転生話術師と交霊少女 ~探偵ギルド立ち上げたら、知らないうちに世界が俺たちに注目し始めた~
鶴岡遊
第1章:少女アンバーとの邂逅
第1話 序章:残業ライフ→貧乏ライフ
「ああ…やっと、久しぶりにたんぱく質が取れる…。」
時折、2重にぶれる視界の中で、俺は呟いた。
手には、夕暮れ時の店に売れ残っていた何かの豆の袋。
これを見つけた時には、思わず感動のあまり涙を流してしまった。
周りの客に若干引いた眼で見られたが良しとしよう。
しかし、これでニガエグ草ばかりの生活とは、しばらくの間おさらばだ。
かなりの量を買い占めたから、1週間は持つだろう。
そんなことを考えていると、ふとため息が出た。
「ああ、まさか探偵業がこんなにきついとはなぁ…。」
かれこれ何十回も繰り返している悩みだった。
「よおー。アル、元気かあ?」
フラフラと歩いているとそんな間延びした声が聞こえて、振り向くと見知った顔が
そこにいた。
「やあ、デルト爺さん。まだ酒を入れるには早くない?」
「いいじゃねえか!こちとら、やっと縄張りキープできたんだぜ?
気分も高くなるってもんさ。」
ガハハと勢いよく笑った後、デルトは自分を見て顔を曇らせた。
「お前、またそんな病人みたいなツラしてるじゃねえか!顔色が真っ青だぞ。
これならまだ魚のほうが赤みがかってらあ。」
「いや、まあ数週間の間、ニガエグ草しか食べてなかったから…。」
「なに、あんなもんを数週間!?お前、よく生きてんなあ…
おし、ちょっと待ってろ。」
そう言って小屋に引っ込んだ爺さんは、干し肉を括り付けた縄を数本、
僕に投げ渡した。
「とりあえず、それでも食っとけ。少しはましになるだろ。」
「いつもいつも、ありがとうね…。」
「いや、お前俺より若いのに早死にしそうで怖くってよお。
世話の一つも焼きたくなるってもんさね。」
「ハハハ…。それにしても、こんな上等なのどこからとってきたの?」
「なに、店の前に吊り下げてあったのをかっぱらってきたのよ。」
「いや盗品じゃん。」
何やってんだろうこの爺さん。もう年もいっているのだから、下手すると前足を折るかもしれないのに。
「あまり無茶して、三味線にされても知らないからね!」
「ばかめ、わしがそんなヘマをすると思うのか?」
思わない。この爺さん、年の割にありえないほど俊敏だから。
それに腕っぷしも強い。ほかの野良とのけんかでも余裕で勝てるぐらいだ。
なので心配はしていない。
「じゃあね。体を大事にね。お酒はあんまり入れちゃだめだよ。」
「お前こそ、自分の体を大切にな。」
・・
耳の痛いことを言いながら、その老猫は千鳥足で歩いて行った。
幼いころから、自分は探偵を志していた。誰もが頭を抱えるような難事件を颯爽と現れ、たちまち解決する。それでいて、威張ることなく紳士的な態度。何をとっても、
探偵というものは僕にとってかっこいい唯一無二のヒーローだった。けれど、現実はそれほど素晴らしいものじゃない。収入も不安定。不倫から浮気調査、本の中にあるような奇奇怪怪な難事件はなく、人のどす黒い闇を垣間見る方が多い仕事。
それが、現実の探偵だった。そんな、探偵の姿を知り幼い僕は絶望し、夢をあきらめた。そして、1人の会社員として、人生を全うするつもりだった。
深夜、かれこれ何か月目かの残業をしていると常飲しているエナドリが切れていることに気づいた。
「あ、買いに行かないと…。」
フラフラと財布を手に取り、薄汚れたコートを羽織ると会社を出た。
なぜだろう。僕の思い描いていた人生はこんなはずじゃなかった。
もっと、誰かの役に立ちたかった。感謝されたかった。最後に、誰かにお礼を言われたのはいつだったろうか。よく思い出せない。最近は、罵倒の声ばかりが頭に残っている。ああ、もっと…。
向こうから光が迫ってくる。疲労のせいか、目がかすんでよく見えない。
変だな。走っているわけでもないのにコンビニがどんどん近づいてくるぞ…。
迫るそれの存在にようやく気付いた時、俺は全身の力が抜けて、静かに涙し、
目を閉じた。
ああ、せめて…。
刹那の瞬間、俺は笑った。
やり直せるのなら、今度こそ探偵になりたい、と。
衝撃、暗転。それが、俺の第一の人生の幕引きだった。
そして、俺は生まれ変わった。異世界の少年、アルフレッド・ドクトリスとして。
そして、俺は思うことになる。「どうして、こうなった。」と。
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