紡ぐ箱

もちづき(Cadenza)

かつてのお話と現代にいたるまで。

かつての大陸は一つの国として存在し、戦争もなければ誰かが悲しむこともない世界でした。

ある意味で、肯定も否定もない何一つとして刺激のない時代でもあった。

彼らは結託して行動を起こすことができ、神はそれを自慢するほどでした。

ですが突然ある人がこう言いました。


”神の姿を見てみたい、彼らのいるところまで届く塔を作ってみないか?”


その誘いに断る理由などなかったのだろう。皆肯定した。

土木に強いもの、設計に強いもの、あるいは発見時の研究を行うものなど、多岐にわたる人材を集めていった。

集めた人数が数百に到達するころ、人々は建築へと手を伸ばしていた。

年月が進むにつれ天へと延びていく塔。

それに伴い広い範囲が地平を保たれていく。

上へ上へと延びていく中、地上は補強工事であらゆる建物を取り壊し塔が倒れないように地下へ基礎を打ち込む作業が進んでいた。

ある時に地下を掘り進めているとある男が一つの古びた箱を見つけた。

箱はところどころ朽ちており、そのうえ鎖が巻かれていた。

男がそれを拾い上げると仲間にそれを見せた。

「こんなものを拾ったんだ!見てくれよ」

「どこで見つけたんだ?こんなもの」

興味を持った人々が集まり箱の話で持ち切りとなった。

その中で一人、ある提案をする。

「この鎖を切って中身を見てみないか?」

この時その場にいた全員が言葉を失った。

しばらくの沈黙の中、一人が口を開く。

「こんなしっかりした鎖を切る工具はさすがにないぞ」

「熱して水をかけてを繰り返して脆くしてから切ればいいじゃん!」

あまりに屈託のない返答に再び沈黙が訪れる。

しかしまた沈黙を破る声がする。

「いいぜ!やってみよう。中身も気になるしな」

男たちはそういって巻き付いた鎖をほどくための手段を探す。


手段を探し始めて数週間後、すっかり話題から消え再び塔へ話題が戻っていったころ。

ある男が箱の事を思い出し箱を触れる。

すると今まで一切の変化を見せなかった箱の鎖が弾けるように消えていった。

「今なら中身が見られる?」

そう思った彼は何の迷いもなく箱を開けた。

しかし中身は何もなかった。正確には出ていった後だった。

箱の正体はこの世すべての災厄を閉じ込めるためのものだった。

箱を開けた直後、塔の方から大きな音がする。

まるで喧嘩をしているかのようで、お互いに言葉は通じていなかった。

男も普段通りに話しかけるが誰も反応せず、途方に暮れていた。

そんな中、男の前に異形が現れる。

「お前が我を解き放った。もう誰にも止められない」

異形はそういってけたけたと笑っていた。

「せめて抑える方法はないのか?」

男は質問する。

異形は笑いながら答える。

「あるさ。お前が我の一部になってくれるならな。どうする?このまま崩壊を見届けるかわが一部になって永遠を苦しむか」

「……わかった。それで事態が少しでも収束するならそうしよう」

「面白い男だ!じゃあ手始めにその体をよこせ。あとは我がやってやる」

男はしぶしぶと了承し、異形は男へ入り込んでいった。

途端に苦しみだし、男も異形の姿へと変貌してしまった。

そのあとは塔を壊し、建設に関わった関係者を例外なく始末しどこかへ消えた。

生き残ったものや当時牙にかからなかったものはいたが、彼らもまた別の被害を受けていた。

それからというもの、男の消息はつかめていない。どこにいるかすらもわからず、どの記録にも失踪したことのみが記録されている。


その少しあとに、化け物の存在が確認され始めた。


それからしばらくした後、複数の国家が乱立した。

ソル、ヴォルカ、アルネスト……いくつもの国が生まれては消えてを繰り返した。

合併、侵略、理由は様々。

その中で小さな国が少しずつ周囲の国を吸収し大きくなっていく国があった。

のちの四大国家である。

あらゆる手段を尽くし、それぞれはそれぞれの形で大国を成していった。

エアルは自然信仰を主にそれぞれ集落を離して暮らすことで争いの発生率を下げつつ国防としての志願兵を募りアトラスからの防衛を行っている。

ザラトは砂漠の中で化け物に襲われないよう砂塵が舞うエリアに建国した。

そのおかげで化け物からの攻撃はほとんどなく、あるのは食糧難くらいだろう。

アトラスは戦争とビジネスに起点を置き、その戦争による効果で得た領土でさらに研究などを行い軍事力を高めている。かつて存在した小国の大半はアトラスに潰され吸収されている。

そしてラウスは最も神話時代に近いと言われている生活方式をしており、軍事力もそれなりに有している。化け物に対しては脆弱性を持っており、最初は化け物に強い国に依頼し処理を行っていたが、次第に合併、吸収されていき、現在はラウスがすべてを担っている。

現在は言語の壁はアトラスが製造した通訳アイテムで解消されているが、以前は言語の壁で戦争が起こることもしばしばあった。

───そして現代。

戦争は減り、互いに貿易をすることで友好関係を築くことができるほどには大人しくなっていた。ラウスとアトラス以外は。

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