≠03:饒舌ぅー(あるいは、ろくなもんじゃ/ねえにしろ何かこう/あるだろう?)

「遠まわしな課金ってこと? 遠いかはどうかはさて置いておいて」


 京急久里浜の駅ビルウイング5Fイタリアンレストランにてドルチェとコーヒーで気怠いアフタヌーンを周囲を一望できる窓際くつろぎやすらぎ空間にて過ごすという、字面だけ見るとリア充感が結構ありそうな場なんだけど、真のリア充たちがたむろするファストフード店やフードコートを避けた末のこの選択肢であって、決して懐具合があたたかいわけでは無い僕にとっては痛手という文字面がよく似合う……


「まあ、『コラボ』って言い切るのも何だかねぇ、って感じの節操の無さで、それが却って心地よい、まである。そしてそれゆえひねくりまくった多方面界隈の輩どもの捻じ曲がった関心をガザバっと引いたと、このボクは分析しているよ」


 よくぞそこまで自分を棚に置いておけるな……と思わせるほどの他人称視点ひとごと感はもう面食らうということも長年のつきあいによる結果として無いのだけれど、それよりもテーブル挟んで相対したワイシャツ姿の上半身だけと接していると、きっちりと頭蓋骨の正中線辺りで分けられた無駄につややかな中途半端な長さの黒髪と、反面、締まりの無い肌年齢がオーバーエイジ枠側に半歩踏み出たかのような質感の顔と、それにびっちりと嵌まり込んだ脂じみたフレームとレンズの陰影が醸し出す営業畑七年くらいの徒労感を纏った外面の御仁が、昨今の外回りの厳しさを、このワケも分かってない新人の僕に飴と鞭を行使しながら御説レクチャーしようとしているのではと見まごう絵面だよね……


「分かりやすい運営の志向ってことだけは分かったけど……それを利用して、その『魔育成』? とかして優位に立とうっていうならその原資となる、ぶっちゃけて言うとおカネ的なものが必要だよね? それって……僕らにはそうは無いのでは……」


 まあ幼い頃より忖度の無い子供づきあいをしていると、お互いの家には四六時中行き来しているわけで、家庭事情なんかはもう推して知るべし以上であって、要はどちらとも不自由とまでは言わないけれど裕福な家庭とはとても言えず、本来ならこのような豪遊も月一回くらいの贅沢であろうこともまた推して/知る/べし、といったところであって。当然湯水のように課金を流し込み、なんてことは想定していないというかそもそも脳内の選択肢に無いよね。と、


無論策ありムロサクと、そう言ったはずだぞ、頓ジローくん。安易な課金に走るのは十把一絡げの何とかtuberに譲っておけぃ。課金それも勿論この混沌カオスのひと側面を為すわけだが、あくまでそれはそれでそれ止まり。本当の深淵は、そんな分かりやすいところには無いのだようふふふふ……」


 勿体ぶりたいのは分かるけど、こういう持って回ったところが他人を寄せ付けず、そして弾いていってしまうのだろうね……幼少期からずっとね。せっかく喰い付いて来てくれた物好きなヒトたちにもね、調子に乗って上からの振る舞いを振り降ろしちゃっては去る者を追えなくなっちゃうんだよね……今もさぁ、結論とか最重要点へ到達するのをわざと大回りして悦に入ろうとしちゃってんだろうよねぇ……けど、


 と言うと?という、我ながら軽いノリで場を仕切り直そうとせんばかりの見え見えの御追従じみた合いの手を入れてみたのも、この御仁の操縦法をある程度熟知しているからこそ出来る熟練の技であることを、まあ誰にも分かってもらえないだろうし、分かってもらおうとも思ってもないんだけれど、途端にまたいい感じの醜い笑みに顔筋をシフトさせたみとっちゃんは手元のカップを不必要にこれ見よがしに目線の高さに掲げるのだけれど。それ何の意味があるのだろう……


「『策』は『七つ』ある……その全てをこの場にて、そして身内とは言えまだ同意を得ていないキミに教えるわけにはいかないが……ま、そのうちひとつを開陳するのもアリだろうかな。要はダボハゼを喰らい付かせるための、撒き餌だ」


 釣り上げる相手に向けてわざわざ言う必要も無いとは思うけれど。そして意外にまだ僕に「参加しない」という選択肢が残されていたことに驚きを覚えつつも、まあ最後はなし崩し的に強制されるのでこれは何と言うか最近覚えた見た目の公正さを醸し出す詐欺グループの常套手口でわ……との思考に苛まれて、元々浸み込んで来る気配も無かった諸々の情報群たちが、さらに大脳表層の一歩手前辺りでふわふわと漂うのを感じるばかりの僕なのであり。


 お互いちびちびと舐めるようにと言うか本当にスプーンに薄くついた飛沫レベルの破片をいちいち舐めとるような食べ方にて食したティラミスの皿の横に、御大の油膜スマホが供される。画面に映っているのは、先ほども視た「魂バティ」のものっぽい黒を基調とした敢えてのワイヤーフレーム感を出した無機質空間なのだけれど。そこに染み出すような不気味なエフェクトを伴い浮かび上がってきたのは。


<ミトヤー・オブジ・デコピソニア/KRT:1982>


 という八割以上が初見かつ意味不明な蛍光緑の文字列と、本人を鋳型にとって精密に立体化したのでは見まごうほどの、見事な中年太り体型に白のタンクトップというか肌着ランニングと称した方がしっくりくる感じのトップスに、これまた黄ばんだ生成り色した半パンというよりはだぼっとしたステテコのようなものに身を包んだ、ネトゲ黎明期の無課金ユーザーと往年の大将感を同居させることにしなくてもいいのに成功してしまったような、精密CGにより描き出されたところの、本物と寸分たがわぬ厭らしさを忠実に纏いし薄笑いを浮かべた御大の分身アバターだったわけで。すごいなこの質感……


「駅前店舗の無料体験見学に行って、『極精細スキャン』をしてもらった時の奴さ。いや凄いねえ昨今の技術テクノロジーは。とは言え本題はそこじゃあない。今から『実戦』を実践してみせるから腕前をとくと御覧じろ、ってな具合でね。ちなみにその数値は『レーティング』だ。『1982』は全『魂バティヤー』の中の実に上位15%に含まれる。微課金でここまで行ってるのは、まあ他にはいないだろうねぇ」


 またすごい恍惚気味の迅速語りモードに移行しちゃったようだけれど、こうまで残酷に己の無様な姿をスキャンされてしまうものなのだね……もうちょっと加工とか手心とか、ないんかね……と思ってみたものの、元々は『鍛えガチ勢』向けのものだったことに思い至る。そうか、この精密さ……これはイコール己の鍛え上げた肉体美を全世界に向けて発信するためのものなんだ。うぅん……こういうところはユーザーの心をを掴む非常ににくい仕組みだよ、それだけにこの今の無法地帯化した現状が許せないっていうのは部外者ながら非常によく分からんでもないよ……いや、そこは問題じゃあないか。


「で、どう」「さぁ『試合』の始まりだぁ、ボクのランクは『B1』ッ!! なかなかの猛者ぞろいの坩堝場と来たもんだぁ……おおおおおおッ!! いくぞ、ミトヤーINッ!!」


 慌てて周りに目をやりながら、また唐突に金属音声を繰り出してきた御大を制すものの、端末に意識のみならず魂までも吸われてしまったかのように直結されたその問答無用ガチぃ目つきに慄かされつつ、平日でそこまで混んでいなかったことに感謝しつつ、どうどうと相方をなだめ落ち着かせる僕であるのだけれど。


O-9オーナイン=イヅモ/KRT:1998>


 うん? 相手の方が何とかっていう評定値レーティングがわずかながら高いぞ……そして黒っぽい全身タイツのような薄いスーツに、ド派手なピンク色の何て言うか未来的な装甲アーマーをその細身ながら出るところは流麗な曲線を描いている肢体に這わせるように身に着けているけど、ぱっちりとした蒼い瞳、そしてオレンジ色のショートカット、若い、いや幼いまである童顔……どこぞのVの素体のような根源的わかりやすいかわいらしさを醸しているけれど、え、これリアルトレースだとしたら相当のルックス偏差値を誇りますぞなよねコポォ……


「いや、外観それ課金カネで盛れるって察せられんかね? そこは現実世界とおんなじさぁ、そういうところも潔くて良いよねぇ、それよりも集中してくれ、開陳、御覧じろと言ったものの、『策ワン』は他ならぬッ!! キミの力も必要だからねぇ……」


 あ、そうなの。でも凛々し可愛い善き……とか後で詳細検索しようとその名前を脳細胞にインプットさせることだけに演算能力を回していた僕に、え? またも不可思議な言葉が投げかけられてきたのだけれど。えーとえーと、どういうこと?

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