≠05:面妖ぅー(あるいは、およしになってと/言われても止められないのよ/涙は)
「……キミにも真髄が伝わったところで、今後のプランを立てなければならない」
一旦、落ち着いた。三度場所は移り(もちろん騒ぎ過ぎてレストランのチーフっぽい方からの丁重かつ有無を言わさぬ退去勧告に僕だけ謝罪し倒しながら周りのお客さんたちへもへこへことお詫びしつつ辞した後)、三浦海岸近辺の、公園……といえるのか、何かの撤去跡地のような、寒々しい空色をした雲梯と、野良猫たちが用足しのためくらいしか立ち入っていなさそうな、潮風が描いた風紋が枯山水的なわびさびを呈していて見ているだけで鳩尾の奥くらいからこみ上げるように哀しくなってくる砂場のみを遊具として有する、いくらなんでも無茶な土地利用ではと思わせられるほどの急角度の「く」の字を描く間隙地のひび裂け始めた木製ベンチに二人して座ったところで、改まってそう持ち掛けられたのだけれど。ちなみに先ほどのイタリアンも「提携」しているらしく、僕ら二人分のドルチェセットも「
「あ、さっきはつい興奮して自分の限界を超えてしまったけれど……反則技で掴んだ栄冠に何をか宿らんかと……」
ちなみに最大級の「16連」は叩き出せなかった。「15.5」くらいは行ってたと思うけどそこ止まり。そこに名人への厚い壁と、衣服破壊のハードルの高さというものを身を以って感じさせられたわけであったけれど、あ、いや、そこはともかく勝つは勝った。けど、先述の戦術のこともありただただちょっと
「いいかい、実装されている時点でそれは純然たる『理』なんだよ。それを突くのが『策』。何もおかしくはない。おかしいとするのならば、それはそう思う奴の考え方のほうだぁ。キミは感じなかったかい? 力を尽くして勝負に挑んで、そして勝利の栄光に浸る……『青春』だよ、これこそが青春と、僕は言い切るけどねえ」
背もたれも無いベンチゆえ、大きく脚を開いてそこに丸い上半身を両肘を張って引っ掛けつつ、足元を横断している蟻の列を見下ろしながら、意外と冷静かつ真摯な口調でみとっちゃんはそう言う。都合のよさは多分に含まれてはいるものの、大枠で考えると言ってることはそうなんだと思うけど。確かに燃え(萌え)なかったかと問われれば、答えは否だと思うけど。かと言ってこのまま自分でも分からないモヤモヤした感情を引きずったまま、流されるままにやったところで、それは普段と日常と、あまり変わらない気もしていた。
「青春」では、無いような気がしていた。
「青春に限らずさぁ、人生ってのは『きっかけ』ってのが必要で重要だと、ボクなんかは思うんだなぁ」
けど、みとっちゃんの掠れ気味の声で続けられたこともまた、またもなお気持ち表明かなとか思ったけど、それも割と言ってることは考えてみるとまともで、思い返せば腑に落ちるところばかりだった。そうだよね、何が正解ってこともないのかも。そんなのは結局分からないし結果論なのかも。
「勉強ダメ、スポーツダメ。音楽? 美術? 書道? 学校で習ってきたもので、ボクらに才があるものがあったかい? かと言ってそれ以外にもあるわけじゃあない。でも、そこで諦めたら、探さなくなっちゃったら、おしまいなんじゃあないかい? 反則だろーが、汚い手だろーが、それが通るんだったらボクぁ全力で押し通すね。そもそも人間は平等なんかじゃ決してないからね」
多分に穿った見方で、言い古された言葉群だったかも知れないけれど、小学校の頃からほぼ一緒に歩んできた道を敢えて振り返らなくても、僕にはそれは、それもまたそうとしか言えないもののように思えたわけで。でも、
「きっかけをくれたのはありがとうだし、裏をつく策を考えてくれたのもみとっちゃんなりの考えなんだと思う。それには賛成なんだけど……」「……言ってみなよ、全部吐くんだ」
僕が中空に目線を固定しながら、抑揚なく漏れ流した言葉だったけど。それに対してはこれまた視線を交えずに蟻の列を見るともなしに見ているんだろうということを気配だけで感じているけど。えてして僕ら二人の間で重要で決定的なことを言い合う時って、こんな感じだったことを久し振りに思い出してもいた。小四の時、今にして思えばそこまでのいじめと呼ぶほどのものじゃあ無かった、何となくのクラス全体からの「いじり」。それがある朝、唐突にものすごく嫌になって家から一歩出た瞬間に直前に食べていた冷凍焼きおにぎりをお粥状にして団地の狭い踊り場に放出した。その日から不登校になって二週間目の朝。みとっちゃんは僕の家に上がり込むとテレビ前の座椅子マットに寝転んでいた僕の丸まった背中に向かって何と言ったっけ。
――『ツッコミ』を探しとぉーや。頓ちゃんやってみん?
――えと……うん。
唐突も唐突に過ぎた勧誘は、今に始まったことじゃなかったっけ。忘れてたよ。そして、
それに否応なくほいさと乗ってしまって、ダメなことなんてあったかな。それに、人生のしばしばの折々、みとっちゃんは僕のことを考えてくれてきたんじゃないかな……傍からは、理解しがたいコトであったにしろ。考えすぎかもしれないけど、そうだよね。
でも今回はそれプラス、自分でも何か、何かを決めないといけないような気がしていた。相変わらず目線は外したままで、僕は脳内にもったり渦巻いている、割り箸に巻かれる前のわたあめのような不定形な思いを何とか巻き取ろうとする。
「……僕は僕で出場しようと思う。僕自身の、『
おほー、言ったね?いやそんなん全然いいんだけどね?と、みとっちゃんが食い気味で鼻から全力で息を放出したのを感じたけど。間違ってないってことかな? いや、それは僕が決めることだ。
「確かに、おカネかけずに手っ取り早く能力底上げするなら、愚直な筋トレとかが実はいちばん理にかなってはいるよ。あと学力とかもね。要は『伸び代』がある奴の方が『魂バティ』の短期決戦においては超有力ってねぇ……連射要員だけやってくれるのであれば、ボクぁ全然構わないし、何ならボクとの相性悪い相手を屠ってくれるまである。OKだ。じゃあ互いの利害が一致したところでプランBを共に練り直そうじゃあないかぁ……」
利も害も一致はしていないと思うけど、このくらいのズレ方が僕らにとっては普通で心地よいかな。僕は相方の顔をちらと見て、頷く。よし、何かまだ自分でもよく分かっていないとこあるけど、それもまた清々しいまである今の気持ちだよ。何であろうと挑戦してやるんだ。「きっかけ」を大事に。そして「青春」を繋げて。それに、僕にだって策が無いわけじゃあない。陰キャには陰キャの戦い方があるってことを……
「……『トンバーランド=ジ=アンドロマルサー』」「え?」「『
……見せてあげるよ。えぇダサぁ……と珍しく僕の決意に尻込んだ顔を見せた御大だけれど、大丈夫、僕もちょっとはやれるんだってとこを見せてあげるから。僕は噴き上がったせっかくの熱が冷めないように、みとっちゃんを促しつつ、駅前にまた取って返すのだけれど。そして、
――――
「やっぱ来たし。『
みとっちゃんが「精細スキャン」だかを無料でやってもらったと言っていた大手ジムの店舗にて、「入会初月無料+お友達ふたりご紹介で初年度50%OFF!!」というややマルチめいたキャンペーンの詳細を受付のやけに腹から声を出すタイプの男の人から受けていたところ、背後からそのような気だるげな、しかしてそのアンニュイ感は何かこちらの鼓膜を貫いて直接側頭葉を揺らしてくるかのような、厳然なる甘さも有した声が僕らに向けていきなり掛けられて来たわけであって。
振り返るとそこにすらりと立ち佇んでいたのは、やや茶色みがかった艶のあるストレートの黒髪を頭頂部けっこう高めのところでポニーテールでまとめた、僕らより頭いっこくらい身長の高い、そして体重はおそらく僕の八分の五くらいしかなかろうと思われる、淡いピンクのブラトップと黒のハイウエストレギンスに包まれた、華奢なれど出ているところは流麗な曲線を描いているという艶めく褐色の肌を持ちし、クールビューティーな感じの何とかモデルみたいなヒトだったわけで。
うーん? どなたですぅ……? 新手の勧誘スタイルですかぁ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます