第2話

森尾もりお君、ここ教えてほしいんだけど」

「ん?どこだ?」

「ここ、ここ」


 春風はるかぜさんが分からない数学の問題を見る。

 てか、何で俺に聞くんだ?別に良いけど。

 でもな…友達に聞けばいいのに。


「ありがとう。とても分かりやすかった」

「どういたしまして」


 理解出来たなら良かった良かった。


「教えるの上手だね」

「そんなことないよ」


 月並み、普通だ。大したことはない。


「あのさ春風さん」


 クラスメイトの男子が春風さんに声をかけた。

 すると、春風さんは固まり無表情に。


「委員会の仕事手つだ…」


 男子の言葉を、彼女は遮った。


「用事あるから他あたって」


 面食らう男子。その後、ため息1つ吐いた。


「…分かったよ」


 男子は諦めて他の人の所へ行った。


「良いの?手伝ってあげたほうが…」

「大丈夫大丈夫」


 笑っている春風さん。

 でも、目は笑っていない。


「春風さん」

「なに?」


 気になったから、勇気を出して聞いてみた。


?」


 時計の針が止まったような気がした。

 俺と彼女の2人だけのような気もした。

 時間は止まってはいないはず。

 だとすると、今止まっているこの感じは、何十秒も何分もの長い時間になった。

 ふうっと息を吐いた春風さん。

 俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で、ゆっくりとこう言った。



 ニッコリと笑ってどこかへ行ったのだった。

 取り残された俺はというと。


「くっ…」


 可愛い笑顔を見てしまい、悶絶したのだった。


 彼女には、何にも言えない、聞けない。

 手のひらの上で転がされる日々はいつまで続くんだか。

 先が思いやられる。



 春風美優 side


 核心を突く質問に戸惑いの表情が出ないかヒヤヒヤしたけど大丈夫だった。

 本心はまだ隠す。


 だって、ね…


 


 振り向いて欲しいな。

 頑張ろう。


 思い出してね、あの日のことを。

 思い出すと、答えが分かるから。

 楽しみだな。だから待とう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】森尾君にだけ優しい春風さん 奏流こころ @anmitu725

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ