第3話 ユーミちゃんと授業

暗黒の宇宙に流れる、煌めきのない星の大河。


「牛乳の道・・・かぁ」


まだ人類が宇宙へとその営みを広げる前、夜空に映る銀河を牛乳の川のようだと言ってミルキーウェイと名付けた、なんて話を思い出す。


深く広い暗黒に七色の光の濃淡で演出された、無数の白い光。星々の輝き。


「煌めきがないからなのかな・・・ベタにホワイト飛ばした漫画の夜空みたい」


右横に光の窓が開き、友人のミエが顔を覗かせる。


「もうすぐ接敵するよ。集中して」


「あ、ごめん」


独り言を拾われてしまった。

わたしは今、星々の光とは違う、人工的な光の瞬きを纒って宇宙空間に浮かんでいる。


四肢を機械に包まれ、尻と背をシートに預けて。


前方の星の川に煌めきが混じり始めた。


『散開!突撃―――――あっ』


中隊長機のマーカーが消え、九つに分かれた小隊が連結、崩壊を繰り返しあっというまに二小隊6機プラス2機になってしまった。


重粒子アラートが鳴り、わずかにヒザを動かして機体を沈ませる。

重い重力子振動と共に、幾つもの青い光の束がわたしの背後を通過していった。

突撃速度に合わせ初速を上げる為150ミリから100ミリ口径へと絞ったガンをビームから3点バーストモードに切り替え、敵の射線の先へ・・・踊る重力スラスタの煌めきにマニュアルエイムでトリガーを引き続けながら両足のスロットルを全開に踏み込んで加速してゆく。


撃ち込んでゆく先々でヒットマークが立つ。

砕けてゆく装甲の煌めきで演出された爆炎の花が次々と咲いて奇麗・・・えっ?

視界の左隅のキルカウントが目で追えない速度で回り始めたのを確認しギョッとする。


(うそっ、躱してよ・・・)


上級生との対抗戦、こちらは先輩に胸を借り教えを請う立場なのになにやってんのよわたし!


「火箭の偏差・・・敵の射線を予測、グリッドして!」


マクロに入れておくべきだった戦術コンへの指示を口頭で入力。

視界内、自分の身の回りへと動的に描かれてゆく敵の予測偏差射線に飛び込み被撃墜を狙う。


しかし粒子砲弾は悉くあらぬ宙へとこの身を通り過ぎてゆき、敵機・・・先輩方は波状突撃からリング状に広がったクロスファイアにフォーメションを変えてしまう。

単騎の敵機を包囲十字砲火・・・僚機の位置情報を失っているの?!


「それは・・・それは不味いです先輩!」


突撃交戦中で更に加速してくる敵機に包囲を試みようものなら、射線はあっというまにクロスからイコールになって・・・


怯えを装っての逆噴射を思いついた時には既に敵編隊の中央を突破していた。

私の機体の後方で、同士討ちの花輪が咲き乱れていく。


わたしはヘッドギアのスクリーンを両手で抑え、拭えない涙をひたすらに垂れ流していた。

木星の重力で再度スイング機動に入ろうとする機体を制動、腰部左舷スラスタでハーフスピンさせ、暗くなってゆく先輩方の花輪を見つめる。


敵機接近のアラートが鳴る。


「重力反応?1機くる・・・あれは中隊長機?!」


そうだ、ここで墜とされ・・・先輩方に花を持たせなければ。


ガンを投げ捨て最接近戦モード、重粒子サーベルを抜く。

そして両スロットルを踏み込んで隊長機へ向かい加速。


これで自然に正面から直撃弾を受けられ・・・って、なんで?!


中隊長機もガンを投げ捨て、抜刀した。



しかも二刀。



瞬きの間も無く接近し、わたしは片手上段を振り降ろす。




やってしまった・・・先輩の中隊長機が2つに分かれるのを確信した途端、世界が暗闇へ消えた。






鈍い暖色系のライトが灯り、薄灰色のシェルの内壁が目に入る。


・・・え?撃墜されたの?

相手の太刀筋もわからずに?


墜とされ癖がついてしまってる所為か、先ず被撃墜を疑ってしまう自分が悲しい。

お父様のように「あれ?故障か??」までの泰然自若は求めないけどMTDモートレの不具合やMMSシンクロナイザーのレイテンシを疑うくらいまでにはなっておきたい。


この第1学年中に。。。できれば。


わたしを包むように湾曲した内壁の正面下半分が細長く開いた。

外からの明かりの眩しさに目をすがめ、そこから教室へと這い出す。



べちゃり、と床に崩れる。

教室内の1G重力・・・体が鉄のように重い。

震える脚を立たせようと両手でスネを握りつつ、周囲から注がれる学友の全白眼に怯えてしまう。


抜け駆けでは無いけど、やって目立ってしまったからなぁ・・・


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