ピーース
磯崎 奏(いそざき かなで)
第1話
ピース
そよ風を
頭の中に飲んで
吐き出したため息
子どもの足音と
くたばったお父さん
元気な配達の人と
話が通じないおばあちゃん
庭の掃除を野良猫に中断される人
コードに絡まった埃を綺麗に取ったが
同時に足も攣った人
リモコンの電池を変えてみるも
アンテナが壊れてたとき
街灯の虫除けの電圧がうるさくて眠れない人
でも静かな友人の家ではなんだか落ち着かない人
踏切で電車見てたらうんこも踏んでた人
コンビニの店員が思ったより優しいとき
割り箸を二膳つけてくれたけれど
一人で食べるとき
遊びに行ったら寝袋があったけど子供用だった人
コンセントにコードまで完備されてたとき
でもタイプCだったとき
犬が自分に懐いてきたけどおやつのためなとき
それを知っていても、嬉しさを隠せない人
草が上手に抜けたことを金魚に自慢する人
それを見て笑って犬に話しかける散歩の人
春の川沿いの桜と風が美しいとき
匂いを嗅いだら排気ガスまみれなとき
友達がお土産の消しゴム使ってくれていたとき
たけど使いにくそうなとき
サブスクが解禁されたけど聞いたらファンじゃない気がする人
サブスクを使いまくる古参ファン
賞味期限切れのお菓子を持ってくる友達
好きな番組が2時間スペシャルなとき
時計を確認しちゃう人
良さがぶつかってるアーティストコラボ
犬がおしっこする綺麗な道端の花。
小さな子が指を指したとき
それに謝るお母さんに微笑む人。
嘘のようにお母さんが優しくなる風邪を引いた日
風邪が治ったときの月曜日感。
アイスを3つも食べれる夏祭りの日。
お腹を抑えてアトラクションくらい長い仮設トイレの列に並ぶとき。
花火を見ながら食べる無駄に高いフランクフルト
トイレットペーパーがギリギリ足りたけど次の人を考えるとき
友達のお母さんが送ってくれるって言ったとき
それがまさかのバイクだったとき
リアルで初めて見たけど美味しくない渦巻きキャンディ
「消しゴムを使い切った」と自慢する友達の顔
客を覚えていたけどいつものが違った店主
ドアを開けたときコーヒーよりも冷気を感じる喫茶店
嫌がる友達のバイト先に行くのにシフトじゃなかったとき
虹を見た日に星も綺麗だったのを知るニート
窓の隅に住んでいたクモが少し大きくなっていたとき
「強盗にきをつける」と張り紙をしても窓を開けて出かけるおばあちゃん
タネを飛ばして芽が出たスイカを真面目に育てようとする子ども
それを見て本気になるお父さん
好きな人と同じ時間の昇降口でずっと靴紐縛ってるとき
それに気づいて話を伸ばしてあげる女の子。
久々にドーナツを食べたいと思ったらクーポン見つけたとき
結局使うの忘れちゃうとき
今日の晩ご飯をお父さんと予想し合うとき
どっちも大外れなとき
おはようと挨拶してくれる近所の人が組事務所に入ってくのを見た人
買い替えたいスマホを湯船に落としても奇跡的に無事な人
急に仕事が休みになったとき
結局やることがなくて1日を無駄にする人
台風が過ぎ去ったときの匂いと大量の落ち葉掃除
ジェラート屋さんで悩んだ挙句バニラアイスを頼む人
でもそれが1番満足するとき
銭湯に行ったら大家さんと会ったとき
話題を探して腕の筋肉を褒められるとき
川遊びで溺れている子供を助ける妄想をするカナヅチな人
テレビを見ながら俺ならこうする、といいながら、やっぱり…と悩む人
ジムでトレーナーから、センスがあると励まされていきなり120キロあげたがる人
焦って行ったけど、相手もまだ来ていなかったときの勝ち誇った気持ち
紙コップに名前を書いてくれるけど全く読めない甥っ子の文字
引っ越しで4Kのテレビをもらえたけど部屋に入らないとき
腕時計を褒めてもらえて、うんちくを語り出すけど偽物だった人
スーパーで見つけるまで、お母さんの手作りジャムだと思ってた人
枕カバーが違うと寝られない叔父さんが、ソファーで爆睡してたとき
まだまだたくさん、あるでしょう
ああ、生きていてよかったと
思える瞬間
なんの価値もなくて
誰も切り取らない
でもだからこそ美しい
誰にも知られず、ただそこにいて。
ピーース 磯崎 奏(いそざき かなで) @migiashinotume
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます