第3話 再会

「ユリウス…」


 チュドは呟きながら懐から杖を取り出す。これは常備していたものだ。対するユリウスも短剣を抜く。

 チュドはツールを使おうとしているが反応がない。

 流石チーター狩りを自称しているだけあって対策は万全か。


「あれは演技だったのか?」

 まさか。それだったらどんなにいいか。


「名演技だっただろう?」

 チュドは嘯く。その間も色々と試しているがエラーが返ってくる。

 駄目だツールが展開できない。


「あの町だがな。何もなかったぞ」

 あの町には何も異常がない。そうだろうさ。何も異常が起こらない。


「人も町も何もな。全てが瓦礫だった」

 馬鹿な。そんな馬鹿な。そんなはずはない!


「でたらめを言うな! 僕がどんな思いで、僕がどんな気持ちで、あの町を!」

 駄目だ。自分が錯乱しているのがわかる。

 チュドのツールを探る手が止まり視線が歪む。その隙にユリウスはチュドの手を掴む。


「熱っ!」

 チュドの手首に何かの文様が描かれている。こんなものはさっきまでなかったはずだ。

「落ち着け。そいつは即効性のシール(封印)だ。時期になくなる。だから、まず話を聞け」

「何を…」

 チュドは左手に巻かれたシールを見る。突破するのは簡単だがダメージを負う。ユリウスの言う通り時間が経てば薄れていく物だ。それまでツールの使用が出来ない。

「話だ。何でもいい。続きが聞きたければ話してやる」

 チュドは逡巡したが一番気なっていることを聞いた。

「あの町はどうなってる」

「あれは嘘だ。安心しろ。お前を試しただけだ」

「嘘。…嘘か。そうか良かった」

「ああ。悪かった。あれが演技には見えなかったからな」

 チュドはチーターである自分の天敵であるかもしれない男の前でも落ち着いていた。ユリウスはチーター狩りを自称していた。それがこうも堂々と現れてるのだ。もう逃げる隙間もないのだろう。

 チュドは頷くと朝食の続きを始めた。


「あれは演技だったのか?」

 ユリウスも朝食を頼みながらもう一度同じ問いを口にした。

「いや。あれはあの世界の現身のようなものだ。外に出たら元の僕に戻るようにしておいた」

「ということは憶えているんだな」

「ああ。何もかもな。…でも僕は被害者だ。何と言われようと」

 真っ向からユリウスと視線を合わす。

 するとバツが悪そうにユリウスは頭を搔いた。

「悪いな。流石の俺でも今回のケースは特殊でな。お前が敵対しないなら俺も当分は手を出さない」

「いいのか? 悪のチーターを見逃しても」

「見逃さねぇよ。ただ保留だ。お前、ここに何もしてないだろ」

「それは急いで逃げて来たからだ。おっかない誰かさんが睨みつけてきたからな」

「茶化すな。それにしてもこんな辺鄙な土地でか」

 ああ。とチュドは納得する。チーター狩りと言ってもチーターと同じ存在ではないのか。

「僕達は新しく生み出された世界でないと移動も存在することも出来ないんだ」

「は?」

 珍しくユリウスが間の抜けた声を出す。

「僕達のレベルになると世界から拒絶されるんだ。それで新しく生まれた世界に間借りさせてもらうのさ」

「いやまてお前、それは相当な情報じゃないか」

 珍しく狼狽するユリウスに優越感を感じながらチュドは名乗った。

「ああ。そう言えば名乗っていなかったな。チュド・オンだ。礼をするといっただろう。僕は忘れてない」

「チュド・オンか。珍しい響きだな。それにしても長年の謎がこんなあっさりバラされる俺の身にもなれ。お前と一戦やる準備は出来ていたが、その情報を受け取るだけの覚悟はできてなかったぞ」

「ちょうどいい仕返しになったな」

「まったくだ。 あー、パズルのピースがハマっていきやがる。嘘じゃねぇなそいつは」

 流石のチーター狩りも頭を抱えて天を仰いでいる。チュドは胸がすくような思いで次の言葉をまった。

「ということはここは新しい世界なのか」

「ああ。今しがた生まれた仮初の世界だ。君たちにとっては地続きの町なんだろうが、僕たちにとってはそこに生まれたエリアに過ぎない。ここで繋がりを持てるのはチーター狩りの何かか?」

「そんなとこだ。あー。アイツが言ってたことはこういう事か。チーターの出現エリアに居たり居なかったりじゃない。居る世界と居ない世界があるのか」

「そもそも存在しているかしていないかの確認から必要だな。世界を、改変は、」

 さっきまでスラスラと語っていたチュドは言いよどむ。まだ傷が消えていないのだろう。

「今はこれで十分だ。ありがとよ」

「ああ。これで見逃してもらえるのか?」

「まだだ。お前、仲間に入らないか?」

 は? チャドは虚を付かれたような声を漏らす。

「本気だ。お前、他のチーターにあった事がないだろ」

「なぜわかる」

「チーターに会えばわかる。アイツらは言葉が通じる手合いじゃないからな。あの時お前に気付けなかったのも会話が成立していたからだ。」

 ユリウスはチュドに指を付き立てこう言った。

「お前さんが特殊過ぎるんだ」

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異世界チートコード外伝 中級中破 @tyuukyuutyuuha

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