ep.5 屋敷での生活Ⅱ (3)

 屋敷の主も含めた夕食の席で、シキがここの使用人となるのだと聞かされたユーフォリアは、フォークの先端に肉を刺しながら、そうかと頷いた。


「若輩者ながら、お仕えさせて頂きます、ユーフォリア様」


「? 私じゃないよ? アルベルトはこっち」


 その場で立ち上がり、胸に手を当てて一礼するシキに、ユーフォリアは首を傾げて隣に座るアルベルトを指差す。

 すぐに、『人を指差すことは良くない』と教えられたことを思い出し、伸ばしていた人差し指を素早く畳んだ。


 ちら、と数席向こうに座るグレアの様子を伺い、気付かれなかったようだと安堵の息を吐く。

 彼女は基本的にいつも親切だったが、作法、とやらにはたまに口煩く、怒られてこの肉を取り上げられてしまってはことだと思った。


「シキ、が一緒に厨房やったら、また美味しいもの食べられるね」


 少し急いで皿の肉を集めながら、ユーフォリアが何気なく発する。


 名前を呼んでもらえたことに感激してから、シキは申し訳無さそうに眉を下げた。


「ご期待は光栄なのですが……私はさほど、調理の類には優れておりません。すぐに腕を磨きますので、今暫くお待ち頂けますと――」


 滔々と語っていたシキは、良いからいい加減に座れ、とグレアに軽い叱責を受け、詫びの言葉と共に腰を下ろす。


 舐めたように綺麗になった皿から少し名残惜しそうに目を上げて、ユーフォリアは不思議そうな表情でまた首を傾げた。


「だって、前にくれたご飯、すごく美味しかったよ。何か、ベチャってした白いやつ。前の屋敷で食べたものの中で、あれが一番美味しかった」


 懲罰の最中に差し入れられた食事を思い出して、ユーフォリアの腹がぐう、と鳴った。

 少しだけお代わりをしてもいいか、とグレアに尋ねると、明日の分を残すように、と許可が出たので、彼女は嬉々として皿を手に厨房へと向かう。


 その背を呆然とした表情で見送って、シキは両目から涙を溢れさせた。


 手で口元を覆い嗚咽を堪える彼女に、グレアがため息を吐く。


「お嬢様が戻る前に泣き止むんだよ。使用人たる者、主人に気を遣わせるんじゃない」


「……は、い……っ」


「まったく、食事のたびにやられちゃ、お嬢様に明日の分まで皆食べられちまう」


 そう苦笑いを浮かべるグレアに、シキは目元を強く抑えながら無言で深く頭を下げた。

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