第一話 月見里探偵事務所
綾人は探偵事務所のソファで目を覚ます。
(しまった。寝てたか)
綾人はゆっくり体を起こす。
「⋯にしてもなんだあの夢」
顔を片手で覆った時、チャイムが鳴った。
「依頼かな。はい!」
夢見の悪さを抱えながらドアにむかいガチャリと開けると、12月の寒い風が吹き込んできた。
見ると寒空の中、灰色のコートに黒髪を風に揺らした女性が白い息を吐きながら立っていた。
「あの⋯月見里探偵事務所はこちらでしょうか」
おずおずと訪ねる女性は不安そうに綾人を見た。
「はい。依頼ですか?」
綾人は女性に笑みかけて見せる。
「はい。行方不明になった家族を⋯探してほしくて」
「なるほど。ここでは寒いので中で詳しいお話を聞かせてください」
「ありがとうございます」
綾人は手のひらで事務所の中をさし示す。
女性はぺこりと頭を下げ綾人に続き中に入ると、案内されたソファに腰掛けた。
「コーヒー、紅茶、緑茶、どれにします?」
キッチンに向かいながら綾人が尋ねと、女性はおずおずと答えた。
「なら⋯コーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
綾人はコーヒーをカップにつぎながらチラリと女性を注意深く見る。女性は20代ぐらいな活発というよりはおとなしそうな印象を受けた。
女性は探偵事務所が珍しいのかキョロキョロと落ち着きなく辺りを見ていた。
「どうぞ」
綾人はいれたコーヒーを持ってむかいのソファに行くと女性の前にカップを置き、ソファに腰掛ける。
「ありがとうございます」
女性は頭を下げコーヒーに口をつけた。
「では、お名前と依頼内容をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「はい。吾妻凛と申します。高洲大学に通っています」
「ほぉ。それはすごいですね。実家から通っているんです?」
すると吾妻凛は首を横に振った。
「いえ、大学近くで一人暮らしをしています。⋯なので、なんで家族が居なくなったかわからなくて」
俯いた吾妻凛は話を続けた。
「はじめは、弟の光輝(こうき)が居なくなったんです。友達にも電話しましたが、どの子も遊びに来ていないと話していて」
「なるほど。警察には?」
綾人の問いに吾妻凛は再び否定をするように頭を振った。
「相談して失踪届も出しました。でも何の進展もなくて⋯。それからしばらくしたら、母親から光輝の居場所に検討がついたと連絡があったんですが、そこから両親とも連絡がとれなくなってしまったんです」
説明する彼女の声は泣くのを我慢するように震えていた。
「なるほど。 その手がかりについてお母さまは何か話していいましたか?」
吾妻凛はかぶりを振った。
「それが⋯手がかりがあった、とだけでそれが何かまでは教えてくれなかったんです」
「なる⋯ほど。んー他に何か手がかりとなるようなことはありますか?」
綾人は腕わ組み「んー」と考えこむ。
「手がかり⋯になるかどうかわかりませんが」
吾妻凛はそう言うと、ガサガサと自分のカバンの中を探り中から1冊のハードカバーの本と白い封筒に入った手紙を出し綾人に差し出した。
「光輝がいなくなったと連絡がある前の日に光輝から私の家にこれが届いて」
「拝見しても?」
「はい」
綾人は本と手紙を受け取ると、封筒をあけて中から手紙を出す。
『姉ちゃんへ。
姉ちゃんが好きそうな小説を見つけたから買っといたよ。良かったらあとで感想聞かせてよ、僕のお気に入りは1番最後だよ。光輝』
その手紙にな丁寧な文字が並んでいた。
「吾妻さんはミステリーをよく読むんですか?」
綾人は顔を上げ吾妻凛に視線向ける。
「いえ、私はどちらかというとファンタジー系が好きでミステリーはあまり」
(ん?ならなぜ?)
綾人は首を傾げると本をパラパラとめくっていく。
すると見返しの部分に見返しの色と同じ色の紙が貼ってあった。紙を剥がすとそこからは小さな封筒が顔をのぞかせた。
封筒を開けると中から小さな鍵が出てきた。
「それ!」
吾妻凛は声を上げ鍵を指さした。
「これどこの鍵がわかりますか?」
綾人は吾妻凛を見る。
「たぶん⋯光輝の部屋の鍵です。でもなぜそれを私に?」
「それは部屋に行ってみないと何とも」
綾人は再び考え込む。
「⋯でしたら、今から見に行ってみますか?」
綾人はパッと吾妻凛を見る。
「そうしていただけたら助かります」
「私は構いませんので、月見里さんの予定がなければ」
「俺は特には」
すると、吾妻凛はニコリと微笑んだ。
「それでは是非」
「ありがとうございます。では、早速行きましょうか」
そうして2人は事務所をあとにした。
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