≠10:速攻ぅー(あるいは、よせばいいのに/シンデレラなSAYONARAボーイズ)

<まさかの『A級戦士』の揃い踏みだ、No.20っ!! ひとり目は光速の干からびさせりょくは、盤上全土を一様に裁く!! 砂漠のはオレの言霊だッ、『ナギ=ス(デザート仕様)』、【KRT:2031】!!>


 何だろう、「A級」なんとかだからなのだろうか、MCによる相手チームの紹介が始まり、いそいそと準備をしていた僕ら三人は意外と時間を持て余すのだけれど。座ったままの姿勢で軽く左手を挙げて観客の少なくない声援に応えているのは、脂ぎった長髪をクリーム色・オリーブ色・茶褐色の迷彩柄のバンダナで覆った、ティアドロップ型の茶色いレンズのグラスをかけた肥満体。秋葉原せいちでももう絶滅が危惧されるレベルの種族テンプレだ、けど人気はそこそこあるみたい。むおんという野太い歓声が嫌な熱気のように床面から立ち昇った。何とかっていう数値レートも2000オーバー。御大・ポニテさんが1900代だったと記憶しているので、数字の上では格上ってことだろう。「A級」ってのも上位の……もしかしたら最上位に位置する級位ランクなんだろうってことは、この僕でも推し量れる。そんな中、


<そして、神速の二刀流っ、物理系特化/近中距離無双、操るは『刀の呼吸』……『ホーキング=バイツァバード』、【KRT:2088】!!>


 そして最後方にてその筋骨ばった長い腕を組んでニヒルな、というとしっくりくる、いや、それよりもいやらしさの方が桁違いに高いからそうでもないかな……という、坊主頭に度の強そうな紫色がかったこれまたティアドロップ型の似合わないグラサンを装備しておるけど……ええこれ流行ってるのかな……素性不明住所不定無職という言葉がそのまま肩書となりそうなほどに似合う、いや逆にベンチャー系の何らかの分野でとんでもない成功を収めているような御仁かもという感じの説明不能のオーラも身に纏った、正に正体不明の人物が角張ったくっくと肩を揺らす。そして、


<最後に控えしは、正体を掴ませない闇の能力にて全てを【ゼロ】に帰す……未だ謎多いが最強の一角を成すことだけは確実……脅威の【KRT:2221】っ、闇黒魔法士、『ズィロゥ=レフティヴァリ』、堂々見参だっ!!>


 何か黒いフードのような、でもフード部分しかないから頭巾と言った方が伝わりやすいかも知れないけど、伝わったところで意味不明の布を頭から被っているので、とんがったそこを頂点として、座った姿勢が握ったおにぎりのような形状を成している小太りの身体はもう汗の粒がそこかしこに浮いているけれど、曇った緑色のティアドロップ型のレンズの下の目は窺いしれないけれど、穏やかな表情を呈しているものの、それだけに底が見えなさそうな御仁が山の如く構えておる……


 「KRTせんとうりょく」とやらから鑑みると、このおにぎりさんがそうは見えないけど(他もそうは見えないけれど)、場の「最強」ということに相成る。見た目に惑わされてはいけないというこういう時の鉄則のようなものが頭をよぎるけれど、それにしてもうん……というような感じだ。


 そして何より重要なのは初っ端僕らの対戦相手だということだ。僕、リアルでチームで、っていうのは初戦なんだけど大丈夫かなぁ……今更な不安が両眼輪筋の下あたりをぐねぐねと循環しているかのようで思わず半笑いのような、くしゃみ出掛けのような表情で固まる僕がいる……


<対局時間は5分間。一回『KO』させれば『1ポイント』、そして『5ポイント先取』あるいは『3人同時KO』したチームの勝利となります。決着つかなかった場合は『次のポイントを取ったチームが勝ち』のサドンデスに突入。KOされてからの復活時間は30秒、あと今回からの新機軸として、対局者には『心拍数』『発汗度』『血中酸素濃度』などの各種センサを装着していただき、その数値の変動によって様々な『バフ/デバフ』がかかる仕様となっておりますのでそちらも御留意いただければ。さあ、リアル対人戦、開始10秒前です、皆さんもご一緒にカウントを>


 つらつら行った。MC男性の相変わらずフラットな説明が為されたけれど、情報量が掴み切れないほどに多い上に、センサがどうとかは完全初耳でわ……そんな間にも、係の方たちによって手早く左右の手首に回されたひんやり金属質のブレスレットのようなもの、これが「センサ」だねうん初体験……


 右隣に着座したみとっちゃん、そして僕の背後で、細いアルミか何かの棒で形成された直方体の中で、軽く脚を肩幅くらいに開いて深い呼吸を意図的に繰り返しているポニテさんの様子を横目で窺いつつ、大丈夫ですかねい、のアイコンタクトを振るものの、お二人ともすごい平常で、あれ、杞憂を繰り返しているのは僕だけかぁ……


 とか思ってたらさらに、両耳殻を柔らかく包み込むような……これはイヤホンの類いの何かでしょうか……が優しく付けられたかと思うや、掛けていた眼鏡を覆うほどのごつい大きさのゴーグルめいたもの……これをまた着装される。そしてそれらが装着された瞬間、目の前に黒一色の「光」と、それを埋め尽くすようなアルファベットの白い文字群が満ち、ぴゅーいーんぴゅぴゅいーんという謎のフィクション的「宇宙音」が響いてきて圧倒されるけど。これはあれだ、VR的な何かだ。すごいな。すごい初見が押し寄せてくる……


「まずはお手並み拝見と行こうか、イヅモくん、そしてトンバーランドくんよ……格上相手だが意に介す必要は皆無……初っ端全開、胸を借りるつもりで真正面からぶつかるだけさぁ」


 と、大脳を挟むようにして、不協和な音の葉が響いてくる。こういう場に来ると、それっぽい台詞のような言の葉をつらつらと紡ぎ出すことの出来るその声の主……御大の姿も、黒い空間の中に白い光線のようなものが無数に走ってワイヤーフレームのような「場」が作り出されていく最中、徐々に浮き上がるようにして見えてくる……けど、本当にその外観そとみは変わらないな!! 安定の白ランニングに白ステテコの、今日び無課金ユーザーでもそれよりはマシな格好をしていると思われる、正にの大将スタイルにて「空間」にぽつりその広い肉付きの良い背中を浮きだたせている。と、


「ミトくんは私の右、トンバーくんは左へ。ハナは私っから行かせてもらうわ」


 茫然状態に近しい僕の右頬の産毛を掠るようにして、柔らかな涼風が巻き起こった(気がした)。ブルーアイズオレンジショートカットォン、細身につけた黒全身スーツのあちこちにはド派手な彩度を放つ、ピンクのプロテクター、少女のような体高(に見える)……ポニテさんの「擬体」がにこりと非常に魅力的な笑みを浮かべたまま、しかしてその蒼く輝く両の瞳はえらい強い眼力をも保ったまま、身体の重さをまるで感じさせない歩様にて、僕らの二歩ほど前に進み出てはこれまた力の入っていない様相の構えを自然な感じで取るのだけれど。さすが場数を踏んでいるヒトたちは違う、ということだろうか。おみその僕は取り敢えずお二人の足を引っ張らないようにしないとね……ちなみに僕の戦闘いでたちは、サイドに黒線の入った真っ黄色のトラックスーツ。非常に有名な奴で万人が思い浮かべることが出来るであろうフォルムだろうけど、僕の小太りの身体に合わせるように非常に横に伸ばされていて何となく間抜けな印象を与えるだろうけど、まあいいよね。


 そう、これはこれこそは津久井浜のおばあちゃん家にお邪魔して、家中の「バーコード」を収集している時にGETした、かなりのお宝なのである……懐の寂しい僕は、課金なんてもってのほかだけど、何かを買ってこの「魂バティ」のアイテム諸々を揃えるなんてことは到底無理そうだったから、じゃあ既に購入されているコードを読み取らせたらそれも有効なのかな、とか思って試しにやってみたら普通に読み込まれた。うん……こういうところは狙ってるのかガバガバなのか分からないけど驚異の自由度を誇るよね……でもそういう仕様って、少年心に焦熱温度の高い火を灯し点けるよね……ということで僕はおばあちゃんに断って結構な間取りの日本家屋の納戸押し入れ天袋箪笥諸々の隅々を掃除片付けも兼ねて二時間くらい捜索しまくったわけで。


 その結果がこの戦闘装束……膨張色であることが唯一の懸念であるものの、正にの戦闘状態へと、僕をいざない落とし込んでくれるかのような、うん、「燃える」感じだ……と、


「ハッハハぁ~、全くの無名戦士の割にはSSSレアな装備で臨んでいるクンがいるではありませんかぞな!! 懐かしいではございませんかね、我々も初級者の頃はそんな風にガワだけでイキっていた時もありましたかぇへぇ~」


 彼我距離目測5m。相手側の一角、太りじしの巨体を陸軍っぽい迷彩服に包んだ、脂長髪+バンダナは実体と寸分違わないところの、<ナギ=ス>と、その巨大な頭上に浮かんだ「表示」からそうと分かった肥満体が腕を苦労しながらその太鼓腹の前で組みつつ、こちらを値踏みするような感じでそう言い放ってくるけど。喰い付いてきたってことは、この「装備」、やっぱり結構いいものなんだろうかな……とかこの期に及んでぽんやりと考えていた僕の、その、


 右斜め前辺りの視界の中で、


「……ッ!!」


 橙色と桃色が閃いた、ように見えた。とか僕の視細胞が捉えた瞬間には、


「へぎょぉおおおおおん……ッ!?」


 あまり聞いたことの無い、間の抜けた断末魔残響を場に置き去りにしながら、迷彩が奥面に向かってえらい綺麗な放物線を描きながら吹っ飛んだ!! それをいともたやすく行った御人はもちろん、


「舐めすぎ。ま、自分でもこんなに綺麗に初弾がキマるなんて思っても無かったけど」


 暗黒空間においてもその落ち着きながら艶のある美声は凛と響く……先ほどの「端から行く」宣言通り、迷彩の長口上を咎めるかのような超速にて、その流麗な肢体を右上段蹴りハイキックの態勢のまま残心させるかのように揺ぎ無い態勢でとどまらせていたのは、言うまでもないけど僕らのチームの頼れる格闘女神であったわけで。凄い、挙動が僕には見えなかったよ……


 とかまた呑気にそんなことをぷんまりと考えていたら、


「な、ごぁああああああッ!?」


 さらに視界の左奥、イキれ眼鏡坊主がこちらもまたわざとらしいくらいに清々しくも後方へと吹っ飛ぶビジョンが僕の泡食った網膜に結ばれるのだけれど。うぅん、のっけからの超展開に早くも付いていけてなぁぁい……!!


「やはり初っ端全力アグロ展開は……廃れてきたとはいえ、『魂バティ』の厳然たる必勝戦法のひとつではある……A級戦士の皆さんよ、あまりに手を抜かれるとギャラリーの方々も萎えるってなもんですぞぉ?」


 その次弾の主は他ならぬ、みとっちゃんであったのだけれど。いま何をやったんだろう……? とにかく、


「……」


 相手の油断/慢心を突いての開幕即2KO。2ポイントが僕らチームに転がり込み、さらには「3対1」の圧倒的優位を築けている……!! 「3人同時KO」の目も出て来たわけだけど、こんなにも御二方がお強いとは……!!


 いや、感心してばかりもいられないよ。僕だって何かしらの役に立つってことをアピールしなくちゃだ……前衛ふたりの勢いに乗せられて、僕は残る一人、<ズィロゥ>と表示されている、三角おにぎりのようなフォルムは現実リアルととてもよく似ているところの、しかしてこちらでは本当に黒いフード付きのマントで全身を覆っている御仁に向け、覚束ない歩様の小走りにて、三歩四歩と間合いを詰めていく……ッ!! よぉぉぉし、行くぞぉぉおおおおおッ!!

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