マイナーコード
ハヤシダノリカズ
第1話
「日本の青空は白いよね」
そう言っていたのは誰だっけ。あぁ、思い出した。大学一回生の時の基礎クラスで少しの間仲良くしていた帰国子女の女の子だ。確か、中学まではカリフォルニアにいたとか言ってたな。あの頃は何を言っているんだと思っていたけど、今は分かる。日本の青空は白い。この街を覆っている今日の空は快晴だけど、そうだな、白いな。
東京よりは緩やかに時間が流れているようにも思うが、空はやっぱり快晴でも白く、交通渋滞の鬱陶しさは東京と変わらない。
多すぎる信号にうんざりしながら俺はメーターパネルに目をやる。今回の一人旅の出発時点で一応トリップメーターをリセットしてきたが、その数値はオドメーターの数値とさほど変わらない。
『ザキさんにはこれが似合ってますって!』
そう言ったのはマネージャーの嶋くんだった。
『キャラ的に丁度いいのはこれだろう』
そう言ったのは宮本社長だった。
金を出す訳でもない彼らのチョイスに従わざるを得ないのが俺の芯の弱さだろう。それなりに売れているとはいうものの、暗闇を手探りで歩くような音楽業界で、自信なんてまるでないままに何とかやっている俺は、彼らのプロデュース手腕に頼らざるを得ない。
真新しいアバルト・チンクエチェントは内装が洒落ていて気に入っているが、俺の自由の無さと自信の無さを象徴しているようで、若干の居心地の悪さを覚える。
俺のキャラに合っているというのはどういう事なんだろう。幼い頃に夏休みの度に再放送されていた古いアニメの主人公が操っていた車に雰囲気は似ているが、俺がその主人公に似ているだなんて思えない。
オレの生み出す音楽はそこそこイケていてイタリア車のようにこまっしゃくれているが、背も低く筋肉質でもないオレにはこれ位のコンパクトな車が丁度いいという事だろうか。
まあ、いい。その辺りの真実はどうあがこうと知ることは出来ないさ。それに、知る事が全て良いとは限らない。去年のレコーディングで訪れたLAの空の抜けるような青を知らなければ、日本の青空を白いだなんて思わなかったんだから。
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