第17話 リリーナ様。公爵様と賠償問題について相談中。



「当家へようこそおいでくださいました。クレアール公爵閣下」


 わたしを先頭に、シュバインフルト家タウンハウス使用人一同で元王子様をお出迎えした。

 クレアール公爵(元王子様)は明るい日中でそのお姿を拝したらさらに眩い。

 まさに「王国の太陽に拝謁申し上げます」とか言いたくなるわー。まあこれは国王陛下拝謁の時の口上だけどね。


「リリーナ、起き上がって大丈夫なのか? あのあと発熱したと聞いていたんだが」

「御意」

「……あくまで私的な見舞いなんだから、そこまで堅くならなくても」


 ははは、そんな親しくもございませんですし。

 これが適正では?

 と思っていたら、元王子様、わたしの頬に指先をそっと触れる。


「腫れは引いたようだが……」

「はい、顔の方はだいたい」


 わー距離近いー!

 近いよ! 元王子様!


「お見舞いのお花、ありがとうございました。閣下」


 尊すぎて目がつぶれそう。


「白百合を贈るなんて縁起でもないと臍を曲げられたらどうしようと思っていたんだが……リリーナの花かなって思ったんだ」


 白百合って、この世界では葬儀にも用いられる花の代表格。

 でもいただいたのはカサブランカだから。わりと結婚式とかにも使われるのよ。

 そんな気になさらなくてもいいのに。

 でも、わたしの花って何?


「わたしの?」


「名前といい、形といい、リリーナみたいだなって」


 そこではにかむとかさあ! ちょっとお! 可愛いじゃん!

 なんだろう、婚活全敗とはいえ貴族令息とは面識はあるんですけど、こんなかっこいいと可愛いのハイブリッドは見たことないわ!

 元王子様は伊達じゃないってことよね?


「光栄です」


 わたしが元王子様を案内しようとするけれど、さっと、わたしの手をとってエスコートをしてくださった。


「応接室? こっちだろう? まだ子供の頃、先代を訪ねてここにきたことがあるんだ」

「さようでございましたか……」


 多分わたしがこのシュバインフルトに来る前かな……。


「リリーナを一番初めに見たのもこのタウンハウスだったな」

「え!?」


 なんですと!?

 それは初耳なんですが!


「俺が学校行きたくなくて先代に愚痴りに来た時とか。そうリリーナが先代の養女として引き取られて間もなかったんじゃないかな。クラウドにいろいろ質問攻めにしていて、元気な子だなと思った」

「そ、そうでしたか……存じ上げませんで……」

「まあ、あの頃の俺は、今よりもなんていうかある意味自由で不自由だったから……当然、リリーナに声はかけられなかった」


 ぎゃー!

 なんてカードを切ってくるんだ! この人!

 生意気も生意気、真っ盛りのわたしじゃないですかー!

 義弟に言わせれば「それ、今もだから」なんてツッコミが来そうだけどね!

 クラウドが応接室のドアを恭しく開けて、応接室に入ると、室内に飾られてる花は元王子様からいただいた白百合がところどころに配されていた。

 いただいたお花、大事にしてますよ感出てるわあ。

 グッジョブ、クリーンメイドさん達。


 元王子様にソファを勧めるが彼はわたしを先に座らせて、なんとその真横に座るじゃありませんか!


「ちょっと気になるんだ、実は利き手、まだ痛みが残るんじゃないか?」

「あ、はい」


 うっかり素で返事をしてしまった。


「ちょっと熱もまだある……? すまない……」


 こつんって額をくっつけるとかない。

 距離感バグってませんか? 元王子様!


「だ、大丈夫です!」


 落ち着け。落ち着こう。よし、大丈夫、落ち着いた。


「ビュッセル卿との賠償問題についての事前打合せは、早いに越したことはございませんから」


 わたしがそういうと、元王子様は、すっとわたしの痛む手首を両手の平で包むようにして持ち上げる。


「リリーナ、この手は医者に見せたのか?」

「いいえ……たいしたことはないかと」

「クラウド! シュバインフルト家の専属医を呼べ! すぐにだ!」

「御意!」


 元王子の言葉にクラウドが反射的に返事をして応接室を出ていく。


「リリーナ、もしかしたら骨が折れているかヒビが入ってるかもしれない。ちゃんと診てもらうように」

「まさか」


 力いっぱい握られてはいたけど、まさか!?


「痛みが残って熱があるのは、そうかもしれないから」


 わたしは目を見開いて自分の手首を見る。


「リリーナ、あの男はどうした」

「はい?」

「あの男の身柄を引き渡せ、俺が殺る」

「うーん……、引き渡せませんねえ」


 人体の一部を切断して、それを魚の餌にしてくれたあと、客をとらせてるので。

 とは言わないでおいた。

 けど今、この人、「殺る」とか言った? 幻聴か?


「これはシュバインフルトの面子の問題と慮ってくださったのでは? それよりも、奴の被害についての詳細をお知らせくださる為にわざわざお越しくださったのでしょう? ビュッセル家への賠償問題の事前打合せ、始めませんか?」

「いや、ビュッセル家への連絡はリリーナの診察が終わってから日程を決めよう。金額が変わる」

「で、詳細は?」


 あらーイケメンって、眉間に皺寄せてもイケメンだわあ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る