≠21:荒涼ぅー(あるいは、あー渚に波乗り/サマーセットもう無理SEASON)

 前哨罵倒戦マエフリが長かったからか、「戦い」は急に始まったように感じた(いや、実際そうっぽいけど)。


 無機質にxyz軸に広がる白空間。の中に割と狭い目に区切られた3×7メートル。このフィールド内に彼我3×2の6名が「戦闘態勢」にて互いの出を見計らって対峙している状態。各「五者星ごにんぐみ」の内の残る二人は双方の「陣」の後ろ側に控えている。姿は視認できないけれど、先ほどの「通信」のように指示・助言については特に制限されていないことは調べ済みだ。


 「プランA」……斐川おかっぱさんから今さっきその通信にて命令された通り、「それ」をいの一番に遂行すべき絶対確認案件であることは他ならぬ僕も理解はしている。ただそれをうまいことこなして、なおかつそれを「速攻勝ち」の布石としなければならない点、そして二度目は無い一度きりの「策」という枷がガンジと掛けられている点が、非常にメンタル弱い系の僕には難度が高すぎるということに相成る、それなわけで。うぅん、何でこの僕にこの役割が回ってきちゃったんだろうなぁ……(バーコードの引きによる)


 フオンと風のような効果音が鳴っている空間を挟んで、相手方は向かって左より、♧、砂漠、子猿という陣形。既に試合が始まって幾秒か経っていることが視界左隅の浮かぶデジタル数字がカウントダウンにより知らせてくるものの、不気味なほど絵面に動きが無い。そして沈黙。迂闊な「通信」は相手方へもある程度の情報が行ってしまうのと、話す/聞くに意識の少しでも割かれると、当該場での即応対応にラグが生じてしまうというデメリットもある。ので、双方相手の「出」を窺っているのでしょうか……


 今までは「初っ端アグロ展開」「遠距離先手必勝攻撃」がほぼ最適解とか考えられていたけれど、もちろんその界隈も研究が為されてきていて、今や一筋縄ではいかない現状ではあり、それプラス秀逸な「返し技」というものの存在も環境的に最近脚光を浴びつつある。現行主流となっている相手の「長距離氣弾」的なものを全て吸い取ってから的確に反射してくるカウンター的な奴、とか。最早初期の「純粋格闘」路線はどこへやら、「格ゲー」感が、そしてその中でもとびきり節操の無い類いの奴がこの界隈には無駄に層を成して在る、わけで、とは言えうぅん「プランA」が早くも瓦解しそうなんですが、斐川さんの圧を背中に感じるふぅ……と、


「ゲヤハハハぁッ!! 何ぞ? なんぞ萎縮してはばるがのんッ!? はちゃがばぁ、さっきのイキれかたはどうしたぎゃば? 『待ち』とか考えているんならば、そりゃはっきりOUTいらぁッ!!」


 せわしなくその原色がうるさい小さき赤の子猿の者が、いきなりスイッチが入ったかのようにどこの郷か分かりにくい言葉を金切る感じで吐き出したかと思ったら、距離を詰めて来たぞ……!! 何か指示が飛んだか……? 盤面奥に目をやると、そこにはゆるっとした黒いローブに身を包んだ、しかして両肩から峡谷に向けてざっくり開いた作りのものでその双上半球が包まれていないところの魔女ウィッチっぽい佇まいの「ミサ」さんと目が合う。や、非常に魅力的な微笑にて心を揺らされる。揺らされてる場合じゃない。


<平常心乖離率:35%>


 と、僕の視界右下にそのような表示がぽこと浮かぶ。何だ? こんなの見たことないけど。いやちょっと今考えてる場合でもないよ、向こうさんの「作戦」がもう始まってる。そして多分彼女ミサさんがうちでいうところの斐川しれいとうポジションだ。


 子猿氏の挙動に意識を無理やり返すと、その小さな影は右方向から盤面真ん中に寄って、僕と真向い、彼我距離あいだ4コマ。頭上で例の如意スティックをぐるぐると回しながら狂気走った笑みにて真っ直ぐに向かってきたよ……ッ!! テンプレにもほどがある絵面だけれど、これは、これは望んでいた展開でもある……ッ!! いくぞ僕。気合いを入れるんだっ。相手から目は切らずに、黄色に黒線の入った戦闘服トラックスーツに包んだ上半身をまずはゆるゆると定型の「体勢」へと移行させていく……そして、


ジョぉぉぉう、拳ッ!!」


 僕的必殺技マイフェイバリット、右小脇で溜めた青白色の光弾を、いま、両の掌にて押し出すようにして前方へと射出する……ッ!! がッ、


「カハハッ!! ありがち大人気のそいは、最近結構見させられた技たいねぇぇぇッ!! 『三段階の速度』さえ見極められればッ!! 軌道は単純だもんで避けるのは簡単なこっちゃらりれぇッ!!」


 うん、凄い喋る。すごい説明的なことをすごく分かりやすく言ってくれる子猿くんだけど、おっしゃる通り、「波状コレ」は結構対策が進んでいる技と聞く。そして光弾が迫る一コ前の枡目―場の中央付近で棒を地面に叩きつけるようにして振り下ろすと、接触の瞬間、その小さい身体は上方方面へと吹っ飛ぶようにして打ち上げられていて。上空!? どんだけの跳躍力だよ、もうほんと超人バトルだよね……そしてこれもまた最近着目されている「三次元方向」を存分に使用した戦闘方法……!!


 そう、そこまで「上空」に行ってしまうと、例の「マス目理論」というものは適用されなくなってしまうのだ……うぅん、毎度毎度のガバのガバさよ……ッ!! よって空中軌道はアナログ。「マス目半ズラしディレイ撃」なんていう小技も出来てしまうそうなのであって、まあそのへんが意図せず戦術の奥深さみたいなのに繋がってしまっているのはこの「魂バティ」の持ってる感が凄いとしか言えないのだけれど。それより霊長類の中では思考能力が下の中位くらいに位置してそうと思えていたこの子猿氏……


 見た目以上に結構考えている……ッ!! そして、


「如意棒が二本で200万バティラー!! いつもの2倍のジャンプが加わって400万バティラー!! そしていつもの3倍の回転を加えればッ!! キサンを貫く1200万バティラーたいねぇぇぇえええッ!!」


 に、二刀流……!! そして上空にてそんな不穏なことをイキれ叫びながら光の矢のようなものと化してこの僕へ向かって勢いよく回転落下してきたぁぁぁッ……!!


 でも。


 そっちから来てくれるんなら、ありがたいよ。そして再三覚悟を決めろっていうの僕ッ、おおおおお……


「『ウシオの呼吸(註:当人―頓原ウシオの呼吸のことである)』……『ロクカタ落位様鍾喗おつちよしょうぐん』……!!」


 腰を落とし、股を割る。両腕をやや開き、衝撃に備えるため両の拳をぐいぃと握る。構えながらも特にだぶついた腹まわりがガラ空きの態勢に、まっすぐ落ちてくる子猿くんの顔が少し驚きに彩られた、ように見えた。けど次の瞬間意を決したのか、両手に握った真ん中あたりで二つに分割されたヌンチャクのような如意棒Wを真っ直ぐに突き出すと、小さき身体をさらに軸回転させながら僕の腹部へと、吸い、込ま、れていく……ッ!!


 激しい衝撃効果音。完全に喰らってしまった体の僕だったけれど、


 だけど。


 ……もちろんこれが「プランA」なわけで。


「な……ゴッ!?」


 パーフェクトに撃ち込まれたかに見えた超速の体当たりは、僕の豊潤たる腹部脂肪群に見た目深々と突き刺さってはいたものの、


「ばッ、そんな馬鹿バァナナーナノデスネへぇー……ッ!!」

「ふ、フコポォッ!? 子猿タルイ氏の、あの1200万理論を喰らって吹っ飛ばないなんて事象コトはこれ理論上ありますことですとコポぉぅッ!?」


 その場に微動だにしない僕を見て、呆然たる当の子猿氏に代わりて相手方の残り二人がこれでもかの適切かつ説明的な反応リアクトをしてくれるけれど。そう、


――ボクも、僕には効かない……そして隙ありだよ、今だぁぁッ!!


「おおおおおッ……ん『ちょォぁぅーりゅぅうーけん』んッ!!」


 次の瞬間、己の力が極限まで溜まったと確信した僕は、腰を最大限まで沈めると、そこから天高く突き上げた右の拳と伸びる腕そして全身を伸びからせるようにして、呆然状態の子猿氏の小さな体を下から突き上げつつ、自らも最大の跳躍をかましていく――


 これが我が最大奥義……ッ!! そして今に至る「プランA」の流れを成す全てのパーツはッ!!


「……」


 子供部屋ハクタ伯父さんから(勝手に)引き継いだるッ、未来への遺産バーコードによるものであることは説明不要と存じ上げるッ!!


「はぎゃああああああああああっ……!!」


 白空の光点と化した子猿氏……おそらく復帰することは叶わないだろう……よし、五人のうちの一角をツブした……ッ!! これが「プランA」……相手に先手を取らせつつ、想定外のタイミングの返し技にて撃墜させるッ!!


「ま……まさか……ッ!!」


 場に流れる驚愕の空気を性急に吸い込んで、砂漠氏がまたも懇切丁寧な説明モードに入ってくれようとしているけど。時間稼ぎ? いや、ここは一発、「タネ明かし」をカマしておくのも次の「プランB」への布石となるとみたッ!! ぃよぉぉおおおし……


「【コルポ】255.0……僕を呼ぶのなら……そう呼んでください……ッ!!」


 殊更静かに。しかして動じませぬぞなキメの姿勢にて、僕はそうのたまう。キマった……憎いほどに……!!


「ににに『255』とはッ!? そんなにも数値の上限があったというのでございまするかコポホぉぉぉッ!?」


 砂漠氏が引き続き痒いところに手が届く驚き説明を続けてくれるけど、そうだよ、僕らも始めは面食らったものさ……


 「夏合宿」の子供部屋氏おじさんの取っ散らかった部屋を思い出す。何かヤバいものも発掘されそうだったので、女性陣は一旦下がらせて僕とみとっちゃん中心に盗掘作業に没頭することものの五分で、きちんとプラの工具箱ケースに納められた「バーコードバトラー」の本体とバーコードが貼付されたカード群を掘り当てることが出来たわけで。大事にしてたんだろうなぁ、というのが窺えるその佇まいに、何故か一同両手を合わせ一瞬黙祷してから、ありがたく押し頂いたのであった……!!


「フハッハぁッ!! 我らが最強タンク:トンバーランドЁエグゼリカス爆誕ってコトなわけだねぇ……キミたちの殴打攻撃なんざそれこそ毛ほども効かんということになるわけだぁ……」


 そしてここ一番キメの場面で出張っカットインしてくるのが、ミトヤー標準クオリティなわけで。うん、まあいいんだけど。このまま押し切ろう。


欠陥バグだろうとは思うけど……いや、それも込みなのかも知れないけれど……とにかく『いにしえの秘宝』をもって、僕らはこの『魂バティたたかい』を制すッ!!」


 気合い一発。「暴かれた手の内は積極的に煽りと牽制に使っていけ」という斐川さんの指令のひとつを頭に浮かべつつ、僕は最大限のそんなアオり文句を放っていく。目に見えて動揺する砂漠氏と♧氏、このまま盤面を完全制圧できるかも? いや、


「……なるほどですね。ふふふ多様性……いいですよねそれって」


 そんな簡単にはいかないよね……子猿氏の空いた穴を埋めるようにして後方よりフィールドに降り立ったのは、微笑黒魔女、ミサさん。そして、


有戸アリト下がれ。こちらも全力で行くぞ。二十秒くらい稼げればいいか?」


 戦慄のままの♧氏と入れ替わりで場に進み出たのは、出た伏兵、いちばん「KRTせんとうりょく」が低いところの、でも全然そうは見えないところに怖ろしさのある、クール真イケ出張リーメンこと、「リョカブラ」氏……その出で立ちは現実さきほどまでのくたびれながらも妙な色気を感じさせたスーツ姿ではなく、漆黒の鎧に首から下を全て覆った、重装なるものであって……そちらさんも防御力は高そうですな……


「『バーコードバトラー』とは恐れ入ったが……こちらもそれ相応の搦め手モノは用意している……」


 何だろう、この仮想空間に入ると、皆が皆、芝居がかった感じの喋りになるよね……イケリー氏も御多分にもれずそのように思わせぶりな台詞のような言葉を放つと、鎧の懐あたりから何かをすらりと取り出すのだけれど。


「……ッ!?」


 見た感じ何かの「カード」……? 投げつけたりする系の武器なんでしょうか……あまり攻撃力は無さそうな……とか思っていたら。


「顕現:【チュウ】……」


 そのカードはいきなりびよんと伸びて上背のある氏の身長くらいの棒状のものへと変化したのであった……何でもありが信条ではあるし、そういう仕込みギミックがあるのも百も承知。それは想定はしていたのですがそのソレ……


「『打』でも『撲』でも無いとしたら……どうかな?」


 「棒」じゃないんですわより物騒な「三又の槍」なんですわ……そしてそれを手練れが如く両手にて構え保持してその切っ先直線上には僕がかっちりおる始末……ま、まずいッ!! 「斬」属性が唯一無二の弱点だということが、何でかもうバレとるッ!!


 徐々に白目に移行しつつある自分の両眼球を必死で下げ降ろしながら、思考の彼岸にどないしよの波が押し寄せてくるのを感じているばかりの僕がいる。

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