拗らせ本読みのつくりかた

Mad Fruits Company

マイスタージンガーをうたって

 中1の夏休みの事は良く覚えている。

 それは可愛がってくれた祖母が亡くなったせいかもしれないし、久しぶりに会った、公立に進学した地元の友達が垢抜けて別人の様になっていたのがショックだったからかもしれないし、単に例年より暑かったからかも知れない。

 などという導入口上はここで全部否定しておく。

 その夏が特別なのは、わたしが23キロの減量に成功したからだ。

 率直に言ってその夏わたしはデブだった。

 ぽっちゃりなどという虚栄と半端な優しさが作り出した単語を当てはめるのが憚られる程度にはデブだった。もっと正確にいうと145センチの70キロだった。

 自身の容姿よりも、目の前の快楽と趣味を優先した悲しきモンスターだったわたしが、修行時代の刃牙の様なトレーニングにあけくれるきっかけとなった一冊が、上遠野浩平著、『ブギーポップは笑わない』だった。

 中2病真っ只中。文学こそ至高。全てのライトノベルに否定的だったわたしが、まんまとライトノベルの金字塔たる作品に触れ、中二病らしくどハマりしたのだ。

 火に油。気違いに刃物。中学生にブギーポップである。

 要するにわたしは霧間凪になりたい一心でハリウッドの役作りレベルの減量に成功したのだった。40日を全振りして得たのは文化部にあるまじき筋量と手付かずの宿題。

 霧間凪にはなれなかった。

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