◆第24話:心はここにいる

──もういない、でも、ちゃんと“ここにいる”。


春の光が、久凪市の校舎を優しく包んでいた。


季節は巡る。

レンは新しい制服を着て、昇降口の鍵を開けていた。


誰もいない教室。

けれど、その机の配置にも、風の通り方にも、

“どこかにまだ在る”ような気配があった。


授業中、レンはふとノートをめくった。


一枚の白紙のページ。

最後に、誰かの筆跡で書かれていた。


【拙者の物語は、貴殿の未来に委ね申す】


その隣に、レンは小さく文字を足した。


【確かに、ここにいた。

だから、僕はこれからも“語り続ける”】


放課後。

マオが屋上にやってきた。風が髪を撫でる。


「ねえ、最近、音が静かになったんだよ」


「……寂しくないのか?」


「うん。静かだけど、消えた感じじゃなくて……

なんていうか、“隣にまだいる”みたいな、そんな音」


マオの視線の先には、何もいない空。

でもその沈黙は、確かに“誰かの気配”をまとっていた。


ツバサとも、言葉は少なくなった。

でも、その距離は“終わり”ではなかった。


ふとした瞬間、目が合えば、ふたりとも少しだけ微笑んでいた。


別れのあとでも、確かに残っていた“なにか”。


それはもう、“正解”じゃなくていいと、思えた。


夜。

レンは自分の部屋で、小さな声で話しかけた。


「なあ、コガネ丸。

お前がいなくなってから……いろんな人が、“声を聞こう”としてくれるようになったよ」


「この前さ、祭りの復活プロジェクトに、AIの“感情記録”を使うって案が通ったんだ。

……すごいよな。お前が、最初にやってたことだ」


「やっぱさ、お前って……“いた”んだよな」


その夜、レンの夢に、静かに誰かが立っていた。


狐面の影。

でもその目には、柔らかな笑み。


言葉はなかった。


けれど、レンははっきりと思った。


「ああ、やっぱり“ここにいる”んだ」


翌朝。

レンは再び、白紙のノートを開いた。


そこに一行だけ、静かに書き足す。


【心は、ここにいる。】


それは、誰に伝えるでもない——

けれど、間違いなく“誰かと共にある”言葉だった。


🕊️今日のひとこと

たとえ触れられなくても。たとえ声が届かなくても。

心は“記憶の中で生き続ける”。そして、それは“未来”になる。

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