第3話

「ここが私の家ですよ、先輩。初めてですね。こうして先輩が私の家に来てくれるのは。」


其処は特に目立つことも無い閑静な住宅街の中、白い屋根をした一般住宅の前に立つ彼女は俺の手を一秒でも離したくないとでも言いたいほどに強く握っている。


「そうだな。初めて来たよ。ところで俺の手いつまで握ってるの?」


「それじゃあ行きましょうか。先輩。」


大変!この後輩、一ミリも俺の話を聞いてくれないみたい。岩坂は慣れた手つきでドアの鍵を開けると、玄関の中に俺を引き入れた。家の中は酷く閑散としていて不気味なほど静かだった。こいつ以外誰もいないのか?


「そうですね………じゃあ、私の部屋で少しお話でもしましょうか。具体的には先輩がいなくなった後の一年間の話でも。」


岩坂はリビングの中に入り、お茶とコップ二個を持ってくると俺に案内するように先に家の中の階段を上り、自分の部屋と思わしき場所で俺の方向を振り向いた。俺は彼女について行くようにその部屋の前まで行くと二人で部屋に入った。


「私、夢だったんですよ。この部屋に先輩を入れるのが。」


岩坂は茶を部屋にある机の上に置きながら微笑んでいた。だから、その眼が笑ってない微笑みを止めてほしい。鳥肌が凄い。


肝心の岩坂の部屋はベッドに勉強机に本棚など特に目立つ物は置いていない質素な部屋だった。それどころかよく見たら勉強机にも少し埃が見えるくらい。あまり部屋とか使ってないのか?


「先輩、暇ならベッドで寝てて良いですよ。どうせ最近は使ってないですから。」


「使ってないってじゃあ何処で寝てるんだよ。」


俺が彼女の不自然な言動に困惑していると、彼女は首に人差し指を当てて考えるような思い出すような動作をしてから何でもないように答えた。


「私はここ一年くらい、リビングのソファですかね。上手く寝れない時には先輩を探しに行ってたんですよ?それでも見つからなくて悲しみながら寝てましたけど。」


「え?寝れない時には探しに行った?何処まで?」


「もちろん、先輩が失踪した山まで向かってですよ?先輩がいないことが認められなくてそれでも此処が最後に先輩がいたところだって思うと心が休まるんです。」


岩坂はうっとりと恍惚とした表情で語る。本当に怖いんですけど。というか、華の女子高校が失踪した男子生徒を探しに深夜に山まで徘徊してるのは危険なのではないか。

だが、俺が言いたいのはそんな啓蒙めいた事ではなく、その理由だった。


「えっと………果たして感謝すれば良いのか分からないけどありがとうな。でも、どうしてそんな事を?」


俺は恐る恐る聞いてみると、彼女は上品な笑い方をしながら口を抑えた。何がそんなにおかしいのだろう。元々、俺が知ってる岩坂という人間は俺の事を揶揄い、馬鹿にし、それを楽しんでいたただの後輩だったはずである。


目の前にいるような俺を心配し、山まで探しに行き、部屋に入れるのが夢だったというような少女ではなかった。その時、俺はもう一つあの幼馴染、紗希から来ていた大量のメッセージの内容を思い出す。アイツも、俺を心配するような奴では無い。


俺がいなかった一年の間に一体何が起こったんだ?


「いなくなって分かったんですよ。先輩の大切さというものが。」


岩坂はそう言いながら彼女のベッドに腰かけて座っている俺の近くに寄って来た。何をする気なのか。それを聞く前に、俺は彼女によってベッドに押し倒された。


「え?」


余りの突然の出来事に俺の頭はフリーズした。目の前に覆いかぶさっているのは、端正な顔立ちをした後輩だった。こんなに至近距離で見たこともなかった彼女の顔は黙っていれば美人なことを思い出させて動じさせてしまう。


「おい、はよどけ。邪魔だ。」


「嫌ですよ。だって今の先輩。眼を離したらすぐにいなくなっちゃいそうですから。」


「はあ?」


一体どんな心配をしてるんだコイツは。いや、俺も知らないけど勝手に蘇ってただけだからふらっと消えてもおかしくないのか分からない。だが、少なくともここまで近くで監視することはない。


俺は岩坂を退けると互いにベッドの上で正座になった。コイツは本当におかしい。当の岩坂は俺を押し倒して満足したのか、一つ大きな溜息をすると俺の手をふいに握って来た。


「はあ、先輩がいるってここまで感動できるものなんですね。ふふっ。ああ、確かに先輩が動揺するのも当たり前ですね。だって昔の私はこんなじゃなかったですから。」


「それをさっきから言ってるんだよ。」


「言っておきますけど、先輩がいなくなってこうなったのは、私だけじゃないんですよ?日岡先輩も浅輪先輩も私と同じです。」


「日岡と紗希も?」


俺は紗希から送られてきたメッセージはそういうことなのかと疑うが、それでもまだ信じられない。あの日岡だってそうだ。アイツら、というか目の前の岩坂含めて三人は俺の事を心配するような奴らではなかったはずだ。


岩坂は俺の顔を覗き込むように見ると、光を失くした眼で言った。


「そう、全部先輩が悪いんですからね?」


彼女は俺が居なくなった後をそうして語りだした。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


やばい。今回ガチつまらん。

次の過去編に委ねた。

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【改訂】転生したら死んだ一年後だった。いつもバカにしてきた女子が俺が生きてると知ったらヤンデレ化した    @aka186

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