高校生に回帰したから夢の秘密基地を作ったのに、何故か美少女達が集まってくるんだけど???

薄明常世

回帰、発見



「……もう、限界かもしれないな」


時計は午前3時を回っていた。

デスクに積み上がった資料、無言のまま点滅を繰り返すチャットアプリ。

目の奥が痛む。背中も腰も、感覚がない。




社内には、俺以外もう誰もいない。

“働き方改革”という名の建前は、ここにはなかった。


終電?そんなもの、とうに諦めた。

寝る時間も、休日も、まともな食事も、全部、仕事に奪われた。


「高学歴T大卒なのに、こんな簡単な仕事も出来んのか?」


「すみません」


「ったく、使えねぇよなぁお前はいつまでも」



まただ。

今日も続いた上司からのパワハラ。


そもそも今やった仕事は本来はあんたの仕事なのに。


『やりがいがある』『社会貢献できる』


なんて就職する時に調べたはずなんだけどなぁ……。

サービス残業だから残業代なんて出ないし、2時、3時に退社してもまたすぐ出勤もザラだ。


休日なんてまともに取れたこともない……。



馬鹿にされない為に必死に勉強したはずなのに、どうしてこうなってしまうのか……。


だけど――


「……やめる、なんて、言えないよな」


住宅ローン。奨学金返済。将来の不安。

立ち止まったら、もう終わりだと思っていた。


でも、終わったのは、俺のほうだった。


足元がふらつく。視界が揺れる。

手にしていた書類が、宙を舞う。



「……ああ、やっと……眠れる」




意識が、深い闇に落ちていった――。









……はずだった。




気がつくと、眩しい光が差し込んでいた。

カーテンの隙間から射す朝日。聞き覚えのある鳥の鳴き声。

硬いけど、妙に懐かしい布団の感触。



「ん?どうしてベッドに?」



ゆっくりと体を起こす。


妙に体が軽い。

それに見慣れた部屋があった。



友人から貰ったアニメのポスター、古びた机。

そして、高校時代に着ていた制服……


制服????



慌てて鏡を覗き込んで驚く。



「うっそだろ…おい???」



そこには疲れきって隈が濃く、ガリガリの自分ではない、勉強を必死に頑張っていたあの頃の自分がいた。


慌てて西暦を確認するため、スマホを探る。

あった。その機種を懐かしみながら、画面に表示された日付を確認すると、


「20××年??4月9日……高校2年の頃だ。まさか、本当に戻ったのか??」


衝撃だった。

多分俺は、そのまま過労死したんだと思う。




当たり前だ。過労死ラインと呼ばれるラインを限界突破していたから。



「うわ、もう時間がないな……流石に新学期だし、遅刻はまずい」


とりあえず学校向かうか……と、懐かしい制服に身を包み、学校へと向かった。





「うわ、懐っ……」


改装中の工事だったり、潰れる前のコンビニだったり。

本当に戻ってきたことを実感した。



「やっぱり、C組か……」


2年、3年のクラス決めなんて、生徒用の玄関に張り出されるだけだ。

自分がどのクラスになるか、ドキドキのクラス決めだけど、どのクラスになるかは知ってるため、どこになったか確認もせず、C組の教室を目指す。



そしてC組に入ると、やはり懐かしい顔ぶれが揃っていた。



そのうちの1人、妙にぽっちゃりとした体型の男子生徒が話しかけてきた。


「おお!晴人氏!一緒のクラスですな!」


ビシッと警察官の敬礼の真似事をしている彼は、佐伯ユウト。

アニメやゲーム好きなオタクで、ずっと俺の事を気にかけてくれた友人だった。



「ちょっ、晴人……??なんで泣いてんの??」


ユウトの口調が崩れるくらい、俺は泣いていたらしい。


そりゃ泣くよ。


『ムリすんなよ。たまには飲みに行こうな』


って、既読スルーで返信も返せない俺に、毎日LINEを送ってくれていたんだから。


ユウトは幸せに過ごしていたもんな……。


「あぁ……ユウトと同じクラスになれて嬉しかったからだよ」


「ふっふっふ。まぁ晴人氏の唯一無二の親友ですしな」


「うるせいやい」


いかんいかん。

思い出すのはここまでだ。


せっかく戻ってこれたんだ。


今度はやり直してみせる。



「ガリ勉、オタク!お前らと同じクラスかよ…はぁ、ついてねぇわ」



ドクンッと俺の心臓が跳ねる。


ああそうだ。

こいつがいたんだった。


神谷光輝かみやこうき

こいつはユウトをオタク、そして俺はガリ勉とバカにしていた。

顔が整っていて、よく女を食い物しているが、性格は相当終わっている。


そして……あの頃の上司がこいつだった。


こいつの父親が会社の社長だったようで、いわゆるコネ入社し、出世コースを歩んでいた。




「お前って、ホント損な性格してるよな。全部一人で抱え込んでさ。頑張ったところで俺の足元にも及びませーん笑笑。お前が必死にやってた勉強とやらも、選ばれない人間には全く無意味でーす」




何度も言われたこの言葉が脳裏から離れない。


何が光輝だよ。

良いの名前だけじゃん。



「ったく、陰気臭ぇ……」


つかつかと自分の席を見つけた神谷は、つるんでる男子生徒との会話に混ざっていった。



「はぁ、本当に最悪だよ……まさか神谷なんかと一緒になるなんて」


とユウト。


ユウトと神谷が同じクラスになるのはこの年だけで、3年生になると離れる。

でも俺は、3年も一緒のクラスになる。


何かと神谷とは関わりが多くて死ねる……多分死んだけど。



「おい、そろそろ席に着け」


担任の男性教師が入ってきて、集まって喋っていた他の生徒が自席へと戻って行った。




その後始業式が終わり、今日は正午で下校となる。



「ったく、後ろで神谷達が喋っててうるさかったよ」


プンスカ愚痴を話すユウトと俺はそれぞれ帰路を目指していた。

もう昔の喋り方みたいなやつはしないのか。


途中まではユウトと帰り道が一緒なため、こうして帰って行くことが多かったな……。


「そういや春アニメ……『涼風さんの憂鬱』もう見た?」


そういえばこの頃のアニメはそれが流行ってたな。


「ああ、オリジナルアニメの?」


「そう!有名な脚本家だから見ててめっちゃ損しないよ!見てなかったらマジで見るのおすすめ!」



確かにユウトに言われて見た事あった。


でもそれって確か、2、3話後にアニメ史に残るエンドレスエイトがあったような……楽しみにしてるユウトのためにも言わないようにしておこう。


「そういや帰ったら晴人は何すんの?やっぱり勉強?」


「んー、そうだなぁ……」



高校時代というより、学生時代は勉強すればなんとかなるなんて甘い考えを持ってた。

青春を謳歌するような、それこそ普通の高校生が送るような日々というものを、俺は送れていなかった気がする。



正直、高校時代の勉強は今の俺には苦にならない。

というか、勉強に疲れてしまった。



「とりあえず散歩しようかな」


「僕と同じ普段は引きこもりの晴人が外をでる!?!?頭でも打った?」


「うるさいやい」


なんて会話を楽しみながら家へと帰った。

家…というか、高校に入学してからは一人暮らしをしていたため、帰っても1人だ。


荷物をポイッと置いて、外出用の服装…といっても、パーカーとジーパンに着替えて、スマホとか貴重品とかを持って早速散歩に出かける。



散歩……といっても、目指す場所は1つ。


学校近くの森だ。



回帰する前の俺や他の生徒達や教師、近隣住民でさえ、滅多に近づかないこの森を、戻った俺は探索したい。



ちょっとワクワクしてきた。


森の中は昼過ぎということもあり、陽の光がところどころ地面を照らしている。


なんでもっと来なかったのかと思うくらい、空気が美味く感じた。


柔らかい風が、ほのかに草の匂いを運んでくる。



なんでこんなにも人が近づいてこないのか不思議なくらいだ。


だが、少し奥へと進むと、段々と道らしい道がなくなってくる。


枝が肩にかかり、蜘蛛の巣が頭をかすめる。


「やばい、奥深くに来すぎたか??」


なんて、心配しながらも探究心の方が強く、さらにさらに奥へ進む。



と、――そこに、あった。


 木々に包まれるようにして、ひっそりと建っていたのは、朽ちかけた一軒の小屋。

 まるで森がそれを隠そうとしているみたいに、枝葉が壁にかぶさっていて、少し離れていたら気づかなかっただろう。


 屋根の一部は沈み、外壁は剥げて、木材がむき出しになっている。



「こんなところに、こんな建物があったのか」



半ば呆然と立ち尽くす。小屋は森に溶け込むように朽ち、壁には苔が生え、屋根のトタンは錆びついている。

だが、その佇まいはどこか懐かしく、胸の奥にぽっかりと穴を開けた子どもの頃の記憶を呼び覚ました。



 ふと、胸が高鳴る。



 「これだ」


理由もなく、そう思った。


誰にも邪魔されず、自分だけの時間を過ごせる場所。

過労で失ったあの日々の分まで、大切にできる場所。




ここを秘密基地にしよう。




 俺はゆっくりと藪を抜け、小屋へと歩み寄った。

 足元の草が音を立てるたびに、心臓が跳ねる。


 小屋の前に立ち、古びたドアノブに手をかける。

 埃っぽい軋みを上げながら、扉がわずかに開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高校生に回帰したから夢の秘密基地を作ったのに、何故か美少女達が集まってくるんだけど??? 薄明常世 @kam1225

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ