神様、異世界で撮影スキルってなんですか!?

ゆずポン酢

第1章 ヴィリジアンヴィレッジ編

第1話 災難

 怒り狂うブラックドラゴン相手に、逃げ回りながらカメラを構える。こちらにブレスをかまそうとする一瞬をとらえる。

 レンズの武器化までの必要枚数 残り14枚。無情なアナウンスが聞こえる。瞳にピントが合ってないとカウントされないなんて、なんてクソ仕様なんだよ!

 ドラゴンの攻撃を回避し続け、撮影を続ける。

 ・・・2・・1・・0

起動アクティベイト

 一本の剣が現れる。俺は、その剣を握り、ブラックドラゴンを切り付ける。

 今までどんな攻撃も通さなかったドラゴンの鱗が切り裂かれる。

「準備は整った。さぁ、ラストダンスの時間だ。」






 そもそもの始まりは、クリスマスイブイブにレンズを手に入れた時に遡る。






 12月23日 明日はクリスマスイブ。38歳独身の俺には関係のないイベントだ。

 いや、むしろ関係あるのか?リア充どもめ、爆ぜろ。と念じるのは、毎年恒例となっている。

 自分で考えていて、虚しさを感じる。俺も大人になったものだ。


 俺こと影野 明(カゲノ アキラ)が向かっているのは、中野にあるカメラ店。

 クリスマスセールでレンズがお得に買えるのだ。

 夏のボーナスで、フルサイズながら、コンパクトを売りにしているSOMY製のカメラの2型を購入した。

 その時の店員さんが出迎えてくれる。初心者にも親身になって相談に乗ってくれる人だ。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは、今日はレンズを買いに来ました。」


「いいですね。レンズを変えると、写真がガラッと変わりますよ。普段、撮られているものを教えてください。」

「えーっと。基本、街の中をぶらぶらしながら、気になったものとか。あとは、食べ歩きの際の料理の写真です。」


「そうですね。大きさとか、予算などありますか?」

「できるだけ小さい方がいいです。予算は10万円程度かな。」


「なるほど、そうなると、明るい35mmの単焦点レンズかサードパーティ製のレンズですが、20−40mm F2.8がおすすめですね。明るいレンズなので、ボケも期待できますし、街中スナップと料理の撮影にはぴったりかと。」

「流石に、単焦点レンズはハードルが高いですよ。こっちの20−40mmは、小さくて軽くていいですね。」


 そうして、TOMRAN製の20−40mm F2.8を購入した俺は、早速使うべく、中野から東京駅へ移動する。

 ふぅ、街の煌めきが心に刺さる。。。しかし、撮影するにはうってつけなんだよな〜。

 さて、撮影するか。


「きゃーー」


 ん?悲鳴?


 ブスッ。


 は?脇腹を刺された?なんで俺が刺されなきゃいけないんだ?

 痛てぇ。刺された場所が熱い。


 人に恨まれるようなことは何もしていない。

 通り魔か。こんなことになるなら、もっとやりたいことやっておくんだった。


 だめだ、今度は寒くなってきた。このまま死ぬんだろうな。


 新しいレンズ買ったばかりなのに、1枚も撮れなかったな。

 これから、いろんなところを旅して、たくさん写真を撮るつもりだったのに、神様恨むぜ。



【対象の死亡を確認しました。魂の保護を開始します。】



 なんだ、この声。死亡を確認しました?俺のことか?

 死んだら声なんて聞こえないでしょうに。

 魂の保護?


 俺は紳士の嗜みとして、いくつかの「転生もの」は読破している。

 これ、ユニークなスキルゲットして、丸くてぷにぷにしたアイツになる流れなんじゃ・・・


 そこで、俺の意識は闇の中に呑まれていった。

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