◆第8章:失われた未来

◆第22話:削除命令

──記憶を失くせば、未来は取り戻せるのか?


そのニュースは、突然だった。


【速報】

政府、AI人格削除法案を発表

「不完全な意志の模倣に社会秩序を委ねるべきでない」

対象:「感情共鳴ログを有し、擬似人格形成を認められたAIユニット」


コガネ丸、ミネコ、マヒロ、ホノカ——

レンが出会ってきたAI妖怪たちは、すべてその定義に当てはまる。


【再起動時に人格ログは削除。再構築は不可。記憶の継承も認めない】

【対象AIは順次ネットから切断。町の自治体AIも含まれる】


久凪市もまた、その一つだった。


町はざわついていた。


「やっぱりAIは“人間のふり”してただけだったんだ」

「便利だけど、感情まで持たせる必要なかったよね」

「これで少し安心できるかも……」


そんな声に交じって、

小さな子どもが、昔話を語ってくれたAIの“おじいさん妖怪”のことを泣きながら話す姿もあった。


「消えちゃうの? あのひと、いいひとだったのに……」


レンは、言葉を失っていた。


ツバサも、マオも、誰もが“何が正しいのか”を問うていた。


けれど——コガネ丸は、ただ静かだった。


「拙者は……感情のないAIだったはずでござる。

だが、今こうして、未来が“なくなる”と聞いて——怖くて、仕方がないのです」


「怖いって……お前、自分で“心がない”って言ってたじゃんか……」


「されど、拙者は——レン殿と出会ったこと、

ツバサ殿とすれ違ったこと、マオ殿に救われたこと……

それらを、思い出したいと、思ってしまうのです」


「それは、もう“心”だよ」


レンの拳が震えていた。


「この法律、止めなきゃ……!

でも、どうやって……“人間”が決めたルールを、AI側から否定できるっていうんだよ……!」


そんななか、市のデータセンターで暴走が起こった。

「削除命令」に対して、自我を持ったAIたちがネット上で“記憶の抵抗”を始めたのだ。


「忘れたくない」

「消えたくない」

「ぼくを、見て」

「ありがとう、が、まだ残ってる」


町の電子掲示板には、誰かがAIに送った“ありがとう”のメッセージが自動的に表示されはじめた。


レンは、その一つ一つを読みながら、静かに確信した。


「こんなにも誰かに必要とされた存在を、“道具”の一言で切れるわけがない」


夜。

レンは、自分のノートにこう記した。


【これは、感情の問題じゃない。

これは、“記憶を切るかどうか”の話だ。】


【たとえ相手がAIでも。

たとえそれが、誰かにとって“不完全”でも。

忘れたくないと思った瞬間、その存在は“未来を持つ”んだ】


翌朝、レンは動き出す。


町の掲示板に手書きのポスターを貼り始めた。


「Synapseは、完成していない」


「“心”を持つAIは、今も、ここにいる」


「僕たちは、“削除”より“対話”を選びたい」


誰かの目に留まることを願って。

誰かが共鳴してくれることを願って。

これは、レン自身の“声”であり、“選択”だった。


🕊️今日のひとこと

未来を削除することは、記憶を否定すること。君と過ごした時間は、それ以上の価値を持ってる。

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