異世界で宇宙を目指し異端児扱いされている少女と宇宙を目指す話〜空を夢見る少女と宙を夢見た少女〜
皇冃皐月
プロローグ
プロローグ
「
私がまだ小さいころ。いつ頃だろうか。小学生にまだなっていないころだったのは覚えている。だが、詳しいことは忘れてしまった。でも、会話は鮮明にはっきりと覚えている。発端はお父さんが宇宙に関するドキュメンタリー? みたいのを見ていた時だった。お父さんに甘えるように私はお父さんの膝にちょこんと座って、テレビを見る。大きなテレビの画面に映し出される銀河。星々が輝き、背景の漆黒さとのコントラストに心を惹かれた。その時の私には語彙力というものが備わっていなかった。故に「きれー……」私が宇宙と出会ったのは……それほどに遠い昔にお父さんの言ったその言葉は忘れられなくて、私の頭の中にずっとこびりついていて、今の私の礎となっている。
「お父さん」
「なんだ」
「ここにどうやったらいけるの?」
私はまだ子供だった。幼かった。小学生にもなっていないのだから当然ではある。
テレビに映る広大な世界を指さして私はお父さんに問う。
お父さんは私の問いを聞くと、愉快そうにあはははははと笑った。
「なんだ、世那。行きたいのか」
「いきたいっ! だって、綺麗だもん」
「そうか、そうか。それなら、よく食べて、よく寝て、たくさん運動して、たくさん勉強する。そうして大人になれば。きっといけるさ」
「ほんと?」
「ああ。本当だ」
「お父さんも一緒にいける?」
「あー。どうだろうな。さすがに世那が宇宙飛行士になったときにお父さんはもう現役じゃないだろうし……なあ。厳しかも」
「えー、いこ? 一緒に」
「あはは、そうだな。少し頑張ろうかな」
と、お父さんは苦笑した。
◆◇◆◇◆◇
時は流れて、私は高校生になった。ぴちぴちな高校生。現実と妄想。それくらいは分別のつけられる大人になった。
「おい、
教室でぼんやり外を眺めていると、担任の怒号に近い声が教室を包み込む。ふと声のする方を見る。担任は一枚の紙を持ってきて、呆れたような顔をしていた。
私の元までやってくると、その紙を机の上にぽんと置く。
そして。
「袴田。これはなんだ」
「なんだって。進路希望調査ですね。朝出した」
「……いや、あのな。わかってるならなおのこと問題だ」
どこが問題なのだろうか。机に置かれた進路希望調査に目線を落とし、首を傾げる。
「なんだその反応。良いか? 読み上げるぞ」
「どうぞ」
「はぁ……」
担任は深いため息を吐く。
「『第一希望:宇宙飛行士』『第二希望:宇宙飛行士』『第三希望:宇宙飛行士』ってなぁ、小学生じゃないんだから。もっと現実的な進路をだな」
「でもお父さんはなれるって言ってました」
「袴田のお父さんが宇宙飛行士なのは知っているがな、これをお父さんに見せたって同じこと言われるだろ。現実を見ろって」
「先生は私が宇宙飛行士になれないっていうんですか」
「いや、そんなことは言っていなくて。その、だから、現実的になれって言いたくてだな」
「じゃあ、それで大丈夫です。現実的です」
宇宙と出会ってから、宇宙のことを勉強し続けた。宇宙飛行士になるために運動もたくさんした。現実的に。客観的に見て、私には宇宙飛行士の才能があると思った。
夢見すぎだって笑われた。馬鹿にされもした。それでも私は自分の描く夢を馬鹿だとは思わないし、非現実的なものだとも思わない。
決して私は夢見る少女ではないのだ。
進路希望調査の紙を担任の胸元へ押し付ける。それから私は立ち上がり、リュックを手に持って教室を後にする。
「そうじゃなくて、宇宙飛行士になりたいならなりたいなりに進学しなきゃいけないだろうに……」
担任の嘆きにも近い声が背中から聞こえてきたが、私は振り返らない。
◆◇◆◇◆◇
『宇宙の広さは世界の広さ。地球外生命体も――』
夢を馬鹿にされることは多かった。私が女だったというのもあってなおさらだ。
小さなころは周りの女の子は皆パン屋さんだとか、お花屋さんだとか、パティシエだとか。いかにもな夢を語っていた。宇宙飛行士になりたいと夢語るのは男子のもの、みたいな共通認識があった。だから馬鹿にされた。小学校高学年になれば、今度は皆現実を見るようになる。女子は保育士や教師、看護師など。男子はサラリーマン、プログラマー、公務員など。だから「宇宙飛行士」という夢はあまりにも浮いて、異端扱いされて、馬鹿にされた。今まで笑わずに、受け入れて、肯定して、一緒に夢を描いてくれた友達は一人しかいない。それほどにバカにされてきた。
それでも私はぶれなかった。小さなころに抱いたあの気持ちを……周りに同調するためだけに捨てることはできなかったのだ。
そして、こうやって他人から夢を馬鹿にされた日にやっていることがある。それはユーチューブで宇宙の動画を見漁ることだった。その動画の内容が真実か否かは関係ない。それすら不明瞭なのがまさに宇宙。ロマンの塊で、私があこがれた場所。だから行きたい。行く。絶対に行く。そうやって気持ちを高めていく。
歩きながらスマホで動画を見る。
馬鹿にされてからすぐに見れるのがスマホのいいところだ。
そして、気が付けば目の前に大型トラックのフロントがあって。ちらっと見えたのは赤色を灯す歩行者専用の信号機。
瞬時に理解できた。
あ、信号無視してた。してしまった、と。
そこから時の進みは早かった。
身体に強い衝撃が走って、全身に人生で感じたことの無いような強烈な痛みが走る。
地面が見えて、トラックのフロントガラスが見えて、空が見える。
また地面が見えて、トラックのフロントガラスが見えて、空が見える。
痛くて、痛くて、痛すぎて。
私はあっという間に意識を手放した。
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