第18話 旅館の夜は更けて…月と恋バナと不穏な影
温泉で旅の疲れ(主に俺の心労)を洗い流し、すっかりリラックスした俺たち。湯上がりでほんのり上気した顔のリコとシズクの浴衣姿は、何度見ても心臓に悪い破壊力だ。俺は平静を装うのに必死だった。
部屋に戻ると、待ちに待った夕食の時間! 部屋食で運ばれてきたのは、山の幸、海の幸がふんだんに使われた、目にも鮮やかな豪華料理だった。
「おおお! すごいです! これが旅館のお料理! いただきまーす!」
リコは目をキラキラさせ、尻尾がブンブン揺れているのが浴衣の上からでも分かる勢いで料理に飛びつく。
「うむ! なかなか手が込んでおるではないか! 特にこの鮎の塩焼き、絶品じゃ!」
ルナ(猫)にも、仲居さんのご厚意で用意してもらった猫用のご馳走(刺身や焼き魚!)が並び、ご満悦の様子だ。
「食材の組み合わせ、旬のものの活用、器との調和…日本の食文化の奥深さが窺えますね。この天ぷらの衣の薄さ、揚げ時間も絶妙です」
シズクは冷静に分析しながらも、その箸の進みはいつもより早い気がする。
俺も久しぶりの贅沢に舌鼓を打つ。美味い…美味すぎる…! ケモミミたちとの騒がしい日常も、こうして美味い飯を一緒に食ってる時は、悪くないと思えるから不思議だ。
満腹になった後は、部屋でまったりタイム。布団が敷かれ、ゴロゴロしながらテレビを見たり、他愛ない話をしたり。俺は部屋の隅で、窓の外の夜景を眺めていた。
すると、布団の上でリコとシズクが何やらひそひそと話し始めたのが聞こえてきた。……いや、聞くつもりはなかったんだが、壁が薄いのか、俺の耳が良いのか……。
「ねえ、シズク殿。今日の主殿、わたくしたちの浴衣姿を見て、すごく照れてましたよね!」
「…ええ。観測データによれば、相川殿の心拍数及び体表温度は、通常時と比較して有意な上昇を示していました。あの反応は、論理的には予測困難な事象です」
「やっぱり! 主殿って、ああ見えて結構純情なんですね! そこがまた可愛いというか…」
「…彼の持つ、ある種の朴訥(ぼくとつ)さや、危機的状況下で見せる胆力とのギャップが、特定の感情を誘発する要因となっている可能性は否定できません」
「ふん、健太は妾の下僕一号じゃ! お前たちが勝手に分析したり評価したりするでないわ!」
……いつの間にかルナ(猫)も会話に加わってるし! ていうか、俺のことなんだと思ってんだお前ら!
壁際で聞き耳を立てている(バレてないと思いたい)俺は、自分の評価に顔から火が出そうになったり、内心で「その通り!」と頷いたり、忙しいことこの上ない。
やがて女子(?)トークも終わり、部屋に静かな寝息が聞こえ始める。俺は一人、窓の外にかかる月を見上げていた。楽しい時間だった。リコもシズクもルナも、本当に楽しそうだった。この笑顔を、この穏やかな時間を、守りたい。でも、そのためには…。追手の脅威、ルナの呪印、異世界への帰還。問題は山積みだ。俺は、彼女たちに対して、どんな感情を抱いているんだろうか……?
そんな感傷に浸っていた、まさにその時だった。
ピリッ――。
肌を刺すような、冷たい気配。温泉地の静かな夜には似つかわしくない、明らかな殺気。
隣で寝ていたはずのシズクが、音もなく体を起こした。俺と目が合う。彼女も感じ取ったのだ。
「……!」
リコも、野生の勘が働いたのか、むくりと起き上がり、警戒するように耳をそばだてている。
俺は息を殺し、そっと窓の外を窺う。月明かりに照らされた旅館の庭園。その木々の深い影の中に、一瞬、黒い人影が見えた気がした。……レイヴンか? それとも別の追手……?
シズクが窓際まで移動し、指先から微弱な光――おそらくは牽制か探査の魔術――を放つ。すると、木陰の人影は、まるで陽炎のように揺らぎ、スッと消えた。
「……行きましたか」
「偵察…あるいは、我々の反応を探っていたのかもしれませんね。油断は禁物です」
「くそっ…こんな所まで追ってきやがって……!」
戦闘にはならなかったが、楽しい旅行の夜に突きつけられた現実に、俺たちは言葉を失った。安らぎの時間など、幻想なのかもしれない。
緊張の一夜が明け、翌朝。俺たちは最後の望みを託し、再び温泉へと向かった。特に、ルナに効果があることを祈って。
そして、湯から上がったルナ(猫)が、驚いたような声を上げた。
「む…? なんじゃこれは…? 昨日よりも、明らかに体が軽い気がするぞ…? 魔力の流れも、心なしかスムーズになったような…?」
その言葉に、俺たちはパッと顔を見合わせる。
「確かに、ルナ様の魔力の淀みが、昨日より僅かですが軽減されているようです。この霊泉、やはり特別な浄化作用があるようですね」
シズクもルナの魔力状態を感知し、分析結果を告げる。
「やったな、ルナ!」
「よかったです、ルナ様!」
完全回復には程遠いだろう。呪印だってまだ解けていない。それでも、確かな一歩前進だ! 俺たちは思わずハイタッチ……は、しなかったが、喜びを分かち合った。
気分が良くなったからか、アパートに戻る準備をしていると、ルナが俺の足元にすり寄ってきた。
「……健太」
珍しく、名前で呼ばれた。
「ん?」
「その……昨日は悪かったな。色々と……迷惑をかけた。……だが、その……連れてきてくれて、感謝、しておるぞ」
顔を(猫なのに)赤くして、もごもごと礼を言うルナ。
「……っ!」
不意打ちのデレ! しかも名前呼び! 可愛すぎるだろ! 俺はクリティカルヒットを受け、その場に崩れ落ちそうになった。
「お、おう……。また、来ような」
俺はなんとかそう返すのが精一杯だった。
温泉旅行は、大きな成果と、忘れられない思い出(と、新たな心労の種)を残して終わろうとしていた。アパートに帰れば、またドタバタな日常と、追手への対策が待っている。
でも、大丈夫だ。この仲間たちとなら、きっと乗り越えられる。
俺は、回復したルナ(のデレ)と、頼もしい仲間たちの顔を思い浮かべ、改めてそう強く思うのだった。
(続く)
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この作品は18禁展開はありません。
明るく健全なラノベとして書いてます。
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