異世界転移者、魔剣を携え旅をする~魔法が使えないけど、愉快な古代遺跡(生)物たちが助けてくれるので問題ナシです
サエトミユウ
第1話 異世界転移してみた
俺、
アニメお約束の異世界トラックに連れてこられたわけではないし、床に魔法陣が出たわけでもない。
襖が異世界につながっていたのかもしれないと思い振り返ったら、襖も何もかも消えていた。
周囲には人がいて、これは友達が話していた異世界召喚の話に似ているんじゃないかって考えた。
……だけども、周囲の人たちも啞然としているように思える。
「……えーと、俺を呼んだのは貴方がたですか?」
念のため、世界共通語で話しかけてみた。
そしたら、
「■■■■■■■■■■」
って、返された。
うん、何を言っているのか解らない!
硬直していたら、そこにいた人たちがヒソヒソ話し合い、その中の一人が何かつぶやきながら、手に持っていたタクトを振った。
すると、キラキラしたものがその部屋に降り注いだ。
タクトを振った人が恐る恐る話しかけてきた。
「……私の言葉が理解できますか?」
おぉ!
通じる、通じるよ!!
俺はホッとして親指を立てた。
「オッケー! 理解できるよ!」
周りもホッとしたみたいだ。
「……で、さっきの言葉をもう一度言うけど、俺を呼んだのってアンタたちなの?」
俺はもう一度尋ねる。
「違います、私たちは貴方を召喚していません」
と、話しかけてきた人が答えた。
「じゃあ……なんで俺がここにいるかわかる?」
話しかけてきた人はキョトンとした。
「それは……あなた自身が転移魔法でここに来たからじゃないのですか?」
って言われたんだけど。
「それだけは絶対に違う。だって、俺のいた世界には魔法がないからな!」
俺はキッパリ言い切った。
絶句する人たち。
……あ、念のために聞いておこう。
「ちなみに、ここって日本……いや、地球じゃないよね?」
一斉に首を横に振ったよ。
よし、深呼吸して落ち着こう。
スーハーした後、状況を確認した。
周りは石造りの部屋で、大きなテーブルと椅子が置いてある。
灯りは蛍光灯じゃなくてランタンだったりする。
もう一度振り返って確認したが、やはり俺の部屋につながる襖は消えていた。
次に、目の前の人物を確認する。
……年齢は俺より上ばかりに見える。
ローブを着ていていかにも『魔法使いです!』みたいな格好をしている。
王様っぽいのも姫様っぽいのもいない。以上。
次はコミュニケーションといこう。
攻撃的ではなさそうだし、言葉がわかるような何かをした、ということは話し合う気はあるってことだ。
それに、俺をここに呼んだわけでもなさそうだ。
というわけでその場にいる人たちに話を詳しく聞いた。
――ここはニャッギャルニラ国というらしい(ちなみにネイティブだと違う発音で、俺が無理やり近い発音に直した)。
星の名はなく、
ここは誰もが魔法を使えて、さっきやったのは翻訳魔法をかけたんだという。
俺がここに来たのは、十中八九転移魔法の失敗からということだ。
だけど……俺は使えないし、俺の周りで使える奴もいなかった。
「使える」って言い張ってた奴は昔いたけど。
目の前の連中は「ここに呼んだのは私たちではない」と主張している。
……だが、何かを隠しているというか、濁しているような雰囲気だ。
なんとなく解っているけれど言いたくないという感じかな。
なので、語気を強めて詰め寄った。
「なぁ、ホンットーにアンタたちが俺を呼んだんじゃないのか? どう考えても元いた世界からここに来るためには、ここにいる人が呼ばないと無理だと思うんだよ。元いた場所は、転移魔法なんて存在しない世界なんだから!」
そしたら、大げさにビクッとされ、顔を青くされた。
いや、そこまで驚かなくても……。
翻訳魔法を使った人が慌てたように「ちょっと長くなりますので」と椅子を勧めてきた。
全員が着席したところで「推測ですが……」と言いながら語ってくれた。
――ここは政府の局で、ここにいる人たちは局員だそうだ。
そして今日は重要会議で局員がここに集まっているのだが……現時点でまだ現れていない者が一人いるという。
その者は、あわてんぼうでおっちょこちょいの遅刻常習魔、しかもけっこうな頻度で魔法を失敗するのだそう。
なぜにアヤツがこのエリートが列なる私たちの仲間なのだと首をかしげたくなるほどに!(と、翻訳魔法をかけた人が語気を強めた)
「あくまでも推測ですが……アヤツが遅刻しそうになって慌てたせいで転移魔法に失敗し貴方をここに飛ばした、としか考えられません」
アヤツへの怒り半分、俺への同情半分といった感じで推測を語られた。
…………その場合、俺はどうすればいいんだ?
勝手にここに送られて、送った奴は行方不明。
ここに来てないってことはたぶん……俺の世界に行ってるよな? なんとなくそんな雰囲気だもんな。
いっそ俺が送られてきただけならアヤツとやらに責任をもって送り返してもらうんだけど。
「……ちなみに、アンタたちに俺の世界に俺を送り返してもらう事ってできるの?」
俺の問いに、全員がうつむいた。
え、マジで帰れないの……?
俺がショックを受けていると、翻訳魔法をかけた人が俺をなだめるように提案してきた。
『事実が判明するまでは、会議を開いたことにより起きた事故ではあるので局員が保護する』
『アヤツの行方と原因究明を早急に行う』
『原因が判明したら対策を必ず行うので、それまで待ってほしい』
『本当に魔法が使えないか試してもらいたい』
以上のことを挙げられた。
……魔法か……。
もしかして使えるようになったんじゃないかな?
アニメだと、異世界転移すると魔法が使えるようになってたりするし。
俺は咳払いした後、手を壁に向かって突き出した。
「ファイヤーボール!」
……………………。
ハイ何も起きませんでしたー。
ものっすごい恥ずかしいんですけど!
だって、こんな感じでやってたんだよ!
魔法を使えるって言い張ってた奴がよ!!
頼むから、真っ赤になった俺を『かわいそうな人を見る目』で見ないでほしい。ツライから。
「えぇと……。まず、杖を使わないと魔法はうまく使えませんね」
そっと教えてくれました。
知らねーよそんなん!
半ギレしながら指揮棒みたいな杖を貸してもらった。
「これは万能型の杖でセーフティ機能もあるのでうんたらかんたら」と説明されたけど、よくわからない。
とりあえず振ればわかる、と言われたので振ってみた。
何も起きない。
「…………魔法は使えないことが確実になりました」
と、容赦のない宣告をされた。
ついでに魔法使いへの華麗なる転身の、夢と妄想が打ち壊されたのだった。
この世界にも魔法が使えない人は数は少ないが生まれるそうだ。
その場合、家が裕福なら介護されるが、裕福でない場合は施設に行く。
何しろこの世界、何もかも魔法で行う。
明かりをつけるのも、料理をするのも、移動すら魔法。
魔法が使えないと暮らせないと言っても過言ではないそうだ。
「魔道具は魔法がいりませんが……魔法が使えないと家にすら入れません」
と、非情な事実を突きつけられ、俺は会ったこともないアヤツとやらを本気で恨んだ。
……確かに大学を卒業したら海外に行って放浪しようかって思ってたけどさぁ!
まさか、異世界を放浪することになるとは思わなかった。
世界共通語も完璧に習得したってのに、意味なしだよ……。
ガックリしながらもさらに話を聞いた。
とりあえず施設に行けばいいのかって思ったけど、そこって魔法が使えない……つまり翻訳魔法がない。
言葉の壁にぶち当たるということだ。
結局、しばらくの間はここにいる人たちが俺に言葉を教えつつ面倒をみてくれることになったのだった。
最初に俺についてくれたのは、翻訳魔法の人だ。
たぶん年上の女性。
年齢が俺のいた世界と一緒かわからないが、俺より年上って雰囲気だ。
「ヒルデ・ラクシャリーと言います。全局長官をしています」
「俺は緋榁卯月だ。卯月って名前が嫌いなんで、ヒムロって呼んでくれ」
「ヒムロ氏ですね。わかりました」
ラクシャリーさんがうなずいた。
ラクシャリーさんが、役所の宿舎の空き室に住むように手配をしてくれた。
最初は寝るまでは付き添ってくれて、朝も時刻になったら起こしに来るってことで話がついたのだ。
いろいろ説明を受けてたけど、合間にアヤツの悪口が挟まった。
「絶対アヤツが犯人」「遠くに行けとは思ってたけど、こんなことをしでかすとは思わなかった」「重要な会議が流れた、つかそれどころじゃなくなった」「ただでさえ忙しいのに仕事がさらに増えた」「アヤツが犯人じゃなかったとしても暢気に惰眠をむさぼっていたらギルティ」
ひぇえ、怨念がこもってる……。
怨嗟を合間に挟みながらもラクシャリーさんは俺の面倒をよくみてくれた。
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