第4話 先輩!夜が来ます!行きましょう!


 葦原と建早はファングの酒場を出た。

 上空から音がして、二人は上を向いた。空が軋む音を立てて、まるで空間そのものがひび割れるように、空が引き裂かれはじめていた。


「夜だ!」


 建早の声が、乾いた空気に乗って響く。


「また視界が……っ!」


 世界がにじんで歪む。葦原は思わず足を止めて眼を細めた。

 音、風の感覚、空気の振動。そうした感覚だけが世界を構成している。建早がぼそりと呟いた。


「視覚の崩壊が本格的になって来たな……」

「急ぎましょう!メアリーさんが透明になったのは、<旧礼拝堂跡>の近くだって!」


 葦原が足早に歩きながら確認する。


「認知の中心……神殿だな。視界を閉ざしたクライアントが、自分の記憶を封じた場所だ」

「つまり、見たくなかったものが眠っているんですね!?」


 うなずいて、建早が歩みを早める。


「お前も気を抜くな。ここから先はが空間になる。世界の法則が一段と不安定だ」



 葦原は杖の鈴を鳴らしながら、歩みを進める。音がを照らす様に響き、揺らめいた影がその先を照らした。

 やがて、旧礼拝堂跡の側にある神殿が見えて来た。枯れた草原の奥にある神殿の姿が、ぼんやりと立ち現われる。手前に、石板が設置されていた。

 その形を持たない建物がそびえ立つ場所を目指して、二人がかけつける。


「これが神殿……?」

「いや、認識されていない記憶の塊だ。だから、まだ。侵入するには……」


 建早が剣を抜いた。彼は、大剣を振りかざして、足元の石板を一刀両断した。

 石板が音を立てて割れる。葦原は、屈んで瓦礫を取り除いた。その中から、古い写真が出てくる。

 写真を手に取り、葦原が立ち上がった。

 その写真には、学生服を着た若き日の蛇室正司と見知らぬ女の子が写っていた。二人は仲睦まじげに肩を寄せている。


「これは……!」


 写真を認識した瞬間、目の前の神殿が形を取り戻す。

 舗装された神殿までの道はひび割れて草生し、柱はねじくれて傾ぎ、扉は蛇の眼のように歪んで閉じられている。音が扉の隙間から溢れ出す。


『……ああ……! 俺があの時……!』

『何故……!何故……!』

『やめろ……死なないでくれ……!』


 その声は神殿の内側から響いていた。耳を塞いでも聞こえてしまうほどのざわめく<記憶の声>が漏れ聞こえて来る。

それは蛇室の記憶の声だった。葦原は驚いて叫んだ。


「これ……!完全に<記憶>そのものじゃないですか!」

「ああ!歪みの核はここだ!視えないものを、ことで形にするのがこの世界観のルールだ。俺たちはで進むぞ。着いてこい!」






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