第3話 自衛を決意してみた
だからといってすぐ放り出されるわけではなく、ちゃんと決まるまでは宿舎にいていいし面倒も変わらず見てくれるってことだった。
「ドークリーはどうせ戻ってきてもすぐ刑務所行きだから、何もかも売り払ってやったわ! 付添人を雇って家を建ててもじゅうぶん余るし、ちょっと贅沢しても平気なくらいにあるから安心してね!」
と、ラクシャリーさんがすごくいい笑顔で俺に言った。……俺よりもラクシャリーさんのほうがドークリー氏を恨んでいる気がする。
ドークリー氏はいったいラクシャリーさんに何をしたのか……あ、尻拭いばかりやらされてたんだっけ。
「ふーん……ドークリー氏は金持ちなんだな」
と何の気なしに言ったら、ラクシャリーさんが途端にスンとした顔になった。
「……彼女は、現首相の娘なのよ。本来は彼女の若さと仕事っぷりで稼げる個人資産じゃないの。父親から愛情とともにたっぷりともらった資産よ。家だって、一等地に最先端の魔道具を揃えたお屋敷だったもの」
ラクシャリーさんが吐き捨てるように言った。
…………ちょっと待て。
「現首相の娘?」
おいおい、そんなんから搾り取って、しかも娘が行方不明とか。俺……逆恨みされるんじゃね?
「そう。だから、現首相が外国に行っている間に片をつけたのよ。絶対に横ヤリを入れてくるだろうから! 揉み消すことはさすがにしないだろうけど圧力はかけたでしょうし、なんなら貴方に責任を負わせたかもね。まぁ、局員一丸となって阻止しますけど!」
フフフ……とハイライトの消えた目をして笑うラクシャリーさん。
いやいやいや。より恨まれるだろ。首相が帰ってきたら俺の命が危ない。
俺は思わずラクシャリーさんに尋ねてしまった。
「刀……はないにしても、剣とかある?」
ラクシャリーさん、俺の突然の問いに硬直して、ワケがわからないという顔をした。
「いや、冗談だけどさ。棒でもいいんだけど、長いヤツ」
魔法が使える世界でどこまでやれるかわからないけど、自衛はしたい。魔法の国でバトルになったら負け確な気はするが、諦めたらそこで試合終了だ。
俺はじいさんから
何せ、この世界の〝魔法使い〟って、そこだけアニメのセオリー通りにローブを着ているんだものな。あんなんじゃ素早く大きく動けないだろ。まだ裸の方がマシだ。
俺もローブを勧められたけど、寝るときだけ借りて、あとは洗浄魔法でキレイにしてもらった自前の服を着ている。
ラクシャリーさんは俺を凝視していた。
「やっぱり……。まさかとは思っていたんだけど……貴方は、魔法を使わずに重い物が持てるのね? 驚きだわ」
って、俺こそ驚くわ! ってことを尋ねられた。
ラクシャリーさんからぶっちゃけられた。
最初に俺が現れたとき、あの場にいた人たちは全員、俺が怖かったらしい。
怒らせたら殺されるんじゃないかって感じていたそうだ。
どうりで……俺の一挙一動に飛び上がることがあると思ったんだ。
確かに俺って向こうでも「たまに怖い」って言われるときがあったので、ちょっとは自覚してる。いきなり知らないところに移動させられたからピリピリしてたし。
「いや、俺のいた世界もここと同じくらい平和だったから殺すとかないから。ただ、魔法が使えないから重い物を自分で持たなきゃいけないし、自分の足で歩かなきゃいけないし、自衛のために剣を持つことだってあるし」
って一応は弁解した。
翌日から俺は、じいさんから習った稽古を再開した。
帰ってきた首相がどう出てくるかわからない。世話になってる手前、稽古は控えていたんだけど、魔法の使えない俺には己の肉体しか武器はない。
今のままで『怖い』と思われたのなら、その次のステップ『手を出さない方がいい』と思わせれば、向こうに帰るまで安全に暮らせる、はずだ。
ラクシャリーさんは、
「国の代表として各国を回っているから、いっくら可愛い娘が犯罪者になって行方不明だとしても、そうそう切り上げて戻ってこられないわ」
って言ってるので、戻ってくるまでにトレーニングして勘を取り戻す。
俺も自分自身の安否がかかってくるので、絶対に手を抜かない。
基礎練をする俺を化け物でも見たのかって顔で見ているラクシャリーさん。
俺がいぶかしんでラクシャリーさんを見ると、我に返って赤くなり、走って出て行った。え、彼女、今日の付添人じゃないの?
……いいけどね。
部屋の中にいる分なら魔法を使える人がいなくても特に問題はないから。魔法がないと困るのってドアの鍵だけだ。
つか、ドリンク飲むくらいで魔法を使う気が知れない。
魔法の使いすぎで自分の体の使い方を忘れたんじゃないのかって思う。
ちょっと歩くだけの距離なのに床を移動させようとするとか、あり得ないんだけど。
そんなことをつらつらと考えてたら、ふと思いついた。
「おいおい、魔法使いがローブを着てるのって……メタボを隠すためなんじゃん?」
あんなに動かないんじゃ、若い頃からメタボだよな。……ん? でも食事は野菜中心の煮物だからヘルシーっちゃヘルシーだな。筋肉がないだけか。
稽古を終えてシャワーを浴びた。
ここで気がついた。……まずい、着替えがない。やっぱり魔法がないと不便だった。
せめて洗濯の魔道具はほしいなと思っていた矢先にラクシャリーさんが他の人を連れて戻ってきた。
「ちょうどよかった。悪いけど汗かいて汚したから服に洗浄魔法かけてくれねー?」
話しかけたのに、皆が俺を見て呆然としてやってくれない。いや、下は履いてるからいいけど、それでも寒いんですけど。早くやってくれない?
「……これは……見たこともない。確かにアレをどうにかできるかもしれん」
って、わりとじいさんな人が言った。会うのは最初と昨日の話し合いのときの二回だな。
「えーと、洗浄魔法」
繰り返したら、真っ赤になっているラクシャリーさんが慌てたようにかけてくれた。新品のように綺麗になった。
それをモソモソと着ていたら、じいさんに、
「試してもらいたいことがある。ついてきてもらえないか」
って真剣な顔で言われた。
「私は遺失物管理局局長のホーン・ビーネだ。今から行く場所には、昔使われていたさまざまな道具がある。その中で『古代遺跡物』という、いつ作られたかどころか使い方すらわからない遺失物があるのだ。その一つを見てほしい」
歩きながら説明され……正確には移動しながら説明された。歩いているのは俺だけで、他の人は魔法で動いている。俺にもかけようとしたけど断った。
「疲れたらかけるから気軽に言ってくれ」じゃない! こんな距離、たいしたことないんだからアンタらも普通に歩けっての。
廊下を何度も曲がり、奥の奥、何重にも扉があり、さらに先に『重要遺失物管理室』というプレートが掲げられた扉があった。
中に入ると、棚や床にさまざまな物が置いてある。
そこの、一番突き当たりにソレはあった。
――幾重にも鎖が巻かれつながれた、きらびやかな剣だ。
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