第17話
シリウスside
「シリウス、もし万が一のことがあれば僕と一緒に葬ってくれ」
あまりにも真剣に言われたので正直戸惑った。
「僕はボスに勝つ魔法を使えない。だけど一発逆転のチャンスくらいは作れる」
俺は何と返すか戸惑った。
「アンリにちゃんに罪を償わないといけないから生きろって言われたけど、僕も大切な人を守りたい。だからお願いします」
その目に迷いはなかった。
「…万が一の時は、だ。そうならないようにしろ」
ボスがここに現れる前にそんな会話をしていた。
正直どれほどの強さのやつが現れるか予想がつかなかった。
だから『万が一の時』が絶対に来ないとは約束できなかった。
実際、ボスとの戦闘は激しいものになった。
俺と同じかもしくは俺よりも強い魔法を扱えるように感じる。
苦戦していた戦闘が一気に変わったのはリョウがボスに傷を与えたからだ。
その隙に攻撃魔法を放った。
「『誰かを想う気持ちは時として、どんな強力な魔法よりも強力だ』って言葉リョウ君が証明して見せてくれた。…ハイド」
嬉しそうな笑顔を一瞬だけ見せてまだ動けるボスに視線をやった。
次に俺の目を見てもう一度ボスを見た。
レグルスは覚悟を決めたようだ。
「ボス、お待たせしました。お目当てのアンリちゃんですよ」
本物のアンリを隠し、幻のアンリを捕まえたふりをしているらしい。
「…お前、裏切ったのか?」
レグルスの覚悟を絶対に無駄にはしない。
「シリウス、人を簡単に信頼しちゃだめだよ。大切な人を守れなくなる」
レグルスの手の中には幻で生み出されたアンリがいた。
それを愛おしそうに見つめるレグルス。
「あら、そんな風に裏切っちゃって良かったの?あの子、絶望してない?」
笑いながら指を指されていたのはリョウだった。
魔法の使えないリョウにとって本当に裏切ったように映ったのだろう。
しかし今はリョウを慰めている時間はない。
かなり高度な魔法を発動させているようだが、いつバレるかもわからない。
不本意ではあるがボスは相当な手練れだ。
俺よりも遥か長い時を生きたのかもしれない。
経験の積み重なりにより魔法というのはより、複雑になる。
複雑な呪文で相手を翻弄させる。
誰かを守るために発動させる魔法は弱くても、想いを紡ぐ気がした。
「嬉しいな。…けど本物じゃ」
「ヒプノシス!」
その呪文をこの数日で何度聞いただろう。
その度にその魔法の強さを感じていた。
「うぅっ。いい加減に…しろよ」
ボスが伸ばした手がレグルスを掴んだ。
「レグルス!」
アンリとリョウの声が同時に重なった。
「シリウス!焼き焦がせ!」
覚悟を決めた人に俺は手を抜くなど出来ない。
「ありがとう。レグルス」
「おいおい、嘘だろう?」
想像を超える動きにはついて行けない。
予想外の動きをされた時、0.1秒が命取りとなる。
俺はアンリからもらっていた魔力全てをこの魔法に乗せて、放った。
俺が使える最も威力のある攻撃魔法はレグルス達に直撃した。
「眩しっ」
アンリは目を瞑った。
眩しい光に飲み込まれた二人を俺はただ見つめることしか出来なかった。
「レグルス、この恩は一生忘れない」
俺の一言に二人は青ざめていた。
「シリウス、何?どういう事?」
「嘘でしょ?ねぇ、嘘って言って!…やだよ」
二人はそう言うともう光が残っていないその場所に駆け出した。
俺も追うように歩いて行った。
「…アンリちゃん」
小さな声でそっと呟くレグルス。
上手く躱せたのかまだ息のある様子に少しだけ安堵した。
「レグルス!どうしよう、後藤。医者呼ぶ?応急処置?」
焦るアンリの隣で現実を受け止めているように見えるリョウ。
「応急処置でどうこうなる怪我じゃないし…もう多分…」
「辞めてよ!そんなこと聞きたいんじゃない」
大きな声を荒げてレグルスの横に座るアンリ。
「私の魔力あげる。持ってても使えないもん。自分で蘇生術とか回復魔法とか出来ないの?シリウスは?使えない?」
目を潤しながら聞くその姿に胸を痛めた。
実際、簡単な治癒魔法くらいならレグルス自身、習得している可能性は高かった。
しかし自分の意志で使わないとすれば、俺が出る幕ではないだろう。
俺が首を横に振るとポロポロと涙を零した。
「泣かないで。…僕、こんなに泣いてくれる人の横で死んでくなんて幸せだなぁ」
レグルスには人を殺したという、大きな罪がある。
たくさんの命を犠牲にして神様を生き返らそうと自分の欲のために生きてきた。
しかしそんなレグルスにとって大切なものが生まれた。
それによって罪への意識や、考え方が変わってきていた。
「リョウ君、僕ちゃんと師匠になれた?」
浅い呼吸で必死に問う。
「あぁ、おかげで…戦えた。アンリを守れたんだ。レグルスありがとうな」
必死に我慢しようとしていた雫が一滴、また一滴と土を湿らす。
「いつか罪を償って…生まれ変わってもこの日の事忘れたくないな。この数日のために僕は…生きてた」
俺の顔を見つめるレグルスは何か言いたげだった。
「何だ?」
「嫌な記憶ってずっと残り続けるよね。それがいつか爆発して…おかしくなるんだ。だから…これでいいんだ」
その言葉を聞いて俺は察してしまった。
「生きた証を捨てるのか?」
二人は意味が分からないようでただ、涙を流していた。
「二人には…そんな記憶ない方が良い。僕も消えることだし。ただ…シリウス、君は例外だ。僕のことをずっと恨んでいてくれ」
その笑顔があまりにも眩しくて、今からやる行為を止めることは出来なかった。
「…アンリちゃん最後に魔力を分けて欲しい」
「いいよ。私の魔力なんて全部あげる」
「もう少し…近づいて」
言葉通りにアンリは近づいた。
ゆっくりとアンリの手を掴みそれを引き寄せた。
「僕、次にアンリちゃんに出会った時は二人のライバル蹴散らすくらい…かっこよくなるね」
そう言って優しく手の甲に口づけをした。
「え…れ、レグルス?!」
「ヒプノシス」
二人はその言葉を聞いた瞬間、気を失ったように眠ってしまった。
「幸せにしてあげて」
「あぁ…苦しみを味わわずに死にたいか?」
魔力を消耗し、体力も消耗し、ゆっくりと死へのカウントダウンを刻んでいるレグルス。
それはきっと、辛く、苦しい時間だ。
幸福も悲哀も全てが頭に流れる、そんな時間。
「いい。僕がしてきたことと同じだ。それより…ごめんね、あれで僕を一生恨んで」
「…ヒプノシス」
その言葉を聞いた時、レグルスは非常に驚いていた。
横で何度も見せられた魔法を簡単にコピーしただけ。
上手くいくか心配だったがその顔を見れば成功だったと分かる。
「良い夢を見ろ」
これが俺からの最大限与えられる贈り物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます