下 ユウト(ひのした・ゆうと)高校二年・引きこもり気味は、その場で全力で寝たふりを決め込んでいた。


「……動悸が……視線が痛い……布団……帰りたい……」


「おい、大丈夫か?勇者よ?」


「うっ、異世界酔いが……ぐふっ……(※ただの演技)」


勇者召喚されたはいいけど、ステータスを鑑定された瞬間、王宮が凍りついた。


【勇者 ヒノシタ・ユウト】

・HP:18(一般農民の平均は25)

・MP:3(でもスキルなし)

・筋力:E-

・敏捷:F

・知力:C(ギリ平凡)

・カリスマ:G(むしろ嫌われてる)

・特殊スキル:なし


「……こ、これはバグか!?召喚魔法のミスか!?」 「いや、これは……ただの一般人以下のゴミだな……」 「魔王討伐どころか、風邪ひいて死ぬレベルだぞこれ……」


賢者たちの視線が痛い。刺さる。ナイフか。いっそ殺してくれ。


でも、俺は知っている。この手の「最弱勇者」には、隠された力とか、成長イベントとか、何かしらの**“ご都合展開”**があるはずなんだ!


「……よし、とりあえず今日は寝ます。あと、明日からバイト探すんで」


「待て勇者、お前は世界を救う使命が……!」


「じゃ、ニートになります」


こうして、異世界に召喚された最弱の俺は、初日で勇者業をバックれたのだった。


だが――その夜、宿屋でカレーうどんをすすっていた俺の前に、最強の魔族美少女が現れ、こう言い放つ。


「貴様が“勇者”か……この世界で最も価値のない存在……フフフ、面白い。私の部下になれ」


え、俺、まだカレーうどん途中なんだけど。


宿屋の安い木製テーブル。歪んだ足に不安を覚えながらも、カレーうどんは最高だった。異世界で初めてのまともな食事に、思わず涙すら出そうになっていたその時。


「……おかわり、できます?」


そんな俺の背後から、鋭くも冷たい声が突き刺さる。


「聞いているのか、“最弱勇者”」


くるりと振り返ると、そこに立っていたのは――

美しい。いや、美しすぎる。


漆黒のロングヘアに、燃えるような紅い瞳。黒銀の軽鎧を纏った、見るからにラスボス系のオーラを纏う少女。年齢は……見た目高校生ぐらい?でも耳が尖ってるし、角もあるし、多分人じゃない。


「え、えーと……注文、間違えました?」


「答えろ。お前がヒノシタ・ユウトか。異世界から召喚された“勇者”」


「あ、うん、まぁ……一応。でも辞めました。今日からフリーター志望で」


「――フハハハハ!いい、実にいい。貴様のようなクズこそ、私にふさわしい!」


いや何が!?

なんだこの展開!?

ご都合主義来たけど方向おかしくない!?


「……すみません、どちら様?」


「我が名はレミリア・ナイトメア。魔王軍直属、四天王の一角にして、“人類殲滅担当”よ」


いややっぱ敵じゃん!無理!


「なんでそんな人が俺に……?」


「気に入ったからだ。使い道のないクズほど、改造しがいがある」


「え、待って、それR指定入らない?倫理的にセーフ?!」


「黙れ。お前には明日から、魔王軍で研修を受けてもらう。今すぐ契約書に血判を――」


「断る!断る断る断る!!俺はサボると決めたんだ!!絶対働かん!!」


「……」


レミリアは俺を見下ろし、ふっと目を細めた。


「ならば、選択肢は二つ。魔王軍で働くか――」


彼女は腰の剣を抜いた。黒く光る刃が、宿の床をギィィと削る。


「ここで死ぬかだ」


うわあ、これが噂のブラック企業!異世界でもパワハラ健在!


「……わ、分かりましたよぉ……でも俺、戦えませんから。皿洗いとかで……」


「ふむ、それも悪くないな。まずは“掃除係”から始めるとしよう」


こうして、異世界で勇者として召喚された俺は、

魔王軍のパート清掃員として死なないための就職を果たしたのだった。


――俺の異世界スローライフ(?)が今、始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る