極楽浄土の三叉路

昆布出汁

宵闇の悪路

 夜のさえずりに囲まれながら気付くと私は、どこかもわからない線路の上に立っていた。周囲は木々に囲まれ、とてもじゃないが周囲に人が住んでいるような場所ではない。全く夜というのは不思議なもので、過去にも現在にも、未来にもつながる、とても不安定な時間の境界なのだ。だからこそ、時間に流されるしかない人間は、そこに留まるよう息を潜めるしかないのである。森だというのに生命の息吹などまるで感じられず、風の一つも吹かない。ただジトリとした不快な空気だけが私を取り囲み、やがて私に一言告げるのだろう。『お前が留まるのはここではない』と。


 いつしか宵闇にも目が慣れて、線路の先に延びる暗闇を覗けるようになってきた。今のところ目に入るのはひたすらに伸び続ける線路のみだが、線路なのだからいずれ終わりがあるはずだ。そう、人生と同じである。始まりがあって、途中があるならば必然的に終わりも存在する。これは森羅万象の決まりであり、所詮はそれが長いかそうでないかの違いでしかないのだ。そうすれば私がやることはただ一つ。ひたすら伸びるその線路を、自身の足で進むだけである。私の足がどれだけ持つかはわからないが、きっと私が望んだ光に届くだろう。

 線路とは歩くことを想定していないため、当然ながら途轍もなく歩きづらい。時たま足が枕木に引っかかるし、何より線路に敷き詰められた小石が一々動いて、足の踏み込みを阻害するのだ。やはりこんな道、歩くものではないなと改めて感じる。でもそれは人生も同じ。人生も時々引っかかる障害物があって、同じようにままならないような足場もある。つまり線路を歩むということは、人生の歩みを進めるのと同義なのだ。でも人生は歩かなければいけない。歩かなければ何も得ることもないままに人生が終わってしまう。それは私にとってとても辛く、意味のない虚空にしか成り果てない。ならばただひたすらに歩みを続けよう。いつしか迎える終わりを待ちながら、脚を動かそうではないか。

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