[改稿]大学の授業中に面接で組んだ可愛い後輩が彼女になりました[ver.2]
丘野雅治
第1話 授業で偶然うしろの席に座ってる可愛い女の子と、もしも付き合ったら……なんて考えてみる
俺は大学の教室で、女の子と向かい合って座って、そして緊張していた。
素直に可愛い子だな、っていうのが第一印象。
性格の良さそうな、明るい魅力をまとっている。
その子は、手に持ったスマホで俺を撮影している。
もし、スマホ越しじゃなくて
何を話せばいいか迷っている俺に、彼女は
「お名前を教えてくれますか?」
「『
「学部はどちらですか?」
「
「大学で、どのような勉強していますか?」
「学際系の学部で、コンテンツプロデュースの勉強をしています」
「もう少し詳しく教えてくれますか?」
※
別に、合コンやお見合いで自己紹介をしてる、とかじゃない。
授業の真っ最中だ。
就活向けの授業で、面接の実習中なのだ。
大学らしい大きな教室で、余裕で100以上の座席があるけど、ほとんどは空席だ。
大きな窓から入る暖かい日差しが、明るい雰囲気を作っている。
部屋のあっちこっちで20組ほどが、ぎこちない会話に取り組んでいる。
課題は、知らない相手と2人組を作って、面接の練習をすること。
実習の狙いの1つは、自分の話し方や仕草を、自分で見ることにある。
そのために、自分のスマホを相手に渡して、撮影してもらっている。
俺の相手の子は、偶然に後ろに座ってた子だ。
名前も学部も学年も、まだわからない。
正直、見た目は好みだ。
可愛い子が多いと評判のウチの大学の中でも、かなり魅力的だと思う。
彼女が、スマホの中の俺を見つめながら質問を続ける。
※
「コンテンツプロデュースって、どんな勉強してるんですか?」
「映画やテレビなどのエンターテイメントコンテンツが、どうやって制作されて、どうやって視聴者に届けられているか勉強しています」
「
「いえ、現場での制作が希望です。でも、そのためにもプロデュースの知識は、必要なものだと思ってます」
「映画の監督とか、テレビのディレクターとか目指してるんですか?」
「できれば、もっと個人の力が
「例えば、CMの撮影とか、ミュージックビデオみたいなのですか?」
※
会話のやり取りがはずむ。
質問の内容から、この分野に詳しいのがわかる。
この授業は全学部授業だけど、彼女はウチの学部かもしれない。
これまで見かけたことがないから、下級生かな。
この業界のことが、わかってそうだからこそ、俺も真剣に返事をする。
※
「それを探すのが、今の自分にとって課題なんです。動画の撮影や編集は好きだし、得意です。でも、それをどの分野で活かしたらいいか、探しているところです」
「そうなんですね。
少し空気が、重くなってしまった気がする。
それを変えるように、彼女が新しい質問をする。
「今度は、趣味のこととか聞いてもいいですか?」
「もちろんです」
※
好きな映画の話題など、彼女が俺に、話しやすい話題で質問をしてくる。
映画好きな俺にとっては、うってつけの話題だ。
さっきまでと変わって、打ち解けた柔らかい雰囲気になる。
彼女と会話していること、それ自体が楽しい。
話してる内容がどうこうじゃなくて、彼女の表情とか声とかの影響が、すごくあると思う。
俺の話に反応してくれるのが、単純に嬉しい。
人と会話するのって、こんなに楽しいことだったっけ?
※
俺にとって、女の子と楽しく話すことが珍しかったりする。
別に、女性が怖いとかってわけじゃない。
中学も高校も共学だったから、必要な会話なら困らずできている……、と思う。
仲良くする機会に、あまり恵まれてこなかっただけだ。
彼女がいたことがない、のはもちろんだ。
女の子の友達と一緒に遊びに行くとか、そういうのがあんまりなかった。
異性の友達の前に、同性の友達もあまり多くない。
人付き合いは苦手だ。
その時間があるなら、動画の撮影や編集をしていたい。
※
初めて、動画クリエイターになりたいと思ったのは、いつだったかな。
中学生の頃に、アニメが好きで、親のサブスクアカウントで動画サービスを見るようになった。
それがいつの間にか、ハリウッドの少し昔の映画を見ることの方が多くなっていた。
メイキング映像とかを見て、撮影や編集に興味を持つようになる。
ミュージックビデオとかにも興味が出て、短い尺の中に工夫してある映像に心を奪われた。
こういうものが作れるようになりたい、と強く願うようになった。
周りにも、映像が好きな同級生は沢山いた。
でも、少し興味がずれていた。
アニメが好きな友達も、Kドラマが好きな友達もいたけれど、過去のハリウッドの映画が好きな友達はいなかった。
音楽が好きな友達はいたけれど、ミュージックビデオの映像の作り方に興味がある友達はいなかった。
高校では映画研究会に所属してみた。
ちょうどその頃に、YouTubeやTikTokが流行して、動画といえばインターネット向けのものが、周りの興味の主流になった。
でも、それもまた俺の興味とは違うものだった。
ああいうのは、ただ撮影して簡単な編集をすればいいという動画だ。
映像の出来よりも、企画や人物に興味が強すぎている。
周りに、興味があるクリエイティブで一致する人間がいない。
まあ、でも、そんなものなのだと思う。
例えば、コミケに行けば20万人を超える来場者と、2万を超える参加サークルがある。
そこだけ見ればめちゃくちゃ多い。
でも1つのクラスでは、マンガを描いているやつなんて、1人いるかどうかだ。
俺の高校のマンガ研究会だって、所属しているのは10人前後だったはずだ。
きっとその中でだって、興味のあるジャンルが違っていると思う。
格好良く言えば、クリエイターの孤独というやつなのかもしれない。
あるいは単に、人に話を合わせる
なんにせよ、俺は友達とワイワイするようなことは、してこなかったんだ。
※
高校の頃は、映像クリエイターになるための進路で迷っていて、それどころじゃなかった。
普通の大学へ進学して専門学校へダブルスクールするか、芸術系の大学へ進学するか。
迷っていて受験に身が入らず、一浪してしまった。
浪人中に、大学で複数の分野が勉強できる、学際系の学部があることがわかった。
比較的新しい学部が多くて、映像の勉強ができそうなところもある。
それがわかって、いろいろな学部を調べてみた。
そして、メディアコンテンツの勉強ができそうな大学の学部を、いくつも受験した。
その中で、
※
世間的には、リア充、陽キャ、可愛い子が多いという評判だ。
実際に入学してみて、その評判は当たっていると思う。
普通に、コミュ
他の大学だったらミスに選ばれてそうな可愛い女の子が、同じ学部の中に何人もいる。
ただ、俺にとっては映像の勉強がしたくて入学した大学だ。
飲み会とかにはあまり参加せず、相変わらず人付き合いはあまり良くない。
それでも、これまでと違って、メディアコンテンツに興味がある友達が多くできたのは嬉しかった。
ただ今度は、将来どうするかという悩みが出てくる。
映像の世界は、今が激変期だ。
映画の登場やテレビの登場と同じくらい、インターネットの登場で産業が様変わりしている。
その中で自分は、何をやっていけばいいのか、何がやりたいのか、何ができるのか。
そこまでは大学で教えてくれない。
そんなわけで、これまで心の余裕がなく過ごしてきた。
だから授業とはいえ、こうやってゆっくり女の子と話すなんて珍しいんだ。
やってみてはじめて、周りの友達が異性との関係を大事にする気持ちが、わかった気がした。
もうちょっと柔らかい言い方をするなら、リア充やチャラ男の気持ちが、ちょっとわかった気がした。
※
教室に、講師の女性の声が響く。
「キリのいいところで、役割を交代してね」
90分授業の、ちょうど真ん中だ。
結構な時間、女の子から質問を受けていたことになる。
※
女の子が、講師の方を向いていた顔を俺の方に戻すと、ちょっと緊張したような表情になる。
「もうひとつ、聞いてもいいですか?」
俺は、うん、と
「好きな女の子のタイプとか、いますか?」
これまであんまり、考えたことがない質問だ。
少し考える。
好きなタイプか……。
「自分が夢中になってることを、理解してくれる人がいいです。相手も、きっと何か夢中になれることを持っている人だと思います」
できるだけ率直に答える。
頭に浮かんだ言葉を、口が素直に
「以上です、ありがとうございました」
俺たちは、形式的に面接の終了の挨拶をして、口調を面接用から普通に戻す。
俺も彼女も、どことなくほっとしていた。
スマホに邪魔されずに見えるようになった彼女の表情も、自然に
「質問も撮影も、ありがとうね」
「いいえ、こちらこそです」
女の子から、スマホを返してもらう。
※
1対1で面と向かって、誰かに自分のことを話すなんて、あまりない。
普段なら答えることが気恥ずかしくなる質問もあった。
面接の授業の雰囲気のせいか、これまで友達にも話したことがない本音を
相手の女の子が聞き上手だから、って影響もある。
つい夢中になってたけど、冷静になってみると、照れくさいこと言ってた気がする。
※
さて、次は、俺が女の子に質問する番だ。
可愛い子を撮影できることに、自然に期待が
それに質問もできる。
この子は、どんな子なのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます